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嘆きの街5

少し短めですが、楽しんで頂ければ幸いです。


 宿をとり、荷物を各々の部屋に置いた三人は、階下の食堂に再び集まった。

 

 ライアンが適当な飲み物と軽い食べ物を店主へと注文し、二人の座る席へと戻った。

 何気なく周囲を見渡すが、どうやら客は自分たちだけのようだ。


(街に入ってからも感じたが、なんだか空気が良くないな。人の出入りも少ないし、これは当たりか?)



「さて、今日のこの後の流れだが・・・・・・。」


 店主の持って来た飲み物が三人の手に行き渡った。

 渇いた喉が潤い、いよいよ本題だ、とライアンはテーブルの上に腕を乗せた。


 カイとエストナも少し前のめりになってライアンの言葉に耳を傾けた。


「多分カイやお嬢も感じているかもしれないが、この街には活気がねえ、いや、無さすぎる。魔人かどうかはわからねえが、何かがあるのは間違いない。」


「だね。実はさっきも見られてた。途中で気配を探れなくなったけどね。」


「なにっ!本当か!?」


「カイ・・・・・・それって。」


 二人の反応を前にして、カイは厳しい表情を顔に貼り付けた。


「エストナも感じたよね?」


「は、はい。」


「まあ、そういうことなんだけど、とりあえず僕から言えるのは、ライアンとエストナ、テトラは一人での行動は控えた方がいいってことかな?」


 カイの言葉に、二人は黙り込む。エストナは先程の視線が勘違いではなかったこと、そして得体の知れない何者かに注目されていたという事実に、急に恐ろしくなった。


 思わず込み上げる悪寒に腕をさすった。


「俺達がまとまって行動するのはわかったがよ?カイ、お前はどうするんだ??」


 険しい表情で腕を組むライアンは、カイへと顎をしゃくった。

 それに、頷いてカイは答えた。


「相手の目的がわからないし、力量もわからない。勿論、正体もね。だから僕は皆んながまとまって街で話を聞いている間に、隠れて探ってみるよ。」


「大丈夫なのか?」


 カイの身を案じるように、ライアンは尋ねた。再び、カイ頷いた。


「問題ない。むしろ、戦闘になった時にその方がいい。実をいうと今まで一人で動いて来たから、仲間がいる状態での戦闘に慣れていないんだ。」


 そういって、肩をすくめるカイを心配そうにエストナは眺めるが、事実自分達がいるとカイは自分達に気を取られてしまう、と首を振った。


「無理は、しないでくださいね?」


「うん。」


「さて、流れが決まったら、俺とお嬢はロリ団子を待とう。あいつが合流したら、街の人間に話を聞く。」


 そういうことになった。カイは立ち上がり、こちらを見上げる二人へと片目を瞑り微笑んだ。


「それじゃあ行ってくるね。夜までには戻るよ。」


「ああ、頼んだ。」


「気をつけてくださいね。」


「うん。」


 ライアンの肩、エストナの頭とそれぞれに手を当てて、カイはそのまま宿を出ていった。


 程なくして、入れ替わるようにテトラが宿へと入ってきた。


「お待たせ!あれ?兄さんは??」


「ああ、ちょっと情報を集めにいってもらった。」


 その言葉に、テトラは思い出した、と手を鳴らした。


「そや!情報いうたら、この街結構やばいことなってんで!!」


「バカ!」


「テトラさん!声が大きいです!」


 ライアンとエストナは慌てて周囲に人がいないかを確認した。幸にして客もおらず、どうやら店主も現在は居ないようだ。


 テトラは舌を出しながら二人の前、カイの座っていた席へと腰を下ろした。


 前屈みになり、声を顰めて二人へと話しかける。


「やばいことやけどな?どうやら人がようけ死んどるみたいなんよ。」


「そんな・・・・・・。」


「どんなやつが狙われているんだ?」


「おっさん、ええ目の付け所やな。時にお二人さん、血脈とか、因子って言葉知っとる?」


 それよ、と手を叩いて更に前のめりになるテトラは、二人に更に顔を近づけた。

 自然と、ライアンとエストナも前のめりになった。


「知ってる。」


「私も知っています。というより、わた・・・・・・。」


「お嬢。」


 余計なことは言わない方がいい、と首を振るライアンに、エストナは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。


「?知ってるなら話は早いわ。狙われてる人は皆んなその疑いがある人なんよ。」


「何?」


「ああ、疑いってのはあれな?ああいうのってよっぽどじゃないと自覚せえへんみたいやん?いうてそんなに力を発揮する場所もあらへんし。」


 眉を吊り上げたライアンに、テトラは内容を補足した。


「じゃあ・・・・・・。」


 恐る恐るといった様子で口を開いたエストナの言葉の先を、テトラは頷いて引き継いだ。


「そや、どうやって調べてんのかはわからんけど、殺された人達はみんなその血脈か因子かなんかようわからんけど、保持者やったっていう話や。」



 テトラの言葉にライアンとエストナは顔を見合わせた。どちらからともなく、頷いて、再びテトラの方を向いた。


「何やのん?」


 首を傾げるテトラに、ライアンは真剣な表情で告げたのだった。


「話がある、上に行くぞ。」


 顎をしゃくって階段を指し示したライアンはエストナとともに立ち上がった。

 テトラも慌てて立ち上がり、後を追う。


「話って何やのん?あそこじゃあかんの?」


「部屋の中で話す。ちょっと待ってろ。」


 聞こえてくる声が重い。これは茶化せないな、と反射的にテトラは考えて、湧き上がる唾を飲み込んだ。


 茶化せない、と感じるということは、それだけ話の内容が大事だということだ。少なくとも、階段を先に上がる二人にとっては。


 テトラは一段一段をゆっくりと確かな足取りで登りながら、得体の知れない緊張感から、服の裾を握り締めたのだった。

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