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義姉になった姉が本気を出してきた3

 翌日。

 休日ではあったが、父さんの転勤前の準備ということで今朝から家の片づけでひっきりなしに動いていた。

 ちょうどいいからと、いらないものをすべて捨ててしまおうという母さんの提案により、当初は午前中で終えられる作業が、昼過ぎまで続いてしまい、正直勘弁してほしかった。


「母さん、これ捨てていいのか?」

「いいわよー」


 段ボールにいるものと、いらないものを次々と分けていく。


「お父さん。これどうするの?」

「それは倉庫に入れておいてくれないか」

「了解。和馬行くわよ」

「えー俺もー」

「文句言わない。ほら」


 一箱渡され、もう一箱を真琴が抱える。

 真琴に引き連れられ、庭にある簡素な倉庫へ。

 扉を開けると、長年利用されていなかかったこともあり、中は蜘蛛の巣が張っていた。


「うへぇ……埃っぽいな」

「全然使ってなかったからね。よいしょっと」


 真琴が適当なところに置いたのを倣い、俺も空いているスペースに箱を置こうとした瞬間、前のめりに躓いてしまい、バランスを崩す。

 なんとか段ボールの中身をぶちまけずに置けられたが、前傾姿勢の俺が体を支えることなどできるはずもなく、目の前の箱の塔に突っ込む。

 塔は崩落し、あたりには物が散乱する。


「和馬!? 大丈夫!?」

「な、何とか」


 物の山から顔を出し、そこから這い上がる。

 特に違和感や痛みがないから大丈夫なはず。


「本当に? 頭に角とかぶつけてない?」


 俺の顔を胸元に引き寄せ、後頭部を優しくなでる。

 そうなると当然俺の目の前には立派に育ったも胸が視界を覆うこととなる。

 男のさがとはいえ、姉に欲情するのは非常にまずい。


「大丈夫だって! 頭にはほとんど当たってないし」


 心の内を悟られる前に真琴から離れ、散らばったものを集める。

 その中に妙にでかい本が数冊転がっていた。


「なんだこれ?」


 おもむろに一冊開いてみると、そこには俺達の小さいときの写真がずらりと並んでいた。


「それってアルバム?」

「みたいだな」

「へー懐かしー。小学生の頃に行った旅行の写真よね」

「真琴が旅行先でおねしょしたときか」


 俺の頭上に拳が振り下ろされ、俺はその場に突っ伏すと、アルバムを奪われた。


「結構写真撮ってるけど、やっぱり小さい頃の記憶は覚えていないものね」


 ぺらぺらとめくっていく真琴は懐かしさに浸り、笑みをこぼしていた。

 だが、真琴の手はあるページを境に行ったり来たりを繰り返す。


「どうしたんだ?」

「いや、このあたりから和馬があまり写ってないような」


 再びアルバムを受け取り、ペラペラとめくっていく。

 旅行先での風景、かけっこで一番を目指す運動会、ぎこちない姿で演技をする学芸会、ちょっとした日常の一ページ。

 つい懐かしさに浸りそうになるが、やはり違和感がある。

 小学生あたりは確かに俺と真琴、それに父さんと母さんが楽しそうに笑っている写真が続くのだが、幼稚園頃を境に、俺がいない写真ばかりが並んでいた。


「撮り忘れたんじゃないか? それか単に体調崩して留守番してたか」

「体調崩した幼稚園の子供を置いて普通旅行に行く?」


 そう言われるとたしかにそうだ。

 父さんも母さんも、授業参観や運動会の日にはちゃんと参加してくれたのをよく覚えている。

 別のアルバムをめくると、そこには俺はどこにも写っておらず、真琴の面影がある幼い女の子と若かりし父さんと母さんの姿が写っていた。


「俺は……写ってない」

「どういうことなのかしら」


