思惑
お待たせしました!
少し短めですが、
楽しんでいただければ幸いです!
この世界において、生まれる人間の中にはたまに通常の人間よりも魔力の多いものがいた。
彼らは魔力が高いことから様々な場面で重宝されてきた。
また、神代の折には魔力の高い人間を神が選び己が意思の語り部、導き手として、任命してきたのだった。それらは、通称として、聖人、聖女よ呼ばれていた。
「エストナはその聖女だ。まあ何人もいるうちの一人だがね。」
ロイドは皮肉気にそういうと背もたれに身体を預けた。
そう様子は本意ではないようにカイには感じられた。
「・・・・・・今は、神族はいないはずですが。」
カイの言葉にロイドが軽く眉を上げた。他の人間は黙したまま、事の成り行きを見守っていた。
「君ば学者でもあるのかな?神族、なんてのは久しぶりに耳にしたよ。」
「お気になさらず。僕は昔からそう呼んでいただけです。」
それで、とカイが話を本題に戻した。
「ああ、神の話だがね。戻られたのだよ、神が。一柱だけなんだけれどもね。どうやら、魔王が復活するという話みたいだね。」
「っ!!」
カイはロイドの話に耳を傾けていたが、魔王という言葉に反応して俯いた。
ロイド達はカイが衝撃から俯いたのだと思ったようだが、ライアンとエストナは違った。
奇しくも二人は成り行きを見守るためにカイの表情に注目していた。
そのため俯いたカイの表情がハッキリ見えたのだが、カイは嗤っていた。
二人はその表情を目にした瞬間、ぞくりとした冷たさが背中を駆け巡るのを感じた。
その嗤いがどのような意図で引き出されたのか、まだわからない。
ただエストナには、カイが多くの感情を押し殺しているのがわかってしまった。
自分のことを心配そうに見つめるエストナに気が付いたカイは、安心させるように微笑んだ。
その時にはそれまでの笑みはなく、ただ優しげな顔があるだけであった。
「娘はやらんぞ。」
ロイドが咳払いをして注目を集めながらぽそりと呟いた。
その声はカイ達には届かず、ヴィーダだけにきこえていたようだ。彼女は苦笑して、夫であるロイドの背に手を当てた。
「そういえば、エストナはどうしてこちらへ?」
「それなんだが、娘に会いたかったというのもあるが、ちょっと手を貸して欲しくてね。」
「なるほど。聖女の力が必要ということですか。」
カイは得心が入ったというように頷いた。そして、話は終わったと、その場を後にしようとした。
「部外者の僕に聞かれては困る話もあるでしょう。一旦席を外しますね。」
立ち上がったカイの袖を握るものがいた。エストナだ。彼女は少しだけ不安そうな色をその瞳に浮かべていた。
カイはエストナの顔をみて、そしてロイドの方を見た。
ロイドは話を聞かれるということよりも別の事が気になるようだ。
「別に聞いても構わないよ。それよりも、カイくんが困っているだろう、エストナ、手を離しなさい。」
「いえ、僕は大丈夫です。」
「いや遠慮しなくていい。わたしには君が困っているのがよくわかる。」
「いえ、困ってません。彼女は可愛いですから。」
「っ!!!!」
「この野郎!表へ出ろっ!」
「あなたっ!揶揄われてるんですよ。真に受けてどうするんですかっ!!」
「むっ!」
問答を繰り広げていたカイは未だ袖を掴んでいるエストナへと微笑んだ。
彼女はまたしても顔を赤らめた。
その様子を見たロイドが取り乱したわけだったが、すぐにヴィーダの一言で我に返ったのだった。
ライアンは一連の出来事を眺めながら、存外息が合っているのかもしれないなどと考えていた。
恥ずかしさを誤魔化すようにロイドが咳払いをして、口を開いた。
「んんっ!・・・・・・聖女として頼みたかったことは、魔人の討伐だ。」
ロイドの言葉に、エストナ達は息を呑んだ。
魔人、それは神代から敵対者として度々存在が記されていた。
魔王の配下であり、魔物を率いる者たち。一説には魔力を高度に操るとも言われているが、近年姿を見たものはついぞいなかった。
歴史の中の存在だと思っていたものの討伐を命じられたのだ。エストナ達が驚いたとしても、仕方がないことだろう。
部屋の中は先ほどまでとは違った緊張した空気が広がっていった。
その中で、凪のように落ち着いているのは、カイだけであった。
カイはうっすらと微笑みを顔に貼り付けていた。
そんなカイの様子をライアンだけが、探るように見つめていた。
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