嘆きの街3
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ライアンはその日、朝から何か違和感を感じていた。何がどうというわけではない。だが、何かがいつもと違うのだ。
すでに食堂には一同が集まっていた。ライアンは腹掻きながら空いている席に座る。
目の前には大皿に乗っかってソーセージやサラダなどが置いてあった。
ライアンは水差しからカップに水を注ぎ、勢いよく飲み干した。次いで、二杯目を注ぎ始める。
「なんや、おっさん。だらしないなあ。」
それを横目で見ていたテトラが悪態をついた。舌打ちを鳴らして顔を背けるライアンだったが、ふと、エストナの様子がおかしいことに気が付いた。
(違和感の正体ってのは、これか。)
そう、いつもで有ればエストナがライアンを起こしに来るのだ。
もっとも、ライアンは起きていてエストナを出迎えるだけなのだが。
だが、何故エストナの様子がおかしいのだろう。いや、厳密に言えばおかしいことはない。以前までは二人で旅をしていたのだ。それが四人になって、行動を改めたのだろう、そう納得も出来る。
「おい、ロリ団子。お前、お嬢になんかしたか?」
ライアンは隣で健啖な様子を見せているテトラに囁いた。
口一杯に野菜を頬張っていたテトラが、訝しげにライアンに尋ね返す。
「なんかって、なんやのん?」
「いや、何もしてねえなら、いい。」
ライアンは気に食わないといった様子で顎髭を撫でた。そして、視界の端に、水を飲む一人の優男が映り込んだ。
「おう、カイ。」
「ん?なんだい?」
呼びかけながらも、視界にはエストナを入れている。そして、ライアンは見逃さなかった。
カイの名前を呼んだ瞬間エストナの肩がぴくりと揺れたのを。
ただの疑いだった違和感が、明確に形を持った瞬間だった。
「いや、おはようって言いたかっただけだ。・・・・・・ところで、お前昨日お嬢となんかあったか?」
その言葉が放たれた瞬間、カシャンと音がした。
音の方を見るとエストナが手に持ったフォークを落としていた。
(これは絶対に何かあった!!)
「なんかって、なんだい?」
カイの表情はいつもと変わらない。にこにこと優しげな笑顔を貼り付けていた。
(さて、どうしたものか。お嬢に直接聞くか?いや、でもなあ。)
ライアンは悩んだ。フォークに突き刺したソーセージを一口で食べながら、エストナの父であるロイドを思わず想像してしまった。
(旦那様にバレたらやばいぞ、こりゃ。)
どちらにせよ、何かがあったのならば、聞かねばなるまい。
だがその決意も空しく、面白そうに様子を伺っていたテトラがあっけらかんとした調子で堂々とエストナに尋ねたのだった。
「なあなあ。昨日の夜はお楽しみやったんかいな?」
「ええっ!?」
「隠さんでええやないの。うち実は二人が一緒におったん、陰から見とってん。」
「み、見てたって、何をですか?」
にやにやと肘をエストナに突き出すテトラはその言葉で更に笑みを深めた。
「そりゃあ、兄さんとエストナちゃんが抱き合うてたとこやんか。ええなーいつの間にそんな関係になったん??」
「〜〜〜〜!!!」
声にならない叫びを上げて、エストナは顔を覆った。その華奢な身体は首元までみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
そして、悪魔が降臨した。
鈍い音と共にライアンが持っていた木のカップの取手が砕けた。
拳や逞しい腕には血管が浮き上がり、目は血走っている。
「なあ、カイ・・・・・・ちょっと話しようや。」
どうやら予想以上の衝撃だったようだ。ゴツゴツとした顔が若干青褪めていた。
「うん?いいよ。何の話?」
見て見ぬふりをしているのか、本当に気にしていないのか、どこ吹く風のカイはにこにこと笑ったままだ。
「てめえっ!!舐めてんのか!お嬢のことだ!お嬢におまっ、おまえ、何てことし、しやがるんだよ!!」
ライアンは怒りのあまり舌がうまく回らない。テトラはそれを見て更に面白そうにエストナに絡んでいた。
