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義姉になった姉が本気を出してきた2

「あ、玉ねぎ安い! でも量が多いかしら。全部使い切れないなら、こっちの方が……」


 近くのスーパーで買い物をする俺達。

 さっさと買い物を済ませて帰りたいのだが、家計を守る主婦のごとく、数円、数十円の差に悩んで買い物をする真琴に辟易とする。


「そんなのどっちだっていいだろ?」

「よくないわよ! これからは私達だけで生活するのよ? 仕送りをしてもらえるとはいえ、お金だって無駄遣いできないんだから。こういうのは今のうちに意識しておかないと」


 言いたいことはわかるんだよ。

 別にそれをすること自体は家のためだからありがたいし、いつもなら咎めることはしないんだけど、空腹状態が何時間も続いてる今の俺にはただただ苦痛の時間なわけで。


「はぁ……早くカレー食べたいんだけど」


 愚痴に近い呟きだった。

 が、真琴の耳に届いてしまったようで、玉ねぎの値札と睨めっこしていた目を突如俺へと向ける。


「な、何よ。もしかして、私のカレーがそんなに食べたいの?」


 なんでこいつちょっと嬉しそうなんだ?


「あぁ、だから早く決めてくれよ」

「しょうがないわねー。まぁ、肉じゃがに使えばいいから、量が多い方にしますか」


 鼻歌まじりに玉ねぎをカゴに入れる真琴。

 なんか、いつもと違って気持ち悪い。


「まったく、あんたってしょうがないんだからー。お昼だって結構な量だったのに、待ち切れないなんて。どんだけ私のカレーが食べたいのよ」

「あぁ、ちょっと昼を食い損ねたからな。おかげで今にも空腹で倒れそうだ」

「……は?」


 あれ? さっきまでご機嫌だったのに、急に声色が変わったような。

 というか、顔に一切の感情が見受けられなくて怖いんですけど。


「今なんて?」

「えっと……昼を食い損ねちゃって」

「へー……ふーん……そう……」


 ……こわっ! 何その言葉の節々に挟む間! こわっ!

 そのあと何か言われるのかと身構えるが、特に何も言わずに買い物を済ませる真琴。

 今日は感情の起伏が激しいな……もしかして女特有のアレの日なのか?


「はい、家までよろしく」


 パンパンの買い物袋を俺の自転車のカゴに無理矢理押し込む。

 重みで不安定な自転車を俺は慌てて支えた。


「ちょっ! 少しはそっちのカゴに入れてもいいだろ!」

「残念。袋はそれしかないの」

「なら真琴のカバンに」

「綺麗にしているとはいえ、カバンに食材を入れるなんて不衛生じゃないかしら?」


 言い返せない。


「というわけで、よろしく」


 見向きもせずに自転車でスーパーを後にする真琴。

 袋の重みでふらつくも、なんとか俺も自転車を漕ぎ始めることができた。


「真琴! 頼むから少しは入れてくれよ。な! うわっと!」


 たまにハンドルを取られそうになるが、なんとか耐える。


「いやよ。それに男ならそれぐらい黙って運びなさい」

「男とか関係ないうわっと!」


 結局、慈悲もなく家に到着するまで俺は横転する恐怖に耐えながら運転するハメに。


「冗談抜きで危なかった」

「あ、袋は台所に置いておいてよ」

「わかってるって」


 袋を置き、すぐさま二階の自室に上がろうとした。

 が、俺の肩に置かれた手がそれを阻んだ。


「どこ行くのよ。あんたも手伝いなさい」

「え?」

「え? じゃないわよ。少しでも早く食べたいなら米を研ぐくらいしなさいよ」

「あー、わかったよ。ったく」


 食事を人質に取られてるのだから、言うことを聞くしかない。

 俺はすぐに米を炊く準備を、真琴はカレーの下ごしらえを始める。

 米を炊くといっても数回研いだ後はスイッチを押すだけだから、早々に終わり、真琴に気づかれないように台所からエスケープを試みる。

 が、またしても捕まってしまう。


「こら、逃げんな。あと野菜の皮むきだけ手伝いなさい」

「えー……あ、はい。やらさてもらいます」


 鋭い眼光を向けられ、大人しくピーラーで皮を剥く。

 一方の真琴は包丁の扱いに慣れているため、包丁で綺麗に剥いていく。


「器用なモンだな」

「そりゃ、たまに私がみんなの分の食事を作るんだから、これぐらいできるわよ。というか、和馬はもう少し家のこと手伝いなさいよ。今後は二人で生活していくんだから、何もしないなんて許さないわよ」

