嘆きの街2
皆さんこんばんは!!
本日追放国王も更新しておりますので、よろしければそちらも是非!!
結局、なし崩しにテトラを連れて行くことになった一行だったが、ライアンだけは不満そうな顔を隠そうともしていなかった。
「なんや、まだ拗ねてんのかいな。小さい男はモテへんでー。」
からからと笑うテトラにライアンは嫌そうに顔をしかめた。
「うるせえ、ロリ団子!大体荷物が多いんだよ!」
「ライアン、その辺にしておいて。そのお陰で馬車で行くことが出来るのだから。」
「あーん、エストナちゃんは話がわかるわー!どっかのおっさんとはえらい違いやね!」
「くっ、このガキっ!」
ライアンはエストナに嗜められたため、それ以上は反抗せず、悔しそうに言葉を飲み込んだ。
このまま話していては気が持たないと、カイへと会話の対象を変えたのだった。
「なあ、カイよ。魔人は本当にいると思うか?」
「どうだろうね。魔人と言われていても魔人じゃないかもしれない。」
「魔人じゃない魔人てなんだよ。」
謎々のような言葉にライアンは眉をしかめた。カイは相変わらず柔らかい表情で肩をすくめる。
「さあ、何だろうね。どちらにせよ、行けばわかるよ。」
「まあ、そうだな。おい!ロリ団子!魔人が出たってのはヨーシャークの街で間違いないんだな?」
ライアンは頷くと、エストナと楽しげに話しているテトラの方へ顔を向けた。
「うちの情報網を信用しい。間違いないで。」
「魔人・・・・・・どのような存在なのでしょうか。」
エストナが不安そうに両こぶしを握りしめた。そんな彼女を安心させるようにカイが声をかける。
「大丈夫。エストナは僕が守るよ。」
「は、はい。」
微笑むカイを直視できず、エストナは顔を赤くして俯いてしまった。
「兄さん、うちのことも守ってえな。」
「うん、いいよ。」
「・・・・・・兄さん、タラシやな。」
「こういう奴なんだよ、こいつは。」
「???」
驚愕の表情を浮かべるテトラに諦めた口調でライアンは告げ、言われた張本人であるカイはキョトンとした顔で二人を見るのだった。
道中は平穏そのものだった。特に何かに襲われることもなく、一行の旅は順調に進んでいった。
やがて、一行は宿場町に到着し、日も遅いのでここで一泊していこうという話になった。
夕食を終え、それぞれが部屋へと入っていった。
夜、エストナは眠れずにいた。何か問題があったわけではないが、漠然とした不安が彼女を襲っていた。
「ふぅ。水でも飲もうかしら。」
喉が渇いたエストナは水差しを確認したが、中は空だった。面倒ではあるが、渇きを癒すためには汲んでくるしかない。
エストナは水差しを持って、階下へと降りた。裏口を出て、井戸の方への足を向けた。
やがて井戸が見えた。そしてエストナは、そこに誰かがいることに気がついた。
井戸の前では一人の男が月を見上げていた。
(こんな時間に誰かしら?)
「眠れない?」
男はエストナに気付いていたのだろう。月を見上げたまま彼女に声をかけた。
驚いたのはエストナだ。急に声をかけられて思わず水差しを取り落としそうになったが、なんとか堪えると、男へと近寄った。
男の輪郭が顕になる。
「カイ?・・・・・・あなたも眠れないんですか??」
「少し、ね。昔を思い出しちゃって。」
「昔、ですか。」
「うん。」
エストナの問いにカイは振り向くと儚げに笑った。その表情は酷く悲しそうに見えて、エストナは何故だか胸が締め付けられた。
「あの!」
「うん?」
「いえ、その、何でもないです。」
「変なの。」
咄嗟に声をかけるも、続く言葉が出て来なかった。まるで何かが喉につっかえているようだ。僅かに俯いたエストナにカイは無邪気に笑いかけた。
そこには先程までの表情はない。
(考えてみれば、私はカイのことを何も知らない。)
エストナは更に胸が苦しくなり、水差しを抱えた両手を胸の前で握りしめた。
(知りたいけれど、・・・・・・聞けない。どうして?)
踏み込んではいけない、そんな得体のしれない強迫観念にとらわれ、エストナは口を閉ざした。
カイもまた、優しくエストナを見つめたまま、何も語らなかった。
沈黙する二人の耳に、草陰で鳴く虫の声が聞こえてくる。
「ねえ。」
「は、はい!!」
どれくらいそうしていたのだろう、カイがおもむろに口を開いた。
「エストナは聖女、なんだよね?」
「えっ?あっ。はい。そうです。何でも過去にいた聖女と同じ能力を宿しているみたいです。」
「・・・・・・そうなんだ。」
「はい。」
「ねえ、ちょっとだけ、力を、見せてくれない??」
「えっ?」
エストナは戸惑った。カイの言葉もあるが、教会から軽々しく使用してはいけないと言われていたからだ。
それに、見せるといっても今この場で出来ることなどあまりにも少ない。
「あの、それは。」
「だめ、かな。やっぱり。」
申し訳なさそうに頬をかくカイは、彼女からみてとても心細そうに見えた。
両手をを更に握りしめ、エストナはカイへと近付いた。
「その、見せるだけなら!!」
「・・・・・・いいの?」
驚くカイを横目に、エストナは身体に魔力を巡らせた。
白い膜のようなものが、エストナの身体からじんわりと浮かび上がった。
膜が大きくなるにつれて、きらきらと粒子のようなものが彼女の周りを舞った。
それは月の光を受けて優しく煌めいていた。無心でただ魔力を放出するエストナを、カイは目を細めて見ていた。
そこにどんな感情があるのだろうか。エストナはそれを確かめることはせず、ただカイの為に魔力を放出し続けた。
「えっ?」
目を閉じて集中するエストナを、突如ふわっとした感触が包み込んだ。
驚いて目を開けたエストナは、そこで更に驚くことになる。
(えっ、ええぇぇぇ!!)
自身を襲った衝撃の正体はカイだった。
カイは湧き上がる感情をこらえるように、エストナ強く抱きしめた。
「あのっ!カイ!?」
身体中を血液が走り回るのを感じる。カイの力は強く、身動きが取れない。
意識すれば、首元にカイの吐息を感じて、鼓動が激しくなった。あっという間に、エストナは顔を真っ赤に染めた。
金縛りにあったように身体を硬直させて、戸惑いの声をあげる。
「ごめんね。・・・・・・ット。」
「えっ。」
エストナはカイの言葉が上手く聞き取れなかった。だが今にも泣き出しそうなカイの声を聞いて、やがて身体の力を抜いた。
そして、自分を抱きしめる男の背中に、躊躇いながらも包み込むように、手を回したのだった。
銀色に輝く月が、エストナとカイを優しく照らしていた。
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