義姉になった姉が本気を出してきた4
あれから三週間ほど経った。
今日は父さんと母さんが転勤先に向かう日。
あれ以来真琴との会話はさらに少なくなり、意図的に朝食を一緒に食べようとしないことも何度があった。
なおさら俺と別に暮らした方がいいのではと、言ったこともあったが、頑なに真琴は残ることを選んだ。
「じゃあ、母さん達行くけど、ちゃんとご飯食べるのよ。それと自分の部屋は自分で掃除すること。特に和馬」
「わかってるって」
「たまには帰ってくるからな」
「はいはい……父さん達も無理するなよ」
「じゃあ、元気でね。二人共、お母さんがいなくてもちゃんとするのよ」
「母さん……一生の別れじゃないんだから、そんなに泣くなよ」
「だって……」
まさかここまで母さんが号泣するとは。
「そんなに辛いなら、別についていかなくてもいいんだぞ? 一人で大丈夫だから」
「お父さんが一人で生活できるわけじゃない」
泣くのをピタリとやめた母さんの辛辣な言葉が父さんに突き刺さる。
「そ、そんなことないよな。なぁ、二人共」
俺達は何も言わず、明後日の方角へと顔を背けた。
「さ、行くわよお父さん。二人共、元気でね。何かあったら電話するのよ!」
項垂れる父さんと共に母さんは乗車。
二人が乗った車が見えなくなるまで、俺達はその場でお見送り続けた。
二人きりになった俺と真琴。
正直気まずい。
「あ、あー腹減ったな」
夕飯には早いがこの空気を打開する糸口として大袈裟につぶやいてみる。
「食材がないから先に買い物行ってくる」
「それなら俺も手伝うよ」
「いい。あんたは留守番。あと荷物届くと思うから受け取っておいて」
さらりと断られてしまった。
仕方なく俺は留守番することに。
真琴が出ていってから三十分後、家のインターホンが鳴り響く。
「はい」
「すいませんシロネコムサシです。南沢真琴さん宛にお荷物をお持ちしました」
真琴が言っていた荷物だろう。
すぐに玄関の扉を開け、サインをして荷物を受け取る。
クール便だから、食材だと思うけど。
気になって品名を確認しようとしたところで、再びインターホンが鳴った。
珍しく来客か?
「はい」
「すいませーん。佑山急便です。南沢真琴様にお届けものです」
またかよ。
「今開けます」
再び扉を開け、サインをしてダンボールを受け取る。
その際、ガラス同士がぶつかるような音がする。
何かのドリンクか?
「あ、まだあるので」
え、まだある?
配達員は同じサイズのダンボールを一箱、二箱、まさかの三箱持ってくる。
「ありがとうございましたー!」
真琴の奴どんだけ買ってんだよ。
てか何買ったんだよ本当。
再び品名を確認しようとしたが、またしてもインターホンに阻まれる。
「……はい」
「すいません。郵便局の者ですが、南沢真琴さん宛に小包が届いてます」
三度扉を開け、サインし荷物を受け取った。
触った感じ、本のような気がする。
「ありがとうございました」
郵便局の人が去ってから、今までにきた荷物を眺める。
今までこんなにも荷物が届くことなんて、じいちゃんばあちゃんが野菜を送られてくる時ぐらいだぞ。
「ただいまー、荷物届いてる?」
ちょうどそのタイミングで真琴が帰宅。
すぐさま荷物について問い詰める。
「おいおい、なんだよこれ。前は無駄遣いはしないようにって言ったくせに、自分は買ってんじゃねぇかよ」
「私がバイトで稼いだお金で買ったものなんだから、関係ないでしょ」
そう言われてしまうと反論できない。
「ほら、さっさと二階に行きなさい」
邪魔者を追い払うかの如く、シッシッと手を振られた。
少し頭にくるが手伝う必要がないというのだからお言葉に甘え、部屋で夕飯ができるまでゆっくりしよう。
部屋に行き、積み本になっていた漫画を読み始める。
それから二十分後、尿意を感じた俺は、トイレに行こうと扉を開けた時だった。
二階からでも届く香ばしい香りに鼻腔をくすぐられた。
