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使徒2

お待たせ致しました!


楽しんで頂ければ幸いです!

「お嬢!!」


 エストナの悲鳴を聞き、しまったと表情を歪めるライアンの前で、シエルは満足気に微笑んでいる。


 エストナの隣に少女がおり、恍惚とした表情浮かべながら鋭く伸びた爪をエストナの首元に突きつけていた。

 

「てめえ!お嬢から離れやがれ!!」


 ライアンの怒声に少女は目を細め、爪を更に首元へと近づけた。


「人間フぜいが命令シないデよね。」


「くっ。」


「あハハ、悔シがってルー!!楽しい楽シいー!!」


「こら、ガキンチョ!サッサっとエストナちゃんから離れろ!」


 片手の指の爪をカチカチと器用に打ち鳴らしながら少女はけたけたと笑い声を上げた。

 だがその隙に出来た一瞬を見計らい、テトラが持っていた筒の引き金を引いた。


 何かが圧力によって放たれる音が響き、続きで白銀の球体が少女へと向かっていった。

 少女は迫り来る球体を躱そうと僅かに身を捩るが、躱しきれず掠った球体は少女の頬に僅かな傷をつけた。


「へえ!面白い武器ですね。」


 テトラの武器を興味深そうに見つめるシエルは少女の近くへと移動すると、彼女の頬を優しく撫でた。


「ウベキエル、可哀想に。可愛らしい頬に傷がついてしまったね。」


「っ!!」


 ウベキエルは頬を撫でられているというのに、緊張で顔を強張らせた。


「ウベキエルのホっぺニ傷がついてルと、シエルは嫌いニなる??」


 怯えたように問いかけた彼女の言葉にシエルはにっこりと微笑んだ。


「嫌いにはならないけれど、可愛いがってはあげたくなくなるかな。」


 しん、と空気が凍りついた。いや、実際にはそれは僅かな時間のことであったが、その僅かな時間の間に、ウベキエルの表情が抜け落ちて、得も言われぬ圧力が吹き出したのだった。


「あ、ア、ア、あ゛あああァア゛ぁアぁぁぁ!!!!」


 端正な顔を悲愴なまでに歪めた少女は両目から涙を溢しながら両手で頭を抱え込むように叫びを上げた。


「っ!」


「お嬢!」


 その拍子に、ウベキエルの爪がエストナの頬を掠り

一本の線が彼女の顔に走った。薄らと血が滲んでいく。


「ゆるサなイ、ゆルさない!ユるサない!!!」


「なんやのん、あの子!」


 それまでの余裕の表情から一転、顔を憤怒の色に染めたウベキエルがライアンとテトラを睨みつけた。


「さっサと殺してオくべきダった!!」


 次いで、エストナへと視線を向けると、爪をを重ね合わせるように拳を握り、彼女へ一息に振り下ろした。


「お嬢ー!!」


 ライアンが駆け寄ろうとするも間に合わない。エストナは自分に振り下ろされる少女の腕を見ていられず、思い切り目を瞑った。


 しかし、己を貫くはずの衝撃や痛みは訪れない。それどころか、どこか温もりを感じた。


「・・・・・・カイ!!」


 恐る恐る目をあけたエストナの視界に入って来たのは、カイの横顔だった。

 エストナを左手で抱きよせ、右手に持った剣の腹でウベキエルの手を受け止めていた。

 その表情は、普段の柔和な彼の持つものよりも、少しばかり鋭さを持って対面の二人を睨みつけていた。


「ふっ!」


 呼吸と共にウベキエルを剣で押し返したカイは、エストナの体重を感じさせない程に軽々と彼女を抱え、ライアン達のいるところまで飛び上がった。


「カイ!助かった!!」


「兄さん、やっぱやるやん!!」


 口々に歓声をあげる二人を見て僅かに目を細めるとカイはエストナをライアンへと預け、少女と男へと剣を構え直した。


「邪魔シないで!きミと遊んデいる場合ジゃないのッ!!」


「悪いね。でも君達を野放しにしておくわけにはいかない。」


 いらいらと声を荒げるウベキエルにカイは飄々とした様子で答えた。そこへ、様子を見守っていたシエルが割り込んだ。


「貴方がウベキエルの言っていた不思議な男ですか、はて、何処かで見覚えがあるような。」


「君は?」


「ここで死ぬのに名前なんて聞いても仕方がないでしょう。」


「ここで死ぬんだから、お墓の為に名前くらいは聞いて置こうと思ったけど、仕方がないね。」


「ははは、愉快な方だ。」


 軽快に言葉を交わしている様に見える二人だったが、シエルが愛想笑いを終えた瞬間、事態は急変した。


 カイとウベキエルとシエル、三人が地面を蹴り相手の間合いへと踏み込んだ。

 ウベキエルは爪を武器に、シエルは両手の平に魔力で作った黒い球体を浮かべてカイへと肉迫した。


 カイは飛び出した流れのままウベキエルへと切りかかった。ウベキエルが爪で受け止めるも、体重差もあって弾かれる。

 更に一歩踏み込もうとしたところを今度はシエルが浮かべた球体と共に掌底をカイへと繰り出した。

 

 避ける為に剣を振り下ろさずくるりと手の部分で下向きに回転させると、球体は剣の腹に当たりバチバチと放電するような音を立てた。


「器用なことをしますね。それにしても、うーん、やはり誰かに似ているような・・・・・・。」


 シエルはカイから距離を取ると飄々とした様子で首を傾げた。

 

