戦闘
おかしい・・・・・・もう少しコンパクトにすませるシーンだったハズが。解せぬ。
というわけで第三話、楽しんで頂けたら幸いです。
カイへと躍り出た四人の男はチームワークなど知らぬと言った動きで攻撃を繰り出した。
上段から鉈を振り下ろすもの、一直線に短剣を突き出すもの、また振り回すもの、木に斧を振るうように錆びた剣を横に薙ぐもの、その動きはまるで一貫性がなく、それは男達が力技でこれまでを凌いできたことを容易に想像させた。
しかし、だからこそやり辛い。歴戦の戦士も、素人の思わぬ一撃で命を落としてしまうことは少なくはない。
予測が出来ないからだ。玄人同士の場合、武器で打ち合うよりも、相手の動きを読み、そこに武器を持っていくという表現の方が正しい。
そういった意味では、四人の男達の動きは功を奏していたといえる。
「カイさんっ」
エストナはたまらずカイへと声をかけた。
四つの方向から、放たれたそのような素人の攻撃を躱せるはずがない。エストナの心配は確かなものであったし、また男達も自分達の勝利を疑っていなかった。
「・・・・・・。」
その時、カイが何かを呟いた。
それは一瞬の出来事だった。カイの姿が消えたと思うと、男達の後ろにいて、男達は突如訪れた痛みに獲物を取り落としてうずくまる。
「なんだ、ありゃあ・・・・・・。」
エストナは大きく目を見開き、ライアンもまた驚愕の表情を露わにしていた。
「くそお、てめえなにしやがった!!」
盗賊の一人が噛み締めた歯の間から絞り出すように声を出す。
片方の手が添えられた腕は痛みからブルブルと震えており、獲物を握れる状態ではない。
「特に何もしてないよ。素早く動いて柄頭で皆んなを殴っただけ。」
「そんなバカな話があるか!一切の動きが見えなかったぞ!!」
カイの返答に堪らずライアンが声を荒げた。
(普通どれだけ早く動いたとしても影は残像として残る。あいつはそれすらもなくいきなり四人の後ろに現れた!速く動いただけだと??人間|にそんなことが出来るわけがねえ!|)
ライアンは目の前で起こった衝撃に思わず喉を鳴らす。知らず知らずのうちに額から汗が垂れていき、喉仏のあたりを伝う。
「えー、本当なのになあ。あっ、でもちょっとした術は使ったかな!自分の動きを速くする術!」
カイは信じてもらえないことに口を尖らせるが、すぐにポンと手を鳴らした。
それに食いついたのは今度はエストナだった。
「そんな術、聞いたことがありません!!」
(魔法はあくまで外部に影響を与える方法。自分にかけることが出来る魔法なんて、知らない。)
「うーん、とはいってもなあ。あっ、なんか武術の達人とかが闘気を纏ったりするじゃない??あれと似たようなものだよ。僕は闘気の代わりに魔力を使ったんだよ。」
「そんなことが・・・・・・。でも、確かに理論上は
同じ・・・・・・いえ、でも・・・・・・。」
エストナはまだ信用出来ないといった様子であったが何か思うところがあるのかぶつぶつ自分の思考に埋没してしまった。
「くそがあっ、ぺちゃくちゃくっちゃべってんじゃねえよ!!」
「お嬢っ!」
「動くな!この女を殺されたくなきゃなっ!」
三人の一瞬の隙をついて、盗賊の一人が蹲った状態のままエストナを引き寄せた。痛めた手とは逆の手に握ったナイフを首元に押し当てる。
「くっ、しまった!」
「へへっ、そこを動くんじゃねえぞ!」
男は勝ち誇った笑みを浮かべながら、ずりずりと足を器用に使い後ろへと下がる。
その頃には他の盗賊達も起き上がり獲物を構え直していた。
「ライアン、カイさん・・・・・・。」
突然の出来事にエストナの顔は恐怖で青褪めていた。
(私が関係ないことに気を取られていたから。)
後悔と己への苛立ちで思わず涙が浮かんでしまう。このままでは自分は連れ去られてどうなるかわかったものではないし、自分を人質にもしかしたら二人とも殺されてしまうかも知れない。いや、間違いなく殺されるだろう。
そう考えるとエストナは取り返しのつかないことをしてしまったと肝を冷やした。
しかしすぐにグッとお腹に力を込めると、動けないでいる二人に声をかける。
「私のことは構わずに、逃げてください!」
「うるせえっ!余計なこと言うんじゃねえ!」
耳元で発せられた男の怒鳴り声にエストナは思わずぎゅっと目を瞑った。
そこへ、カイの柔らかな声が届く。
「エストナさん。大丈夫。」
「おいっ、カイ!」
「・・・・・・。」
ライアンが動き出したカイを止める前にカイは再び何かを呟いていた。
瞬間、男達のくぐもった声が響き、エストナはふわりと何かに包まれた。
「えっ?」
「エストナさん。もう大丈夫。」
カイの言葉に恐る恐る目を開けると、目の前に自分を抱きかかえているカイの顔があった。
周囲には血を流し、事切れている四人の盗賊がいる。
「えっ、えっ、一体どうやって?」
「おい、カイ。お前一体何をしたんだ・・・・・・。」
驚きの表情を浮かべて固まる二人を見て、カイは柔らかな微笑みを浮かべた。
「内緒。」
その表情は変わらず優しげで、人を四人切ったことが彼の感情に微塵も影響を与えていないことが見てとれた。
「それよりもエストナさん。大丈夫?たてる??」
「えっ、あ、はい。」