 次々ページをめくっていくと、女の子の姿はどんどん幼くなっていく。

 そして俺はある一文を目にする。


『真琴一歳 紅葉に大はしゃぎ』


 それと共に紅葉のカーペットに大はしゃぎな女の子と母さんの写真が一枚添えられていた。


「真琴って、たしか四月生まれだったよな」

「そうだけど」

「そうすると、この写真変じゃないか」

「どこがよ」

「だって、俺は二月生まれだろ? 真琴が一歳の秋ぐらいはまだ俺は母さんの腹の中にいるってことじゃん」

「そうね」

「でも、母さんの腹が膨らんでないんだけど」


 紅葉が落ちているということは、十月か十一月ぐらいのはずだ。

 二月に生まれたのであれば、この時期は目に見えて腹が膨れているはず。

 だが、この写真の母さんはスリムな体系だ。

 更にめくっていくと、一カ月ごとのエコー写真が並び、『真琴』と書かれていた。

 そして当然のごとく俺のエコー写真は一枚もない。

 だが代わりに、アルバムの中から一枚の写真が落ちる。

 それを拾い上げて確認をすると、一歳ぐらいの真琴と母さんと父さん、それに一組の夫婦が赤子を抱いて一緒に微笑んでいた。

 写真の場所から察するに、この家の玄関なのだろう。


「どういうこと? 私のばっかりで、小さい頃の和馬の写真が全然ないじゃない」

「とりあえず、母さんたちに聞いてみるか」


 と、知らないふりをしていたが、俺は何となく、どういうことなのか理解していた。


「ねぇ、お母さん」


 ようやく倉庫から戻ってきた俺達に母さんは呆れ顔で迎える。


「遅かったじゃないの。いったい何してたの?」

「ちょっと懐かしいものを見つけちゃって」

「はっはっは、わかるよ。父さんもさっき懐かしい本を見つけてつい読んでしまって、さっき母さんから雷を受けたところだ」


 明るく笑う父さん。

 俺は自分から言い出すことをためらい、視線で真琴に話すことを促す。


「お父さん、お母さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「急に改まってどうしたの?」

「これなんだけど」


 後ろに隠していたアルバムを前に持ち替えた途端、二人の表情は凍り付いた。


「……中身を、見たのか?」

「ねぇ、なんで和馬の小さい頃の写真が少ないの?」

「それは……」


 母さんは言いづらそうに視線を落とす。

 一方の父さんは覚悟を決めた様子で俺達に話しかける。


「リビングでゆっくり話そう」


 俺達は促されるままリビングへ向かい、テーブルに着く。

 そして父さんと母さんは俺達の向かいに座った。


「中身を見たと思うが、それはお前達が小さいときのアルバムだ」

「それは分かってるけど、ならなんで和馬の写真が全然ないの?」

「俺は父さんと母さんの子供じゃないんだろ」

「……あぁ、そうだ」


 確信を持った俺の言葉を父さんは肯定する。


「え、どういうこと?」


 頭の整理が追いつけていない真琴は俺と父さんを交互に見る。


「本当は、お前達が二十歳を超えたら話そうと思っていたんだがな」


 父さんは懐の手帳を取り出すと、一枚の写真を取り出す。

 そこには若い父さんと、見覚えのある男性が並んで笑っていた。


「この人はたしか」


 俺は挟まっていた一枚の写真を取り出し、その写真と並べる。

 やっぱり、同じ人だ。


「こいつは俺の親友でな。進路が分かれても何度も会う仲だった。お前達が見つけた写真はそいつの奥さんが子供を出産してすぐのものだ」

「その子供っていうのが、俺か」


 父さんは深く頷く。


「お前が生まれて一年も経たない内のことだ。奥さんの容体が急変したんだ。元々体が弱かったからな。救急車で運ばれた後、あいつは仕事先から急いで車で向かった。だが……」