だが、カイはというと、特段変わった様子はない。それどころか、何が理由で侍従である彼が怒っているのか、わかっていないようだった。
不思議そうな表情を顔に浮かべ、目の前にあるパンを千切って口の中に放り込んだ。
「別にやましいことはしてないよ。ただ、エストナが、いや、とにかく変なつもりがあったわけじゃないよ。」
「うるせえ!やっていいことと悪いことがあんだろうが!」
ライアンは拳をテーブルの上に叩きつけた。鈍い衝撃と共にテーブルの食器が跳ねる。
「それを決めるのはライアンじゃないよね?」
「ああ!?」
カイは、すっ、と表情を消してそれまでの雰囲気をガラリと変えた。目を細めてライアンを睨みつける。
その言葉に気圧され、ライアンは苦し紛れに表情を歪ませた。
そこへカイはチャンスとばかりに更に言葉を叩き込む。
「じゃあ本人に聞こう。ねえ、エストナ。昨日はその、本当は嫌だった?」
「おまっ!」
「ひゅー、兄さんやっぱり案外肉食やなあ。」
ぱくぱくと口を魚のようにライアンは動かした。テトラも驚いたように口笛を鳴らした。
困ったのはエストナだ。朝から恥ずかしくてカイの顔を直視出来なかった彼女だったが、そこへ追い討ちをかけるように一連の流れだ。
顔は普段の白さが想像出来ないくらいに赤くのぼせ上がっていた。
「えっ、あの・・・・・・その。」
「エストナ?」
「その・・・・・・嫌じゃ、なかった、です。」
「ひゃー!エストナちゃん、やるぅ!」
「お嬢!?」
答えた本人であるエストナはそこで力尽きたようにしおしおとテーブルに突っ伏した。もはや見ているこちらが可哀想に思うくらいに真っ赤になっていた。
テトラは満面の笑顔で囃し立て、ライアンは悲痛な声を上げた。カイは満足そうに頷くと、ライアンの方を振り返った。
「ほら、そういうことだから、問題ないよね?」
「くっ!・・・・・・認めたくはねえが、仕方ねえか。」
「ははっ、冗談だよ。そんなに気にすることないよ。本当にそんなつもりはなかったんだ。改めて、エストナ、昨日はごめんね?」
「えっ、あっ!ひゃい!!」
カイは肩をすくめると未だ突っ伏しているエストナの頭を撫でた。
エストナは驚いて奇声を上げて飛び上がった。
「これから一緒に行動する仲間なんだ。関係が悪くなるようなことはしないよ・・・・・・今はね。」
カイの最後に呟いた言葉は、近くにいたエストナにしか聞こえなかった。エストナはもうやめてくださいと言った様子で首をふり、瞳を恥ずかしさから潤ませた。
カイはそれを見て悪戯っぽく微笑んだ。
面白くないのはライアンだ。別にエストナに懸想している訳ではないが、それでも雇い主の大事な一人娘だ。
そんな彼女が出会って間もないカイにかなりの比重で信頼を置いていることに、もやもやとした思いを感じていた。
「ちっ、信じるさ、信じるが、なんか納得いかねえ。」
「子供を取られた親の気持ちっちゅうやつちゃう?」
「ふざけんな!俺はまだ二十代だ!!」
「ええ!うそやろっ!?そっちの方が驚きやわ!!」
「何でだよ!」
「大丈夫??」
「うっ、はい。・・・・・・何とか。」
ぎゃあぎゃあと争う二人の横で、カイとエストナの二人はぎこちなく会話を繰り広げていた。
もっとも、ぎこちなくさせている要因とその対象なわけで、賑やかな二人の争いが収まる頃にはすっかり元通りになっていた。
「さて、それじゃあ各自荷物を持ったら入り口に集合だ。昼過ぎくらいにはヨーシャークに着く筈だ。そしたら分かれて情報を集めるぞ。」
落ち着いた一同を見渡し、ライアンは腰に手を当てた。
この後に及んで茶化すものはおらず、皆頷きを返した。
「ヨーシャークの魔人。」
ポツリと不安気に言葉を漏らすエストナに、カイは笑いかけた。
「本当に魔人だったら、案外大丈夫かもね。」
「えっ?それはどういう・・・・・・。」
含みのあるカイの言葉に戸惑いの声を上げたエストナだったが、カイはそれには答えずに彼女の頭を撫でると階段を上って行ってしまった。
残されたエストナは、カイの消えていった階段をしばらく見つめていた。
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