貿易の街デガ
楽しんで頂ければ幸いです。
あれから馬車へと戻った一同は、戻って来ていた執事と侍女に泣きながら出迎えられた。
残念ながら雇った護衛は少し離れた場所で遺体として見つかった。
片身の品となるように、身分証と髪の毛、また野盗に使われないよう武器や防具などを手早く回収し、再び街への道程を急いだ。
そこから先は平穏だったといってもいいだろう。多少の魔物が出てくることはあったが、全てライアンとカイで倒した。それ以外には盗賊などは現れず、順調に旅路を進んで行った。
カイは旅の中で一行と打ち解け、街に着く頃にはライアンやエストナとは気軽に軽口を叩き合う仲になっていた。
「ここがデガの街かあ。」
きょろきょろと物珍しそうに周囲を見回すカイに、ライアンは溜息をついた。
「ったく、身分証はなくすわ、デガの街は知らねえわ、お前は何もんなんだよ。」
そう、カイは身分証を持っていなかった為、門を通過する時に止められた。幸い、エストナの身分が信頼のおけるものであったのでことなきを得た。
そひてエストナ達を送り届ける前に、ギルドに身分証を申請しに来ているのであった。
「あはは、ホントどうしちゃったんだろうね。どっかに落としたのかなー。」
カイは朗らかに笑うとわざとらしく頭をかいた。
ライアンは片眉を上げてその様子を見ていたが、しかしそれを問い詰めることはしなかった。
貿易の街―――そう言われるほど、デガは物流が盛んな街であった。そもそもの街のおこりが宿場町で商人達が商いを始め、そこに旅人が立ち寄り始めたことがきっかけだった。
東西南北全てに街道が伸びてはいるが、商いを始めた商人達も、泊まるだけなのは勿体ないと思って始めた商売が、まさかそこまで流行るとは思っていなかったというのが本音だろう。
兎にも角にも、長い時間をかけてデガは旅の通過地点から、旅の目的地へと大きく発展を遂げた。
他国からデガに交易を行いにくる商人達も多い。
喧騒が飛び交い、人のごった返した道のりをカイとライアン、そしてエストナ達を乗せた馬車がのろのろと進む。
商人達があれやこれやと興味を引く文言を並べたて、客を呼び寄せる。カイ達もまた、苦笑を漏らし、それらを断りながら進んでいた。
そんな中、露天の武器屋の親父も同じようにこちらへと声をかけてくる。
「なあ、兄ちゃん達!見たところ戦う職業って感じだが、古代ムル王朝の頃の魔導武器に興味ないかい??」
「何っ??ムル王朝の魔導武器だと!?」
親父の売り文句にライアンが食い付いた。
カイは興味がなかったので、ライアンが話している間、エストナ達と会話することにした。
「親父!見せてくれ!!」
「ああ、いいぜ。こいつだ」
そういって親父は一本の剣を持ち上げた。少しくすんだその剣は、変わった形をしていた。
持ち手の部分にトリガーが付いており、その横に何かを差し込む器具が付けられている。
「おおっ!!これが魔導武器というものか。親父、いくらだ??」
エストナはライアンの様子を見て呆れたように首を振った。その様子に興味を覚えたカイが尋ねる。
「ライアンはいつもああなのかい?」
「はい。どうやら魔導具や魔導武器にすごく憧れを持っているみたいで。集めるのが好きみたいです。」
「なるほどね。」
エストナの言葉にカイは苦笑を漏らした。つられてエストナも笑ってしまう。
二人がそんな話をしていると、親父がライアンに魔導武器を見せびらかしながら金額を告げている。
「ここであったのも何かの縁てやつさあ。金貨五枚でいいぜ。」
「なんとっ!それは高すぎる!!」
「ん?あれは・・・・・・。」
カイは親父の持っている魔導武器を見て眉を顰めた。
ライアンは値段を聞いて驚きの声を上げる。
それもそのはずで、金貨一枚で一ヶ月は贅沢をしなければ暮らせるといわれている。
金貨五枚という金額は使えるかどうかもわからない武器に払うには高すぎた。
「とはいえなあ、こいつは掘り出しもんだ。だがどうしてもっていうんなら、こいつは付属の品が欠けている。その分を差し引いて金貨三枚でどうだい??」
親父はいかにもしょうがないといった体で首を振った。
「三枚か・・・・・・わかった!!買う、買うぞ!」
ライアンは悩んだ末に買うことにしたようだ。懐中に忍ばせた巾着の中から、金貨を取り出そうとする。
しかし、その腕を掴む者がいた。
いつの間にか近付いて来ていたカイだ。カイは腕を掴んだままライアンの顔を見ると、少し厳しい表情で首を振った。
「ライアン、やめた方がいい。これは、偽物だ。」
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