ゆっくりと地面に降ろされたエストナは、その儚げなカイの笑顔をみて、見惚れるよりも何故か哀しさと、そして恐れを抱いた。
こうして話している自分すら、同じ表情を浮かべて簡単に殺してしまうのではないかと
思ったのだ。
カイはエストナの様子を見て、眉尻を下げた。
「怖がらせちゃったかな。ごめんね。」
「いえ、私の方こそ助けてもらったのに、申し訳ありません。」
(私ったら、なんて失礼なことをっ。)
エストナは己の失態に気付き慌てて頭を下げた。
カイはその様子をみてほっとしたように微笑んだ。
ライアンはいつの間にか死体をエストナから離れたところに一箇所に集め、持ち物を選別していた。目ぼしいものを剥ぎ取り、二人へと近寄る。
「それにしても、カイってすげえ強いんだな。お嬢が捕まったときは終わったと思ったぜ。助かった。」
「気にしなくていいよ。僕の判断ミスだ。殺すつもりはなくて、最初ので懲りて逃げてくれればそれで良かったんだけど・・・・・・エストナさん、怖い思いをさせてごめんね。ライアンさんも。」
「いえっ、カイさんが頭を下げることではっ!それに私が余計なことを考えていたのが悪いんですっ!」
頭を下げたカイに慌ててエストナを両手を振って己の非を詫びる。
「あー、それでいうなら一番悪いのは俺だ。お嬢の近くにいながら動きに気が付かなかった。」
ライアンは気まずそうに頭をかいた。
「いや、だからそれは僕が。」
「いえ、私が。」
「だから俺ですって」
そのまましばらく三者三様に謝っていたが、三人は顔を見合わせると誰からともなく吹き出した。
「うん、やっぱりエストナさんは笑顔がよく似合うね。」
カイは笑う二人を見て、心から嬉しそうに微笑んだ。
「っ!」
「おまっ、ナチュラルにお嬢を口説くんじゃねえっ!」
「えっ、そんなつもりはなかったんだけど。」
カイの言葉に顔を赤くするエストナを見てライアンは慌ててカイの方は詰め寄る。
言われたカイの方は何のことかわからないと首を傾げた。
その二人の様子を見て、エストナは再び笑顔を浮かべる。
「それで、エストナさんとライアンさんはこの後どうするの??」
「そうさなあ。とりあえずは馬車まで戻って、その後はまた街道の先の街を目指すかな。」
「なるほどね。ねっ、さっき話した条件だけど、僕もその街についていっていいかな?」
カイの言葉にエストナとライアンは顔を見合わせ、どちらからともなく大きく頷いた。
エストナが満面の笑みを浮かべる。
「勿論です!お礼もしたいですし、是非よろしくお願いします!!」
「良かった!それじゃあよろしくね、エストナさん、ライアンさん。」
破顔したカイに、エストナが近付きその顔を見上げた。シミひとつない健康的な頬を膨らませている。
先ほどまでと打って変わった様子のエストナにカイは思わずのけぞってしまう。
「エストナ!」
「えっ?」
「エストナって呼んでください。これからしばらく一緒なんですから、さん付けなんて寂しいです!」
「俺もライアンでいい。」
「えっ、でもエストナさんはなんか身分が高そうな感じがするんだけど・・・・・・。」
「エストナ!!」
「気にしなくていい。お嬢は昔からその辺りは寛容だ。」
「そっ、そう。」
カイはまじまじと二人を眺めていたがやがてその顔に苦笑を浮かべた。
「わかったよ。エストナ、ライアン。僕のこともカイでいいからね。」
「はいっ!カイ!!」
エストナは不満げな顔を一転、満面の笑顔に染めた。ころころと変わる表情にカイも知らず微笑んでいた。
「まあ俺は最初から呼び捨てで呼んでだけどなっ!」
「エストナ、条件の追加だけど、ライアンをクビにしてもいいかな?」
「はいっ、大丈夫です!!」
「ちょっ!悪かった!!お嬢!クビは勘弁してくだせえっ!」
先程出会ったばかりとは思えない二人の息の合った会話にライアンは慌てる。その様子を見て二人は顔を見合わせ笑みを浮かべるのだった。
「さてと、馬車まで戻るんだよね。こっちでいいのかな?」
「ああ、真っ直ぐに逃げてきたから、こっちで大丈夫な筈だ。」
一頻り笑った後、カイは話を切り替え、ライアン達が来た方向を指さした。
その言葉に同意するライアン。
カイはライアンの返答に頷き、エストナを促した。
「じゃあ、行こうか。他に一緒にいた人は居ないの?」
「いえ、護衛が何人かと、侍女と執事がいました。それぞれ別の方角に逃げたので、何もなければ戻っているとは思うんですが。」
「そう、じゃあ早く戻って無事な姿を見せてあげないとね。」
二人は会話しながら逃げてきた森の中へと歩いていく。
ライアンは二人の背中追いかけようと足を踏み出そうとして、止めた。
(一時はどうなるかと思ったが、カイがいてくれて助かった。お嬢も怖かっただろうに、カイのお陰で上手いこと気が紛れてるようだ。・・・・・・それにしても、カイのやつはなんでこっちから来たんだ?この奥は確か森続きで山に突き当たるハズだが。格好もやけに身軽だが。それに、あの術は一体・・・・・・いや、悪いやつでは無さそうだし、今は気にしても仕方がないか。)
ライアンは一度カイが来た方を振り返ったが、すぐに頭を振って二人の後を追いかけた。
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