02
「さて、今宵吾輩に出会う幸運な乙女を見つけに行かねば」
そう棺桶をひっぺりはがす。
六千年の眠りが彼の用心深さをうばっかのか、元々の彼の至らなさか……
今はまだ答えを控えよう。
「う、う、うぉおお、目が、吾輩のこの美しき滑らかな肌がぁあああ!」
ドラキュリアン伯爵はいきなり閃光を浴びた。
余りの光の眩しさに肌がとけ出し彫刻のように白く美しい顔が損なわれたのではないかと心配している。
自称、六千と三百と飛んで5拾3日を過ぎた老いた肌なのに。
「吾輩の商売道具を損なってはならん!なんだこの失敬な光りは!
吾輩をドラキュリアン伯爵と知っての狼藉か!」
ドラキュリアン伯爵は怒り心頭で頬がぷんっぷんしている。
「あんた、何いよんぞね、ここで。こんな展示物の中に夜中に侵入してから!良い年こいておかしい事せられん!」
じいさん警備員が夜中の博物館の巡回に来ていた。
そして、怪しげな男のボゾボゾ喋る声を不審に思い、棺桶に懐中電灯を
突っ込んで覗いていたのだ。
「な、な、なんだ!、貴様は!、見慣れぬ妙ちくりんな顔をしおって!」
「この吾輩を良い年こいてだと?、吾輩は若く美しい!
世の女なら吾輩に惚れぬものはいない!」
警備員はドラキュリアン伯爵を胡散臭そうな哀れな顔をしてみると、
「あー、展示室1号館に不審人物が侵入中」とインカムで連絡をした。
「あんた、どうしたんぞね、なんぞあっかんかね」
「その棺桶は、さる東欧の伯爵家からここの親会社が買い取ってドラキュラの棺として、子供だましに使うんぞね」
「あんたが、本当にそこで干からびとったら洒落にもならんがね」
「な、なんだと?買い取っただと?、子供だましだと?」
いたくプライドを傷つけられたドラキュリアン伯爵は顔を真っ赤にして、
猛抗議に入る。
肝心の事を忘れている。
ここはどこだ?
今は何世紀なのだという死活問題を。
結論から言おう、やはりこのドラキュリアン伯爵は頭が薄い。
彼の名誉にかけて言っておこう、バーコードの方ではない。