「奇遇だ。僕も君に似た知人がいたよ。」


 言いながら再びカイが懐に飛び込んだ。


「ほう!それはそれは!!是非ともお会いしたいものです。」


 カイの斬撃を事もなく躱し、球体を叩きつけるシエル。


「それは無理かな。もし次にあったら僕がそいつを殺すから。」


 カイもまた掌底を躱し、捻りざまに剣を切り上げた。


「それは残念。」


 ゆったりとした動きで飛び上がったシエルはカイから少し距離をとって着地した。


「シエル、わたしノ獲物!!」


 シエルの横から飛び出したウベキエルが今度はカイに襲いかかる。

 時間差でシエルもまたカイへと攻撃を仕掛けた。


 相手の動きを見逃さないように最小の動きで躱し、またはいなし続けるカイだったが、やはりニ対一では動きが制限される。

 


 息の合った二人の攻撃に、カイの身体に傷痕が出来ていった。


「カイ!!」


 エストナはカイに呼びかけるも、中に入ることは出来ない。既に常人や多少心得のある程度の腕ではその戦いに干渉することは出来なかった。


「くそ、速すぎて下手に斬り込むと邪魔になっちまう。」


 ライアンが悔しそうに拳を握りしめる。


「うちもや。的の動きが速すぎてあれじゃ狙われへん。」


 テトラもまた同様に唇を噛み締めた。




「ははは、ウベキエルの言っていた通り面白い!!あなたは何者です?既に普通の人間なら何回死んだかわかりませんよ。」


「普通の人間さ。頑丈なだけだよ。」


「成る程、ではこういうのはどうでしょう。」


 シエルはその言葉でカイからまたしても距離をとった。

 そしてパチリと芝居ぶった動きで指を鳴らす。


「何をっ!」


 追いかけようと足を踏み出したカイの耳に、背後から三人の悲鳴が聞こえた。


「きゃあ!」


「何だ、これは!!ぐっ!」


「あかん、立ってられへん!!」


 慌てて振り向いたカイの視界に映っていたのは、黒い霧で周囲を囲まれた三人の姿だった。


「あまり時間をかけてもいられませんからね!あの霧は貴方のお仲間から生命力を奪う!放置していてはすぐに三体の干物の出来上がりですよ!」


 シエルの笑い声にカイは答えない。ただ呆然とした表情で三人を、いや黒い霧を見つめていた。


 エストナが苦しげにカイの方に視線を向けた。


「カ・・・・・・イ・・・・・・。」


「あはははは、どうしました!早くしないとあの因子はすぐに死んでしまいますよ!!まさかこれで終わりなんて、おや??」


 カイの表情は前髪に隠れていて見えない。ただカイの身体からは圧縮された膨大な魔力が吹き出し始めていた。


「・・・・・・けた。」


「ん?何か言いましたか?」


「似ていると思った。声も仕草も、そのうわついた表情も・・・・・・。」


「何の話でしょうかねえ。」


 ブツブツと何かを呟くカイを見てやれやれとシエルは首を振った。


「反応無しですか。これではつまらない。早く殺して終わりにしてしまいましょう。」


 シエルが最後の仕上げとばかりに指を構えたとき、彼の構えた腕の先には何もなかった。


「おや?」


 訝しむ様に目を細めたシエルの目に、転がった己の手首が映り込んだ。


「えっ?」


 呆気に取られるシエルの目の前で、カイの魔力が更に膨れ上がった。


「全て気のせいだと思った!だがその魔術は、その魔術だけは絶対に忘れない!!シエルマリスっ!!貴様かあああああ!!!」


 カイの叫び声に合わせてその場には魔力の嵐が吹き起こった。

 周囲の家の壁が砕け、屋根の一部も剥がれ落ちていく。


 三人を覆っていた霧ですら、カイの魔力に上書きされて掻き消えていった。


「カ、イ・・・・・・。」


「何だ、ありゃあ。」


 支え合う様にして崩れ落ちた三人はカイの姿に目を見張った。


 身体から大量の魔力が吹き上がり、目に見える程に濃い色合いのそれは彼を取り巻きながら周囲に嵐のような影響を与えていた。


「見て!兄さんの身体と髪が!!」


 三人が見つめる先で更なる変化が起きた。カイの身体に不可思議な紋様が走り、彼のもつ剣にもまた同様の紋様が浮き上がった。

 髪が伸び、首元までしかなかった銀髪は背中の辺りまで伸びている。

 目つきも鋭くなり、浮かべる表情は既にカイの持つ柔和な要素は微塵もない。


 不敵で傲岸な表情を浮かべた一人の男がそこにいた。


「ああ、ああ!!」


 その様子を目の当たりにしていたシエルもまた驚きの声をあげ、更に歓喜の声を上げた。


 恍惚とした表情で両手を広げてまるでカイを迎え入れるような姿勢をとった。

 カイに切り落とされたはずの手は何故か既に元の位置に戻っていた。


「誰か誰かと思えばなんと!!カイルディア王!!!我が愛しの王様ではないですか!!」


「・・・・・・以前に、貴様が、()を王と呼ぶことは許さんと言った筈だ。絶対にだ。」


「知リ合イ?」


 爪先でカイの魔力が巻き起こす暴風を避けながら、ウベキエルは喜びを露わにするシエルに話しかけた。


 シエルは顔に喜色満面で頷いた。


「ええ!そうですよ!ウベキエル。偉大にして最も愚かな王、神に負けて配下を全て失った敗北の魔王!!カイルディア陛下ですよ!!!」


 瞬間、カイの魔力が弾け飛んだ。




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