俺は目的をそっちのけで、匂いに釣られてキッチンへと赴く。
こっそりと覗くと、真琴が鼻歌混じりに何かを揚げている。
俺の視線に気が付いたのか、おもむろにこちらに振り向いた。
「何よ、こそこそして」
「いや、なんかいい匂いがして」
少し恥ずかしさを覚えながら、調理の様子を伺う。
「フライ?」
「牡蠣フライよ。あと、鰻の蒲焼」
豪華なおかずに俺は目を丸くした。
「え!? なんでそんな豪華なんだ!?」
「安く買えたのよ。嫌だった?」
「そ、そういうわけじゃないけど。そっかー」
と、平静を装おうとしたが、口角が自然に上がってしまう。
「もう少しで出来上がるから、お風呂張っておいて」
「わかった」
自分でも驚くほど、俺は素直だった。
だが、牡蠣フライに鰻の蒲焼を聞かされてしまえば、食欲旺盛の男子高校生なら誰だってこうなる。
俺は隅々まで浴槽を洗い上げ、お湯張りのスイッチを押す。
リビングに戻ると、出来上がった料理を並べる真琴の後ろ姿があった。
「風呂掃除終わった」
「ありがとう。こっちもちょうど出来上がったところ」
俺は足早にご飯をよそって席につく。
真琴の言葉に嘘偽りはなく、鰻の蒲焼と牡蠣フライが皿に乗せられていた。
他にはオクラが入ったトロロに、レタスとトマトとアボガドのサラダも添えられていた。
先日の口論もあり、正直嫌がらせみたいな料理が出てくるものだと警戒していたが、そんな小さな女ではないようだ。
俺はありがたく、料理に手をつける。
鰻はふっくら、牡蠣フライはぷりぷり。オクラとトロロはご飯にピッタリ。サラダも絶品。
俺が言うことなんてない。
いや、一つだけあったな。
「美味い!」
「そう、よかった。ほら、私の分少しあげる」
自分の皿から牡蠣フライ一個と鰻一切れを躊躇いなく俺の皿に乗せる。
「い、いいのか!?」
「いいよ。ほら、食べなって」
いつもだったら、こんな豪華なおかずは取り合いになってもおかしくないのに。
俺は真琴に感謝しながらおかずを平げた。
「ご馳走様! いやー、美味かったー」
今日の夕飯に大満足。
何があったのか知らないけど、ここまで豪華な食事となると、よっぽど真琴にとっていいことがあったのだろう。
「真琴、何かいいことでもあったのか?」
俺はつい、洗い物をする真琴に質問してしまった。
「なんで?」
「いや、なんとなーく」
いつも以上に料理が豪華だからと言ったら、機嫌を損ねそうだから、あえて口にしない。
「別に何もー」
「本当か? あ、もしかして、彼氏できたとか?」
冗談で言った途端に、真琴の空気が変わる。
「いるわけないじゃない」
しまった。これは地雷だったか。
「あ、そうそう。ジュース作ったから飲んでよね」
真琴はコップに注がれた自称ジュースを俺の前に置いた。
「……あの、真琴お姉様? これはなんでしょうか?」
「私特製のジュースよ」
と、頑なにジュースと言い張る。
だが、俺の前に置かれたものは、黄土色のドロドロした何か。
所々黒い粒が浮かび、コップから漂う生臭い臭いが俺の鼻腔を襲撃。
飲むどころか、これ以上口に近づけることすら躊躇う。
小さい頃に見た動画で、こんな色の飲み物を作った動画投稿者がいた気がする。
そして、体調不良を訴えていたような気もする。
「いや、俺は遠慮━━」
「私が、あんたのために作ったジュースが、飲めないの?」
真琴からの威圧と、美味しい料理を振る舞ってくれたことに対する感謝もあり、断れない。
俺は震える手でそれを握る。
コップから伝わる生温かさと、液体の中から浮かんできた気泡に口の中がだんだん酸っぱくなっていく。
だがもう俺はこのコップ持ってしまった。
しかも真琴がしっかりと監視している。
(の……のめらああぁぁぁぁ!!)
俺は一気にジュースを飲み干した。
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