 気持ちが昂ったのか、皺が寄るほど一度口を固く閉じた。


「……あいつが病院に着くことは、なかった。警察の話だと、ブレーキとアクセルを踏み間違えた車が運転席側へ突っ込んで、即死だったそうだ」


 父さんは溢れ落ちそうな涙を拭いとると、気持ちを落ち着かせ、話を続ける。


「あいつの両親は既に他界。奥さんは両親と絶縁していたこともあって、引き取り手がいなかった。だから、母さんと相談して真琴の弟としてお前を引きとったんだ」


 父さんの話が終えると、俺達の間に重苦しい空気が漂う。


「そんな……じゃあ、今まで……」


 衝撃の事実に放心状態の真琴。

 きっと俺が口を開いた方がいいのだろう。


「経緯はわかった……じゃあ、片付け再開しようか」


 と、頭の調子で片付けを再開をしようとすると、呆気に取られた三人の視線が突き刺さった。


「いや、片付けって、今はそれどころじゃ」


 動揺している父さんに俺はビシッと告げた。


「どうでもいい。こっちから問いただしてなんだけど、記憶にない本当の両親の話をされても『はい、そうなんですね』ってしか言えないんだよ。だからこんな深刻な空気にされても困るんだよ」

「お、お前、それでいいのか?」


 そんなあっさりしてていいのかと言いたいのだろう。

 だから、俺はキッパリと言った。


「俺の家族は父さんと母さん。それに姉の真琴だ。文句ある?」

「……本当に、あいつそっくりだよお前は」


 俺の言葉に父さんは微笑み。

 母さんは涙をハンカチで拭う。

 その後は止まっていた片付けを再開━━


「あ、この写真。たしかこの時の旅行で真琴が旅館の布団におねしょしちゃったのよねー」

「はっはっは、懐かしいな。お化けが出そうでトイレに行けなかったんだったかな」


 といかず、アルバムの写真を広げて父さんと母さんは思い出話に花を咲かせていた。


「この時のあんた達、本当に仲が良かったわよね。どこに行くにも二人一緒で」

「あぁ、そうだったな。そんな二人の姿を見て、引き取ってよかったと……うぅ……」

「いや、だからもう泣くなって」

「今じゃ変に大人ぶっちゃって。もっと仲良くしなさいよ」

「この歳でベッタリもどうかと思うけど。なぁ、真琴」

「そ、うね」


 俺が血の繋がらない赤の他人だったことにまだ心の整理がついていないのか、空返事をする。

 俺は別として、いきなり弟が実は血の繋がらない赤の他人でしたと言われて、素直に受け止めることができるとは思っていない。

 その後も、アルバムに夢中な二人のせいで、片付けが終わった頃には周りは真っ暗になっていた。

 疲れた父さんと母さんは食事を済ませたら早々に就寝。

 都合が良いと思い、俺は真琴の部屋へと赴く。

 扉の隙間から部屋の明かりが漏れ出ているから、きっとまだ起きているだろう。

 俺は扉をノックすると、ガチャリと扉が開く。


「和馬……」

「ちょっと、話がしたいんだけど」

「……うん」


 入室許可をもらい、中へと入る。

 比較的簡素であるが、薄ピンク色のベットには可愛らしいぬいぐるみが置かれており、真琴も女子なんだなと、再確認しながら俺は床で胡座をかき、ベットに座る真琴を見上げる。


「それで、話って?」

「まぁ……なんだ。俺が真琴と血が繋がってないって分かったじゃん」

「うん」

「……俺は真琴のことは実の姉だと思ってる。でも、真琴はそうじゃないんじゃないかと思って。ほら、真琴も一応女子だしさ。今まで弟と思って接した奴が実は赤の他人で、これからそいつと二人で暮らすのは不安じゃないかと」

「……何が言いたいの?」

「……真琴は母さんと父さんと一緒に暮らしなよ。俺は一人で大丈夫だからさ」


 いくら家族とはいえ、血の繋がらない男と二人だけで暮らすのは不安に違いない。

 ならば、いっそのこと父さん達と暮らした方がいいんじゃないかと俺は考えていた。

 しばらく黙ったままだった真琴だったが、体を小さく震え出す。


「ふざけないでよ。私の気持ちも知らないくせに、勝手に決めないでよ。私はここに残るから」

「でもそれじゃあ━━」

「話がそれだけなら、もう出てって」

「いやでも」

「いいから! 出ていきなさい!」


 立たされ、廊下へ押し出されると、扉が勢いよく閉まった。

 これ以上は真琴の感情を逆撫でるだけだ。

 大人しく俺は引き下がることにした。


読んでいただきありがとうございます!

感想お待ちしております!

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