03
「このじじい、命拾いしたな」
そうドラキュリアン伯爵は吐き捨てると、ひらりとマントを翻し歩き出す。
今すぐにでも吾輩のこの牙の威力を教えてやりたかったが、こんな不味そうな干からびたじじいの血を吸う気にはとてもなれん。
そんな事よりも、麗しい綺麗な乙女が吾輩を待っているのだ♡
何が悲しくてあんな干物で腹を満たさねばならんことがあろうか。
じいさんは再びインカムで連絡を取る。
「あー、不審人物が逃走しました、どうぞ
ドラキュラのようなコスプレ迄丁寧にしております、どうぞ」
「なんだよ、佐伯さん、なんで捕まえとかないんですか、そんなめんどくさそうな不審者」
「何だねぇ、年を取るとこう中年の哀愁が分かって無体な事ができんようになるんよ、どうぞ」
「あんた、俺らに雑用を押し付けたいだけだろ」
そんな捕獲計画が持ち上がっていることとは露とも知らず、ドラキュリアン伯爵はうっきうきと地上3センチを浮きながら進んでいる。
「う、うおぉおおおおお、目が、目がぁあああああ」
そうマントで顔を再び隠し、顔がとけてないことを確認すると、おろるおそる発光源を見る。
「なんだ、黄色く蛇の目玉のような色をしたデカい月だ」
「驚かせおって!」
そう言って空へ窓から外へ足をかけてふわりと舞い上がり、月に向かって文句を言いに行こうとする……はずだった。