出会い
楽しんで頂けたら幸いです。
「お嬢っ!こっちです!!」
街道から外れた森の中を一組の男女が入っていた。
男は女の手を引っ張り、生い茂る草や木々を空いている片方の手で掻き分けている。
その様子は尋常ではなく、頻繁に振り返り、女の頭越しに後方を確認しては、焦ったように強く女の手を引いて進んでいく。
身なりは悪くない。身を包む革鎧はまだ新しく、動きやすいチュニックと丈の長いズボンを履いているが、その素材のどれもがそれなりに質の良いものだとわかる。といっても、木々を掻き分けて進むうちにすっかり汚れてしまっているが。
「きゃっ」
中ば引っ張られるようにして後を追いかけていた女が、足元の木の根に気付かずに躓いた。
その拍子に膝をつき、フリルのついたスカートが土で汚れる。
「すいません、っつ!」
後ろを気にして慌てて立ち上がり進もうとするも、突如感じた痛みに整った顔を顰める。
どうやら躓いた時に足首を痛めてしまったようだ。
「お嬢、大丈夫ですか?すいません、俺が引っ張りすぎたから。」
「ううん、私も焦って足元を見ていなかったから。」
「立てますかい??」
「なんとか、ね。」
男の手をかりてゆっくりと立ち上がった女は再びゆっくりとではあるが足を動かして進みだした。
その額に大粒の汗が浮かんでいる。
「いたぞっ!!あの先だ!!」
「くそっ、追いつかれた!」
声と共に二人へと向かってくる気配がする。まだ近くはないが、そこまで余裕がある距離ではなかった。
男と女は痛む身体に鞭打って木々を掻き分けていく。
やがて二人の目の前が開けた。どうやら森の中にある拓けた場所に行きあたったようだ。
進みやすくなったことに二人は喜び、速度を上げた。しかし、その歩みは中程まで進んだあたりで止まった。正面の茂みから、物音と共に1人の男が現れる。
「回り込まれていたのかっ!」
女の手を引いていた男は悔し気に膝を叩き、女を庇うように前に出ると腰に刺していた細身の剣を抜き払った。
「ライアンっ!」
「お嬢、俺に任せてくだせえ。お嬢には指一本触れさせやしません。」
「でもっ!」
「あいたたた・・・・・・、しばらく見ない間に随分と木が育ってるなあ。あっ、ここも擦りむいてるや。服も引っかけちゃったし、ついてないなあ。」
「おいっ!」
男は二人のことなど目に入っていないとばかりに、腕やシャツの様子を気にかけている。
頭についた葉っぱを面倒くさそうに払うと、銀色の髪がサラサラとなびいた。
ライアンが堪らずに声をかけると、男は二人にいま気が付いたというふうに顔を二人の方へと向けた。
「えっ、どうしたの??」
「とぼけるな!お前もあいつらの仲間だろう!」
「へっ、えっ??何の話??とりあえずその物騒なものはしまってくれない?あっ、無理??じゃあしょうがないか。うーん、どうしよう、困ったなあ。」
ライアンの剣幕に男はしどろもどろになった。頭をぽりぽりとかきながら心底困ったという様子だ。
その様子を眺める者がいた。ライアンの後ろに隠れている女である。
(本当に仲間じゃないの?だとしたらこの人にも危険を伝えてあげないと、でも腰に剣も下げているし、見たところ1人ってことはそこそこ強い?むしろ助けを頼んでみ
でも・・・・・・ううん、どのみちこのままじゃ逃げきれない。私はここで終わるわけにはいかないもの!)
意を決して女はライアンと問答を続けている男に声をかけた。
「あのっ!!」
「お嬢っ!危ないですよ!」
「いいの、大丈夫よ。あの!私の名前はエストナって言います。」
「これはご丁寧に、どうも。僕はカイって言います。宜しくね。」
「あっはい、宜しくお願いします・・・・・・じゃなくて!
助けて貰えませんか!?私たち盗賊に追われていて!」
男はマイペースな性格のようだ。エストナと名乗った女に丁寧に頭を下げる。
エストナもつられて頭を下げるが、目的を思い出し大きく頭を振った。
「盗賊??何でまた。」
「私たちはこの先にある街に向かう途中で、襲われてしまって。最近はなりを潜めているという話だったので護衛も多くは連れてきていませんでした。」
「ふーん。」
カイはエストナの話を聞いていたがチラリと視線をライアンの方に向けた。
「そっちのお兄さんは?いいの?部外者が手を貸して。」
ライアンは険しい顔つきでやりとりをしているカイの方を睨みつけていたが、やがて表情を緩めた。
「どうやら本当に関係ないようだな。俺はお嬢・・・・・・エストナ様に仕えている。エストナ様が頼んでいるなら異存はねえよ。」
どうやらカイはライアンのことを雇われた傭兵か何かと勘違いしていたようだ。確かに着ているものはいいが、所々生えた無精髭とその言葉遣いは侍従というよりは荒くれ者のそれだったからであろう。
驚きに眉を挙げるが、すぐに元の表情へと戻し、再びエストナに顔を向けた。
「ということで手伝うのは問題ないけれど、それには条件があるかな。」
「この野郎!お嬢に対して何て口を」
「ライアン!わかりました。私に出来ることで有れば、協力します。」
いきり立つライアンを諌め、エストナは頷いた。一歩進み、カイの正面に立つ。
(それにしても、綺麗な顔立ち。それになんだか見覚えのあるような、懐かしいような。)
カイの目の前に立ったことで、カイの顔がはっきりと見えるようになったエストナはその顔を見て思わず状況を忘れてしまった。
見惚れている、といえば聞こえはいいが、まじまじと自分の顔を眺められているカイは思わず苦笑を漏らせた。
「交渉成立だね。それで、盗賊っていうのはこのお兄さんのことでいいのかな?顔もなんかそれっぽいし。」
「んだと、誰が盗賊面だっ!」
「冗談だよ、それで、あいつらでいいの??」
カイが指さした先にはこちらへと追いついてきた四人の男がいた。手にはそれぞれ獲物を持っている。
「やっと追いついたぜ。さあ、大人しくしな。」
盗賊のうちの一人が獲物を弄びながら勝ち誇った表情を浮かべた。
仲間達もニヤニヤと笑いを浮かべている。
「っ!」
男達の下卑た表情にエストナは気圧され、ライアンの後ろへと下がった。
その様子を見て男達は嗜虐心を煽られて欲望の浮かんだ笑み深くする。
「大丈夫。下がって。ライアン、さん?守りは任せるね。」
カイはそういうと二人の前に出た。鞘からはまた剣を出していない。
盗賊達は見覚えのないカイに警戒を覚え、それぞれ獲物を構えた。
「なんだ!てめえは!!」
「カイです。よろしくお願いします。」
「ああ、こいつは丁寧に、どうもっ、じゃねえ!!ふざけやがって!」
カイののんびりとした様子に先程勝ち誇っていた男もつられるが、すぐにバカにされたと怒りに顔を赤くした。
ジリジリとカイを囲むように四人が近づく。様子を見て、一斉にかかるつもりだろう。
「もう、みんなつれないなあ。怒ると幸せが逃げていくよ。笑わないと。」
カイはため息をつくとゆっくりと鞘から剣を抜き出した。
「やかましいっ、行くぞっ!!」
男の掛け声と共に、四人はカイへと獲物も振り、一斉に躍り出た。
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