義姉になった姉が本気を出してきた10
翌日。
これ以上の厄介ごとは御免被りたいのだが、
「あ、和馬! 真琴先輩と血が繋がってないって本当?」
どうやら逃してはくれないようだ。
「おい、それ誰から聞いた」
エリスの開口一番の言葉を無視することは出来ず、問い詰める。
しかしエリスは俺の心情とは裏腹にケロッとした顔をした。
「え? みんな朝からその話してたけど?」
道理で周りの視線に殺気が混じってたわけだ。
「念のために聞くが、出所はどこだ」
「真琴先輩本人の口かららしいけど」
だよな。
そんなデリケートな話、本人以外から出てくるわけない。
「おい! 和馬!?」
わざわざ俺達のクラスに駆け込んできた秋人は、俺を見つけると一気に詰め寄ってくる。
「本当なのか!? お前と真琴先輩は実の姉弟じゃないって話!」
面倒な奴に知られてしまったな。
「いや、そのー……」
何か言い訳を考えたが、本人の口から出ている以上、俺の嘘なんてその場しのぎにすらならない。
「はぁ……そうだよ。まぁ、俺も最近知ったんだけどな」
「ほへぇー、そんな漫画みたいなことあるんだな」
…………え、それだけ?
てっきり真琴に好意を持ってて、「お前を殺して入れ替わってやる!」とか言ってきてもおかしくないと思ったんだが。
「ん? なんだその顔?」
「いや、お前真琴のこと好きだから、てっきり嫉妬で狂うと思ってたからさ」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「だよな。悪い」
「真琴先輩は姉になってほしいわけで、彼女にしたいわけじゃないんだよ」
「予想の斜め上をいくヤベー発言するのやめてくんない?」
「俺のことはどうだっていいんだよ!」
いや、親友がヤベーことは出来れば無視したくないんでけど。
「それよりお前、これから大変だぞ?」
「大変って?」
「いや、お前周りの視線に気づいてないのか?」
「気づいてないと思うか?」
すでに男女含めたクラスメイトの半分から殺意に近い視線を送られてきてるのは振り向かな方もわかる。
どうにしないといけないが、一度真琴の様子を見に行った方がいいか。
かといって、今からだとすぐに鐘が鳴ってしまう。
俺は昼休みまで待ち、昼休みとなってすぐ真琴のクラスに向かった。
もちろん、真琴に気づかれないようにだ。
「真琴さん、弟さんと血が繋がってないって本当なの?」
「だから本当だって」
女子生徒が尋ねると、真琴はさらりと答える。
その答えにざわつくクラスメイト達。
「たしか、今その弟さんと二人暮らしなんだよね。嫌じゃない?」
「嫌って?」
「だって……義弟とはいえ危ないじゃない? いや、弟さんを悪く言うつもりじゃないんだよ。でも……洗濯物から使用済みの下着を盗んでは下品な笑いをしながら嗅いだりしたり、夜中寝てることをいいことに身体中を弄るエロ猿になるかもだよ?」
俺のこの人と話したことないけど、ボロクソに言われてるんですけど、何かしたっけ?
「和馬はそんなことしないって」
「でも、もしものことがあったらどうするの?」
「むしろそのもしもを待ってるんだけど」
……ん?
待て、公衆の面前で今なんて言った?
「き、聞き違いかな? まるで襲われることを期待してるみたいな言い方してたけど」
「期待してるけど?」
おいぃぃぃぃ!!
百歩譲って俺の前ではいいぞ!
だけどせめてクラスメイトには本心を見せるなよ!
