悪役令嬢のアイデンティティー
エルフ大陸の深部を目指して進む。ガチ攻略勢の私たちが進むのは、まだ攻略サイトに載っていない未知の世界だ。わくわくが止まらない。
実は、私の大剣は、森ステージが続く、エルフ大陸では小回りがきかず不利だ。
こんなところまで、精密に作り上げられているコンフロ。素晴らしけれど、大剣使い泣かせではある。
さらに、魔王様改めエルフの王子ハイド様も、持ち前の大火力魔法も、使ってしまうとしばらくの間森林火災を引き起こし、持続ダメージを引き起こす関係で、使うことができない。
本当に、私たち二人にとって、相性が悪い。
でも、そこは千の仮面シリーズの指輪と、期間限定アバターの能力底上げで、乗り切っている。
むしろ、大剣を振りかざしながら、木々の間を思いっきり三段跳びしている妖精姫は、とてもシュールで強いと思うのだ。
もし、これで脇役令嬢としてのアイデンティティーである、ドレスを着用できていたなら、もっと気分は上がっただろう。それでも…………。
「おほほほっ! 楽しいですわ!」
「俊敏性を高めたおかげで、トリッキーな動きをする高火力大剣使いって対人最強なのでは」
「今度、対人戦が魔王様としたいですわ!」
「――――勝ったらご褒美くれる?」
「いいですわよ! 負けませんけどね!」
悪役令嬢ロールプレイングが、この格好にそぐわないことは知っていても、今はここにいるのは私たち二人だけ。
自分でもどうかと思うほど、大木を避けつつ、時々なぎ倒して、風を切って進むのは楽しい。
固有魔法、剣を周囲に浮かばせた近距離魔法を放って、同じく木々をなぎ倒していく魔王様(見た目はエルフの王子様)も、なかなかシュールだ。
そんな私たちは、後ろから、攻略勢の追っかけ配信、攻略サイト更新勢がついてくることに気がつくことはなかった。
つまり、今回もこのシュールな狩りは、掲示板の話題をさらうのだが、それはまた別のお話だ。
◇◇◇
「――――ふあぁ……。楽しかった」
ずいぶん夜更かししてしまった、日曜日の夜中。
明日も学校だからと、ログオフした私たち。
もっと遊びたかった。なぜだろう、今までで一番コンフロを楽しいなって思っている自分がいる。
その理由はもちろん小林君なのだろう。
「そういえば、次の日曜日は攻城戦よね」
小林君は、八代魔王としての地位を、もう三回も守っている。歴代最長の魔王様だ。
前回は足を引っ張りかけてしまったから、今回は頑張ろう、と私は心に誓う。
けれど、この後の攻城戦が、まさかの連合ギルド対魔王様と悪役令嬢ギルドの総力戦になるだなんて、誰が予想できただろうか。
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