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その女の名は、テトラ!

ようやっと名乗らせることが出来ました笑


楽しんで頂ければ幸いです。


『王様は今日も考える』も本日更新しておりますので、そちらも是非ご確認くださいませ!

 

「大丈夫。親父さん、何か墨のようなものはありますか??」


 言われて親父さんは後ろな置いてある袋の中から墨壺を取り出した。


「こいつでいいのか?」


「ありがとう。」


 墨壺を受け取ったカイは剣を地べたに置くと徐に壺の墨を剣にかけだした。


「えっ?」


「あ、おいっ!」


 周囲の動揺の声を無視して、ともすれば鼻歌でも歌いそうな様子で墨をかけ終えたカイは今度はその上に地面の砂を集めてかけ始めた。


 ぺたぺたと砂をかけては楽しそうに固めていた。

 当然剣の鞘は墨と、その上にかけられた砂で、加工された装飾の溝にべったりとした汚れを付着させ、みるみるうちに汚れていった。


 しばらくして、カイは汚れきった剣を持ち上げた。購入したてのような美しさだった外観は見る影もなくなっていた。


 完全に引いてしまっている三人を横目に、カイは鞘の先端に手を当てた。


「見ててね。」


 そういうと何事かを唱え、ゆっくりと先端から手元までをなぞっていった。


「まあっ!」


「おおっ!」


「まじでか、剣の汚れが・・・・・・。」


 そこに起きた現象に一同は続く声が出せなかった。

 カイの触れた先から、剣の汚れが跡形もなく消えていき、元の輝きを取り戻していったからだ。



 やがて、剣についていた汚れは全て消え去り、墨をかける前と同じ状態にまで戻っていた。


「ふう。これが、王朝時代の魔導武器の最大の特徴の一つだよ。魔力と共鳴する、自己修復の機能を備えているんだ。さっき、そちらの剣に魔力を通して見たけど、特に変化は起きなかった。どう?これで証明になるかな??」


 カイはにっこりと三人の方を見ると、二人は大いに頷き、一人は焦った表情を浮かべた。


「カイ!!すごいですっ!!」


 エストナは手を叩き、目の前で起きた現象に興奮から頬を赤く染まらせた。


 一方、ライアンはそれ以上だ。魔導武器の効果を目の当たりにして、少年のように瞳を煌めかせていた。


「ちょっと待ってくれ!兄ちゃんの剣がムル王朝のものだって言うんなら、こいつは何なんだ!この古さは加工じゃねえ、たしかに発掘された品だ!」


 親父は手に持った剣をカイの目の前に突き出した。カイは、困った表情を浮かべた。


「うーん、それに関してはごめんなさい。僕にわかるのはムル王朝時代のものではないってことくらいで、それがいつのものかは・・・・・・。」


「そ、そんな・・・・・・。」


 親父は店の目玉として購入したであろう剣を手に持ち、顔面を蒼白にした。いつのものか分からなければ、売りようがない。


 カイ達は親父の悲壮な顔に気まずげに黙り込んだ。


 そこに、女の声がかかった。


「その武器はムル王朝よりは千年くらい後のレダリア魔法王国の頃のもんやな!鯖とってよう使われへんけど、骨董品としての値打ちはちゃんとあるでっ!!」


 女は独特の訛りをもった口調で、唖然とするカイ達をよそに解説を続けた。


「この部品をつけるところに特定の魔弾っちゅうのを取り付けんねん。そんでこのトリガーを引いたらそれが発動するっていう品物(しなもん)やな。」


「へえ、そうなんだ。」


「そう。ちなみにやけど。」


 女はそういって親父の顔を覗き込んだ。


「この武器は骨董品としてやったら金貨二枚で()うたんで!」


「嬢ちゃん、ホントか!?」


「ホンマのホンマや!ほれ、確認して。」


 女はにっこりとあどけない笑みを浮かべると、懐から金貨を取り出して親父に渡した。親父は金貨を噛んで確かめた。


「本物だ。ありがとう、嬢ちゃん!!ホントに助かったぜ!!」


「ええのええの、商売仲間やねんから、気にせんとって!ほな、この商品はもろてくで!」


 女は商品を手に取り、カイ達に目配せした。カイとエストナはきょとんとしたままだったが、ライアンだけはその意図に気付いて頷いた。


 「兄さん達も、悪かったな!!」


 やりとりに気付かない親父はにこにこと相好を崩していた。どうやらかなりの儲けが出たようだ。


 


