05
兄ちゃん2の録画は続く。
ドラキュリアン伯爵はスゥ――――と涼やかに浮き上がる。
飛ぶというよりは浮いたり沈んだりするのだ。
マントで半分顏を覆いながら、
「月よ、そんなに煌々と道を照らし出すは誰がためぞ?」
「光度を下げれぬのか、眩しくてかなわぬ。が、貴様が守りたいものでもおるのならば吾輩も無粋な事は言わぬだろう」
朗読劇のようにドラキュリアン伯爵は浮き上がったまま月に向かい独り言を叫んでいるのである。
「うわー、なにいってんだよ?あいつ」
そう半笑いの警備員たちの音声も同時に吹き込まれている。
「月が答えるわけねーだろうが」
「つーか、佐伯さんなんであんなのを棺桶から引っ張り出したんだよ」
「そのまま永遠に閉じときゃよかったのに」
「何いよんぞね、棺桶から起き上がってブツブツいよったところを見つけたんぞね」
そんな面白半分に揶揄されているとは露知らず、
「おお、月よ、吾輩にふさわしい美しい清らかな乙女を照らし出せ」
最後はちゃっかりドラキュリアン伯爵は月に己の願望をまき散らしている。
「しっかしどう吊ってるんだよ?だれの悪戯?」
「どこの劇団の仕込みよ?」
尚も警備員たちはワイワイと騒いでいる。
「俺は本部から何も聞いてないぞ?」
皆口々にそういう。
「だったら、アレがマジでドラキュラだっていうのかよ?」
全員が顔を見合わせて一笑にふす。
「あんな馬鹿っぽい本物がいてたまるかよ」
「迫力ゼロ、馬鹿さ加減100,美しさ30ってとこだな」
「ダメだろ、そんな本当の事いっちゃさー」
そんな話をしていると、ドラキュリアン伯爵がスゥ――――――と東の空へ
高速で消えていった。
携帯で追う事が困難となる。
「…………」
「え?」
「いやいや、え?」
そう一気に沈黙が訪れる。
「あれ仕掛けじゃなかったのか?」
「…………いや?」
「ひぇーーーーーーー」
そう言って佐伯が腰を抜かす。
兄ちゃん2はすかさず動画を拡散し、目撃情報を募集し、皆に追跡依頼を出す。
「偽物でも1万歩譲って本物でも俺の再生回数上がればラッキー」