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嘆きの街4

ようやくバトルの予感!

楽しんで頂ければ幸いです。


 男は、逃げていた。それは得体の知れないものから。理解の出来ないものから。走る、振り返り、追手を確認する。


 背後には誰も居なかった。男は知らず、街の中の袋小路へと迷い込んでいた。雑多な喧騒からはかけ離れた、薄気味悪さを感じさせるくらいに暗い場所だ。


 周りにも男以外の人間の影は見当たらない。だが、どうしたことだろう。

 いくらスラムの中でも奥の方にあるとはいえ、ヨーシャークという街はそこまで小さくはない。

 まだ昼間を少し過ぎたばかりだというのに、人影一つ見当たらないのはおかしいのではないだろうか。


 男は不安な気持ちを覚えながらも袋小路から逃れようと、逃げてきた道を恐る恐る引き返していく。


 やがて、小路をみつけ、そちらへと足を踏み出そうとした時、()()は現れた。


 まさしく、現れたという表現が正しいだろう。それは、男の頭上に突如として出現し、男の首を白く細い腕で鷲掴みにした。


「アは、アはは、逃げチャダメだよう。」


「ひっ!」


 少しばかり言語を話す器官に不具合があるのだろう。それは下ったらずな子供のような口調で男に笑いかけた。


 男はすくみ上がり、目に涙を浮かべた。


「なんなんだ!俺が何をしたって言うんだ!!」


「エえ〜?」


 首根っこを掴む手から逃れようとするも、それの鋭く尖った爪が首に食い込んでじわりと赤い血が流れた。

 

 それは、その表情に愉悦と、嗜虐的な笑みを浮かべて男の耳に近付いた。


「きミが、何をヲしたかって?ううン、キィみは悪くないヨ。でも僕らにハ理由がある。」


 囁きと共に首を掴んだ手に力が篭っていった。


「あ、ああ゛っ!」


「キミガ血脈だかラ。因子をモっているモノを僕らハ消さないトいけなイ。」


 ゆっくりと男の首に指先が埋まっていく。最初は叫び声をあげていた男だったが、やがて指が声帯に到達すると声を出せなくなり、掠れた空気の逃げる音だけが漏れていく。

 目からは涙が溢れて、身体は痛みによる拒絶反応からびくびくと釣り上げられた魚のように痙攣し、跳ねていた。


 そして、男は事切れた。反応のなくなった男から指を引き抜き、その手についた血をそれは舐め取っていく。


 中性的な顔立ちだけをとれば、それは美人の類いであっただろう。扇情的で冒涜的なまでに純粋、表現をするのであれば無垢、それは普通の人間には持ち得ないものだった。


 それは、男の死体をもはや視界に入れることもなく、何かを呟くと瞬きをする時間のうちに、消えていた。













「ついたでーーーい!」


 煉瓦が積み重なった壁についたアーチ状の入り口、四人の乗った場所はそれくぐりぬけ街の中に入った。


 しばらく進み、広い通りに出るとテトラが馬車から降りて、肺の空気を入れ替えるように大きく伸びをしながら深呼吸をした。


 続いて、他の仲間たちも馬車から降りてくる。


「へえ、綺麗な街だね。」


「そうですね、デガに比べると落ち着いた雰囲気があります。」


 きょろきょろと興味深そうに周りを見渡すカイに、エストナは微笑んだ。


「ただの街に何をそんなに興味があるんだか。ほら、さっさと宿をとりに行くぞ。」


 ライアンは呆れたように肩をすくめ、三人を促した。

 そのまま、目についた建物に入っていく。


「あっ、うちはちょっと知り合いのとこ行ってくるから、みんな先に行っといて!」


「あ、テトラさん!」


 手を上げて駆け出したテトラは、とめる間もなく通りから伸びている道の一つに消えていった。


「いっちゃいました。」


「元気な人だよね。さ、僕らも入ろう。」


 呆気に取られたように呟くエストナだったが、カイに促されて建物に入ろうとする。


「?」


 ふと、エストナは自分を見ているような視線を感じ振り返った。


 まばらに人はいるが、こちらへと注目している者はいなかった。

 

(気のせい?でも確かに視線を感じたような。)


「エストナ?」


「はいっ、今行きます。」


 腑に落ちない感覚を覚えながらも、慌ててカイの開ける扉の下を潜った。



「ヨーシャークの魔人、ね。」


 カイもまた、視線には気が付いていたようだった。鋭く目を細めると、建ち並ぶ家や露天の隙間の一つに目を向けた。


 今はもう、そこに気配はない。カイはしばらくその一点を見つめていたが、もう気配が現れないとわかると、エストナ達の後を追い、建物中に入っていった。



「あハぁ、因子、見ツけたア。」


 視線の主は、まだその場にいた。気付かれたと感じたそれは、視界の外、建物の屋根から対象を観察していたのだ。

 三人が消えた建物を見下ろし、それはふっくらと薄桃色の唇を醜悪に歪めるのであった。

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