血脈2
楽しんで頂ければ幸いです。
本日追放国王も更新しますので、そちらも是非っ!
フリードとの会話を思い返すテトラに、ライアンは椅子を勧めた。エストナはベッドに腰をかけている。
ライアンは自分も椅子を引き寄せると、背もたれを前にして乱暴に腰掛けた。
テトラの中に不安という名の塊が湧き上がる。
(こら何というかあかんもんに関わってしもうたかもしれんなあ。)
勧められた椅子に腰を下ろし、目の前に座る二人の表情を眺めたテトラは、これから話されることがフリードの言っていたことと無関係ではないことが容易に想像がついてしまった。
「それで、続きを聞こうか。」
ライアンはテトラを鋭く睨め付けながら背もたれの上に腕を置いた。
「ああ、そや。それでな・・・・・・。」
テトラが話し終えると、部屋の中は静まり返っていた。
二人の表情を確認するが、何かを考えているようにと見えるし、思考を止めているようにも見える。
何となく言葉を繋がないとという思いに襲われたテトラは慌てて口を開こうとするが、それより先にエストナが口を開いた。
「では、この街で今狙われているのは血脈、その中でも因子ということですね?」
「えっ?あ、うん。」
「一つお前さんの説明に付け加えると、血脈ってのは魔力を持った生まれ変わった人間達だ。そんで因子っていうのはその中でも特定の魔力を持った人間、ってやつだな。」
ライアンが背もたれから腕を離し、伸びをした。
「その、特定の魔力てどうやってわかるん?」
「知らん。」
首を振ったライアンを横目に、エストナが言葉を付け足した。
可憐な見た目と透き通るような声は、話を聞いているだけで昔話の朗読を聞いているような、そんな不思議な感覚をテトラは感じた。
「なんていうんでしょうか。例えば、ある聖人がいました。彼は膨大な魔力を持っていて、多くのことを為しました。その彼と、全く同じことが出来る聖人が、過去にいたとします。テトラさんはどう考えますか?」
「そりゃあ、その人の生まれ変わりやー!とかその人本人やーて思うんちゃうかな。」
テトラの回答にエストナは頷いた。
「なので、その人は過去の聖人の因子を持った血脈です、ということですね。」
「うー?なんやそれ聞いても正直よう分からんな。それで、その因子とかってのはどうやってわかるん?」
眉を顰めなんとか理解しようと変わった反応を漏らすテトラに、エストナはクスリと微笑んだ。
「それは、わかりません。だって今生きている人は元の人を見たことがないんですから、わかるわけがないんです。」
「なんや、そら!真剣に考えて損した気分やわあ。」
テトラは気が抜けたのだろう、背もたれに大きく身体を預けた。だが、ライアンが鍵を刺すように首を振った。
「だがお前さんはフリードってやつからニ千年前の因子だって聞かされたんだろう?てことはそれを判別する方法があって、狙ってるやつもそれを知っているってことだ。」
「あ、成る程!おっさん案外頭ええねんなあ。」
「うるせえっ!何で話を真面目に聞かねえんだ、このロリ団子がっ!」
「アハハ堪忍や。ちょっと話が重うなったから耐え切られへんかってん。」
瞬く間に言い争いに発展して、騒ぐ二人を見てエストナは笑いを堪えきれなくなり、噴き出した。
テトラはそれを見て味方にしようとエストナに近づくが、ライアンは違った。
(不安だろうに。相変わらず強いお方だ。少しでも気持ちが紛れてくれればいいが。)
ベッドの上でもみくちゃにされるエストナを眺めながらひっそりと溜め息をついたのだった。
不意に動きを止めて、テトラが交互に二人を見た。
「そういえば、何で場所移動したん?これくらいの話やったら別に下でよくなかった?」
その言葉にああ、とライアンは頷いた。
「お嬢だ。お嬢は血脈で、教会が言うにはニ千年前の聖女の一人の因子、だ。」
「へえ、そうなんやそらすごい・・・・・・えええええええ!!!」
何気なく放たれた言葉に、テトラはその日一番の大声をあげたのだった。
三人、主に一人だが、やかましく会話を繰り広げている頃、カイは街の中を気配の主を掴むために歩き回っていた。
何となく残り香のようなものはあるものの、かなり薄れている為、跡を辿ることは出来ない。
広場から大分離れた路地裏での出来事だった。
数ヵ所目を周り、周囲を調べているカイは気配が急激に膨れ上がるのを感じた。
「っ!」
咄嗟に前方に転がりながら気配を遠ざけ、勢いをそのままに立ち上がり、背後を確認する。