 カイ達はなんだかスッキリしない表情を各々浮かべ、馬車の近くまで戻った。そこへ、先程の女が寄ってきた。



「いやあ、大変やったなあ、兄さん。」


「ああ、さっきはうまくおさめてくれて助かった。あのまま立ち去るのはどうにも忍びなかったからな。」


 ライアンが代表して答えた。身体をずらして、エストナを庇う位置に着くのも忘れない。


「あらあの親父が悪いんやから、気にせんでええのに。武器屋が武器の目利き出来ひん方が悪いわ。」


 そういって女はカラカラと笑った。人懐っこいその笑顔は女の雰囲気を幼く、親しみやすく思わせた。


 エストナが申し訳なさそうに声をかけた。


「あの、でも結局お金を使わせてしまいました。私達のやり取りを見ていなければ使わなかったお金でしょう?」


 女は驚いて目を大きくさせた。そして、今度は弾かれたように笑った。


「あっはっは!お嬢ちゃん、ええ子やね!!それこそ気にせんでええよ!むしろええ買い物(かいもん)出来て良かったわ!」


「それならよかったです。」


 エストナはほっと胸を撫で下ろした。


「実はなそもそもの金額がおかしいねん。」


 女はくりっとした目を猫のように細めると、ニヤリと笑った。


 エストナ達はわからず、首を傾げた。


「実は最初からずっと見とってん。最初、傭兵?のおっちゃんが言われた金額が金貨五枚やったやろ?あれがそもそもおかしいねん。」


「っ!おっちゃん、だと・・・・・・!?傭兵でもねえっ!」


「そうなん?そんなナリやから勘違いしたわ。」


「金貨五枚は安いということでしょうか??」


「そうそう、仮にほんまにムル王朝の剣やったとしたら金貨三十枚以上は余裕でするで!」


「さんじゅ・・・・・・!!!」


本物(ほんもん)やったらの話や。そんくらい出回る数が少ない貴重なもんやねん。そんでな、レダリアの時代のものやけど、これもそこそこ貴重でな。見た目が変わっとるから、結構ええ値段するんよ。」


 驚くエストナ達に女はドヤ顔で説明している。カイはというと、特に何を言うでもなく、にこにこと微笑んでいた。


「ええ値段って、じゃあ??」


「そう!金貨二枚は相場よりかなり下やね。せやから蒐集家にこれ売ったらかなりの儲けやってことやな。」


 女はにまにまと嬉しそうにして武器を抱えた。


「せやから、むしろ感謝せなあかんのはうちの方ってことやね!やから気にせんとって!」


 女はそういって片目を閉じた。ころころとよく動く表情にエストナは思わず吹き出した。


「それは、またなんていうか、あの親父さんは可哀想ですね!!」


「まあ後で気付いてももう知らんしな!別に悪いことはしてへんし、ええ勉強になったんちゃうかな。」


 ところで、と上機嫌に話していた女はカイに目をやった。


「兄さんのその剣、ほんまにムル王朝の剣なん?」


 言われてカイは頷いた。途端に、女はカイの手をはしっと握りしめた。


「お願いっ!それウチに売って!!」


「えっ、ええっ??」


 戸惑うカイに女は身体を擦り付けるように近付いた。猫のようにしなやかで機敏な動きだ。


「いくらなん?いくら出せば売ってくれるん??ああ、そや、お金じゃ無理言うんやったらウチもつけるで!お兄さんイケメンやし、ウチのこと好きにしてええからっ!どう?こう見えて結構着痩せするんよ。」


「あの、いや、」


 女の勢いにカイはたじたじだ。エストナは今にもくっつきそうなほど顔を近付けている女に思わず赤面している。

 しかし、すぐに頭を振って二人の間に割り込んだ。


「えいっ!」


「ああん、もう!お嬢ちゃん、何すんの!」


 カイから強引に離された女は不満そうな声を上げた。


「カイさんが困ってます!それに、名前も名乗ってないのに、その、そういう関係をすすめるのは、その、破廉恥です!」


「お嬢ちゃん、見た目通りの初心(うぶ)子ちゃんやなあ。まあでもそれもそうか。うちとしたことが焦り過ぎたわ!」


 女はカイから距離を取り、腰に手を当てて大きく胸を逸らせた。


 ライアンは密かに、着痩せすると言っていたのは嘘だと思った。


 「うちの名前はテトラ!いずれは世界をまたにかける大商人になる予定のぴっちぴちの二十歳の女の子やっ!よろしゅうな!!」


 テトラはそういって、満面の笑顔を浮かべるのであった。

いつも読んで頂きありがとうございます!

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