「わかってるって」

「そう。なら、早速お風呂掃除よろしく」


 俺が皮を剥き終わったタイミングでさらなる仕事の追加。

 見事に嵌められた俺はしぶしぶ風呂掃除をすることに。

 適当に洗剤を使って浴槽を洗い、さっさと済ませてお湯を張る。

 今度こそ真琴からの目から離れ、自室へ。

 後は完成を待つまで、のんびりと動画を視聴する。


「和馬〜! ご飯!」


 ようやく飯の時間に俺は急いで下へと降りる。


「腹へったー、早くカレーを」

「その前に、これ」


 席に座った俺の前に置かれたのは見覚えのある弁当箱。

 今日俺が食べるはずだった弁当だ。


「これを食べなさい」

「いや、カレーを」

「これを……食べなさい」


 反論することは許されないようだ。

 置かれた弁当箱を開ける。

 焼き目のない綺麗な卵焼きとハンバーグ、それにマッシュポテトと色とりどりのサラダが隙間なく敷き詰められ、二段目にはご飯がぎゅうぎゅうに詰められている。

 俺が苦笑いを浮かべている前で、当て付けかの如く真琴はカレーに手をつけている。

 それをチラチラと盗みしながら箸を進める。

 すっかりと冷め切ったオカズだが、美味い。

 問題は冷め切ったご飯。

 硬くなってしまい、とにかく食べづらかった。

 米だけでも炊き立てのものを食べさせてほしかったが、黙って全部平らげた。

 腹をすかせるていたはずなのだが、思っていたよりも内容量が多く、腹八分目といったところ。


「ふぅ……ご馳走様で──」


 俺が感謝を込めた「ご馳走様でした」を言い合える前に、ゴトッと音を立て、何かが置かれる。

 そして、スパイスの香りがする。


 机の上には、山盛りのカレーが置かれていた。


 俺の傍に立つ真琴を見上げると、ニッコリと笑っていた。


「はい、カレー。お腹空いてたもんね。いっぱい食べてね」

「いや、その、弁当食べたからそんなにいらないんだけど」

「……食べる……わよね?」

「……はい、喜んで」


 俺は震える手でカレーを胃の中へ押し込んでいく。


「じゃ、私は部屋に戻るから。後片付けはよろしく」


 自分の皿をそのままに二階へと上がっていく。

 つまりこれは真琴の分もやれってことか。

 くっそ! なんで俺がこんな目に。

 美味いカレーなのに、なんでこんなフードファイター目指すような食べ方せにゃならんのだ。

 弁当食べ損ねただけなのに。

 ちくしょう……うめぇよ……うっぷ……。

 俺がカレーに四苦八苦していると、玄関の扉が開く音がする。


「ただいまー。あら、今日はカレー?」

「おかえ──うっぷ!」

「ちょっと、何? カレーよそい過ぎたの?」

「まぁ……そんなとこ」

「そんな無理して食べなくても」

「いや、流石にそれはもったいないし」


 俺は休まずスプーンを動かす。

 そして、ようやく山のようなカレーを食べ終える。

 はち切れそうな腹を労るように優しくさすり、呼吸を整える。


「よく食べ切ったわね。真琴も喜ぶわよ」


 それは俺の苦しむ姿を見て喜ぶって意味かな?


「あ、お弁当どうだった? 美味しかった?」


 普段ならあまり返答の感想を聞かない母さんが、今日は珍しく味の感想を尋ねてくる。

 何か新しい料理にでも挑戦したのだろうか。

 だけど、おかずは定番のものばかりで、もの珍しいおかずなんて入ってなかったはずだ。


「いつも通り美味かったけど」

「そう」


 なぜかニコニコの母さんに俺は首を傾げざるを得ない。


「なんでそんなに嬉しそうなんだ?」

「あれね。真琴が朝早くから作ったのよ。和馬が美味しいって言うなら、安心してご飯のことは任せられるわ」


 ……そういうことか。

 ようやく真琴の行動に説明がついた気がする。

 俺は食器を洗い、真っ直ぐ真琴の部屋の前へ。

 一拍置いてから、扉をノックする。


「真琴、いる?」

「……なに?」


 自意識過剰ではないといいんだが、普段言わないことをいざ言おうとすると照れ臭くて言葉が中々出ていかない。


「だからなによ?」


 辛抱たまらず真琴は部屋の扉を開けて、俺と対面する。

 余計に言いづらくなったが、それでも言わなければならない気がし、羞恥心を必死に抑えた。


「その……弁当、美味かったよ。作ってくれて、ありがとう」

「別に、どうせ今後は私が作るんだから、不味くても慣れてもらわないと」


 しまった。やっぱり自意識過剰だったか。


「……でも……美味しかったならよかった」


 そっぽを向いた真琴の頬が、気のせいか赤くなっている。


「と、とにかく。それだけ言いたかっただけ。今後も、その、よろしく」

「……任された」


 そう言い、真琴は静かに扉を閉めた。

 顔に帯びた熱が鬱陶しい。

 ヤッパリなれないことをするもんじゃないな。

 でも、これからは真琴が俺の分の弁当や食事を作ってくれるんだし、俺も家事の手伝いをしないと━━ん? そういえば、今日は真琴が弁当を作ったんだよな? 

 あれ? なんか引っかかるような……。

 何か重要なことを見逃しているような気がするが、いくら考えてもその答えは浮かばない。

 考えてもしょうがない、ここはシャワーでも浴びてスッキリしよう。

 着替えを準備し、一階の風呂場へ。

 服を脱いでいる最中、ふと洗面台の鏡に映る自分と目が合った。

 太ってるわけではないが、鍛えられてはいない体。

 俺も青春真っ只中の高校生だ。

 女子にモテたいという気持ちは無きにしも非ず。


「筋トレでもしてみるか」


 鏡の自分に自問自答をしていると、閉めていたはずの扉が盛大に開け放たれた。


「あ、なんだ。いたんだ」

「真琴!? 急に開けんなよ!」


 急に開けられ驚きはしたものの、不幸中の幸いなことにまだズボン履いていた。

 この年で成長したムスコを実の姉に見られるのは、心に大きなトラウマを植え付けかねない。


「別に、姉弟なんだからいいでしょ」


 そんな俺の心情などつゆ知らずか、涼しい顔で対応している真琴。


「じゃあ俺が着替え中に入ってきても、文句は言うなよ」

「その時は潰す」


 おいおい、あまり強い言葉を使うなよ。折角成長したムスコが縮こまるだろ。


「あ、あのさ。俺が先に入るから、出てってくんない?」

「言われなくても出ていくわよ」


 真琴はすぐに出ていき、しっかりと扉を閉める。

 気を取りなおし、シャワーを浴びた。

読んでくださりありがとうございました!

より良い作品にするため、良い点、気になった点などありましたら、お願いいたします

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