カイが先程まで立っていた場所には巨大な爪痕のようなものが刻み付けられていた。
周囲に気を配りながら、油断なく戦闘態勢にうつる。
「・・・・・・。」
何事かを唱え、身体に魔力の膜を薄く張り巡らせていった。
そして今度は余裕を持って移動、剣を抜き放ちながら自分のいた場所を振り返った。
そこには先程と同じように爪痕が刻まれ、そして一人の少女のようなものがいた。
ようなもの、といったのはそれがあまりに歪な見た目だからだった。
ぱっと見は純心そうな少女だ。薄桃色の唇と透き通る肌をもつ少女だったが、彼女の持つ凶悪なまでに鋭く尖った爪、そして何よりも瞳に浮かべた表情そのものがそれを台無しにしていた。
邪悪というよりは澱み、自分のしていることを正しいと疑わない盲目さの色が、彼女の瞳を昏く濁った色に染め上げていた。
少女はカイの方へ小柄な身体と顔を向けると、またその顔に似つかわしくないほど大きく口を吊り上げた。
「へエ、二度モよけた。オ前、普通じャないね。」
「そういう君もね。爪をそんな風に使うと傷んじゃうよ。」
「あハぁ。いうネぇ。」
カイの軽口に少女は挑戦的に笑った。それは酷く苛立っているようでもあり、また愉悦を得ているようでもあった。
「お前ハさっきミたよぉ。でモ、ふシギ、因子持ちジゃあないねネ。」
「それが何かはわからないけど、君が見ていたのには気付いたよ。」
「あア、あの女だネ。あレは因子持チだった。」
「それが彼女を狙う理由なら、辞めてくれないかな。」
嫌らしく笑みを深くした少女は己の爪の先を舐めとるように舌で弄んだ。
「因子持ちハぁ、殺スよ?それガ私の使命だモの。」
「使命、ね。君は、魔人?」
油断なく切っ先を少女へと向けながらカイはジリジリと距離を詰めた。
少女の方はカイの動きに気付いていないのか意識していないのか、その場から動く気配はない。
「アはは、魔人?魔人ダって?そんなヤつらとイっしょニしないデよ!!」
両手を広げてカイの言葉を嘲笑する少女は心底可笑しいといった様子で両手の爪を打ちつけた。
かたや聞いたカイも微笑みを崩さなかった。
「うん――――。」
カイの姿がかき消え、直後少女の前に現れる。小さく脇に構えた剣を、小さく、自分の身体を添うように振るった。
「・・・・・・知ってた。」
だが少女も予想していたのだろう、両手の爪を交差させてカイの剣を受ける。
僅かな時間拮抗した両者であったが、やがてカイが押し勝ち、剣を振り抜いた。
腕を伸ばした状態から流れに身を任せるように身体を回転させ、ニ撃目を叩き込んだ。
少女はそれを後ろに引くことでかわし、身体の流れたカイを突き刺そうと今度は自ら爪を押し込もうと前に出た。
「あッハア!!」
「っつ!」
無理やり身体を捻り攻撃を避けようとしたカイだったが、かわしきれず左腕の肉がえぐれ血が舞った。
だが合わせるように剣を引き戻していた。柄頭で少女の首元を打ち抜いた。
鈍い音と共に少女の首が歪な方向に曲がり、吹き飛んでいく。
体勢を整え、止めを刺そうとしたカイの目の前で、少女は飛び上がった。
そのまま宙に浮き、けたけたと楽しそうに笑い声をあげ始めた。
「あぶナかったァ。キぃみハぁ、ナニものぉ?」
曲がった首をさらに傾げるようにして目を見開いてカイへと問いかける少女の姿は、もはや尋常ではない。
カイはその目を厳しく細めて少女を睨みつけた。
「君は・・・・・・。」
「もウ少シ遊びタかったケど、こレ以上はホン気になっちゃうから、ダめー。」
「なってくれてもいいよ。君たちは絶対に殺す。」
カイの身体から魔力が溢れ出す。強すぎて視覚出来るほどにまで高められたその魔力を見て、少女はさらに喜んだ。
「スごいすゴーい!!因子デもないシ、ホントに何者?魔人ト少し似てルかな?まア今ド聞かせテよ!わたシは使命ガあるかラ、またネ!」
少女の身体を黒い靄が覆っていく。
カイは逃すまいと、地を蹴り飛び上がった。下段に構えた剣を黒い靄に向けて大きく振り抜いた。
空切りした音と共に靄はかき消えた。そこには少女の姿はなく、少女がいたという残滓だけがあった。
地面に降り立ったカイは舌打ちと共に剣を鞘にしまった。
(エストナ達と合流した方がいいね。急がないと。・・・・・・大丈夫だよ、カイルディア。今度は必ず仕留める。)
己の胸をぽんと叩いたカイは、すぐさま宿の方へと駆け出した。
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