あぁ、ほらみろ、真琴のクラスメイト達の顔を。
引きつってんぞ。
「期待……してるんだ」
「私だって努力してるのよ。私の下着を置いたりしたんだけど、一切襲ってくる気配がないのよ。本当、困った弟よね」
なんで俺が悪いみたいな言い方してんだよ。
周りのクラスメイトの顔を見てみろ。
ドン引きだぞ。
「って、こんなことしてる場合じゃない! 和馬を拉致━━お昼ご飯を誘わなきゃ!」
どうやら俺はこれから拉致されるらしい。
すぐに柱の裏に隠れると、すぐに真琴は教室を飛び出し、俺に気づかないままおそらく俺のクラスへと駆けていった。
念のため弁当箱持参で偵察しに来てよかった。
ここは大人しく便所飯をするしかない……と、決意してトイレに向かおうとしたが、誰かが俺の首根っこを掴む。
そして俺を引きずって階段を登る。
目を白黒している間に、屋上に連れられ、投げ飛ばされた。
こけて転がるも、弁当箱は死守。
投げ飛ばした張本人に文句の一つでも言おうと、睨みつける。
「よぉ!」
ニカッと笑う柊先輩に背筋が凍った。
「中々いい目するじゃん。タイマンすっか?」
「いやぁー、ちょっと調子が悪いんで、遠慮しておきまーす!」
所々うわずった声で答えると、つまらなさそうにする柊先輩。
「なーんだ。つまんねぇな……」
未だに尻餅をついている俺のそばによると、その場でしゃがむ。
そうなると必然的に俺の位置からスカートの中が丸見えなわけで。
見た目の割にそんな可愛らしいピンクのパンツだなんて、ギャップが━━
「それでも玉ついてんのか!!」
「おっふ!」
パンツに気を取られている隙に、股間をがっしりと掴まれる。
反射的にその場から飛び退く。
「な、何するんですか!?」
「いやー、本当に玉ついてんのか確認したくてな。ついててよかった。それにしても……」
俺の息子を掴んだ右手をワキワキすると、ニヤリと笑った。
「なんかやけに硬かったな。オレのパンツに興奮したか?」
自らスカートを捲り、パンツを露わにする柊先輩。
一瞬ガン見するが、すぐに顔をそらす。
「こっち見てんのバレバレだぞ」
顔はそらせたけど、目まではそらせなかったんです。
「まぁ、思春期の男の性だからしゃーないか」
その辺のことは理解があるようで、からかう程度で済ませてくれるのであれば、こちらとしては有難い。
「んなことよりだ。お前、オレに嘘ついたな?」
鋭い目が俺に突き刺さり、背筋がピンと伸びる。
「う、嘘とは?」
「お前と南沢、血が繋がってないらしいじゃねぇか。それなのに姉弟とか言ってたよな」
「いや、たしかに血は繋がってないですけど、俺と真琴は間違いなく姉弟です。俺はそう思ってます」
「へー……ん? でも、南沢はそんな風には見えなかったような……」
「それは━━」
その時、俺達が通ってきた屋上の扉が大きな衝撃と轟音と共に開け放たれる。
扉の先には、蹴り上げた脚をゆっくりと下ろし、殺意のこもった眼差しを柊先輩に向ける真琴の姿があった。
「柊さん、何してるのかしら?」
俺でも数度しか見たことのないガチギレの真琴が一歩ずつこちらに近寄ってくる。
「別に? ちょっとこいつに話があっただけだけど?」
真琴が好戦的なことが嬉しいのか、笑みをこぼしながら挑発する。
「和馬にちょっかい出さないでくれる?」
「あ? お前には関係ないだろ? それとも『私の可愛い弟に触れないで!』ってか?」
「弟じゃないわよ」
「あー、そういえば、血は繋がってないんだっけ? だったらなおさら関係━━」
「私の彼氏よ」
数秒の静寂が訪れると、柊先輩は目を点にすると、素っ頓狂な声を上げる。
「……へ?」
そしてすぐさま俺に振り返った。
「お前ら兄弟なのに付き合ってたのか!?」
俺は忙しなく首を横に振る。
「違います!」
「そうね。そんなお試しみたいな関係じゃないわね。私達は夫婦よ」
「姉弟だからな!」
「え、いや、でも、血は繋がってないなら、問題は……いやでも、今まで姉弟として過ごしてたんじゃ」
思考回路がショートしたのか、目をぐるぐると回す柊先輩。
「柊先輩? 大丈夫ですか?」
「あ、あぁ」
介抱しようと近づくと、真琴の視線が俺に刺さる。
「なんでその女に触れようとしてるの?」
「いや、体調が悪そうだろ! 別にやましいことは」
「関係ない。私の目の前で、女に触れてることが許せないのよ」
この姉、常識のボルトをどこかに落としてきたのだろうか。
殺戮マシーンと化してるよ。
頼む! 誰でもいいからこの状況を変えてくれ!!
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