攻城戦にて脇役令嬢は魔王様から指輪を貰う
◇◇◇
「うわっ、魔王と脇役令嬢コンビが来たぞ!」
「なんとか城壁を守りきれ!」
ただ今、攻城戦の真っ只中だ。私、脇役令嬢エルディアは、城壁の上から隕石をばらばら落とし、高火力の魔法をバンバン打っている魔王様を見つめた。
王国の城壁から、王国軍を攻撃する魔王様。ただいま、攻城戦の真っ最中なのだが、普通に考えれば王国を侵略する魔王の手先だ私は。
「ふえええ……魔王様がカッコいい。なんなの、カッコいい。――――魔王様、好き」
中の人はこの際、今は忘れてもいいのだ。クラスメイトの姿を重ねて見るのはあまりに無粋というもの。だってここは『コンフロ』の世界なんだから。
私が脇役令嬢で、あのお方は魔王様。それでいいはず。それでいいはずなのだ。
「いけない、脇役令嬢としての立場を忘れてはいけないわ」
今の私の服装は、紫の薔薇をイメージしたドレス。ガラスの靴。とても戦えそうもないが、これでもガチ攻略勢。最速攻略レコード更新中の、大剣使いだ。
アバターで隠された装備は、ヴァルキュリーシリーズのセット。とにかくスピードが上がる組み合わせは、エルフ大陸の最深部の中ボスの素材から作り上げた。これにより、大剣を神速で振り回すお嬢様が出来上がりというわけだ。
「見つけたぞ!脇役令嬢殿、お覚悟!」
あらあら、忍ギルドのギルマスさんじゃないですか。今日も真っ黒ですね!
「ふふ、良くいらしたわね?でも、この城は私たち悪役令嬢ギルドが頂きますわ?」
「いや、魔王の配下じゃないのか?」
「何をおっしゃっているのかしら?魔王様は臨時の助っ人なのですわ」
そう、正しくいうなら今だけは、脇役令嬢の配下の魔王様なのだ。
「オーッホッホッホ!」
そのまま次々と敵を倒していく。
「忍よりスピードがある大剣使いってなんなんだ」
「悔しかったらヴァルキュリー装備を揃えなさい!」
「女性キャラ限定だろ?!」
脇役令嬢に入りきりすぎた高笑いは、後日『コンフロ』掲示板の話題上位に入ってしまうのだが、ヒャッハーよりはいいだろう。未来の私はそう納得するのだが。それは少し先の話で。
「隙ありっ!」
クノイチが、私の背後をとる。
「あっ、しまっ……」
クノイチの攻撃は、クリティカルが多い。はっきり言って、攻撃力とスピードに全振りしている私は、紙装甲なのだ。クリティカル食らったら一発で飛ぶ!
(あ――――っ!せっかく部活の合間に手伝ってくれてたのに、魔王様、ごめんなさーい!)
「危ういんだよなぁ……」
闇でできた剣のモーションが、周囲の敵を薙ぎ払う。近距離だが、高火力の魔王限定魔法。
「魔力全振りの俺がいうことじゃないけど、一発ぐらい耐えられるようにした方がいいのでは?」
「あ、ありがとうございます」
魔王様は助けに来てくれた。城壁からいつのまに移動してきたのか。そして、ギルマスを倒したことで、攻城戦は私たち悪役令嬢ギルドの勝利となった。
「え?囲まれているのを見て、すぐ駆けつけてたけど。マジで脇役令嬢さんを目の前でリスポン地点まで飛ばしたら、姉貴に殺される」
「ふええ?!」
そう、魔王様は、我が悪役令嬢ギルドギルマスのプリシア様の弟らしい。そして、クラスメイトでもある。
「ほら、これ貸してあげるからつけといて」
魔王様が、こともなげに投げてきたのは、紫の薔薇の紋章が入った指輪だった。
「これ、まさか千の仮面シリーズの……」
「そ、エンチャントマックスで、防御に最高付与がついてるから。とりあえず、代わりが手に入るまでつけておいてくれる?」
「は?スピードを上げてくれる千の仮面シリーズの指輪に防御最高付与とか、どんな神アイテムですか?!」
ゲーム内で、どれだけの価値があるかわからないアイテム。そんなものを簡単に投げてよこす魔王様は、何者なんだろう。
あ、魔大陸の最高ランクプレーヤーだった。
「残念ながら、俺は指輪は全部魔力付与のものにしてるんだ。それも魔力付与狙って失敗したやつだから」
「わ、悪いです……」
「代わりに、また最前線攻略に付き合ってよ?」
「うう!喜んで、魔王様のために今後も魔力最高付与アイテムを探す旅にお付き合いします!」
私は、いそいそと指輪をはめた。それを少し真剣な表情で魔王様は見つめていたのだが、フルフェイスのため私はそれには気づかなかった。
◇◇◇
今日は、プリシア様改めゲーム店員の小林お姉さんのところを訪れている。残念ながら、小林くんは剣道部に参加しているので、今日は夜遅くにならないとログインできないと言っていた。
帰宅部の私は知らなかったのだが、剣道部で小林くんは強いらしく、クラスメイトにも人気がある。
「美菜ちゃん。そういえば、ハイドに指輪もらったでしょ?」
「はい。魔王様が使わないって言うから、お借りしています」
「ふふっ。それできるまでの弟の必死さを見せてあげたかったわぁ」
「え?小林くんが?」
あれ?魔王様は、たまたま出来たって言ってたのに?
「うーん。お揃いの魔力最高付与の指輪も作ったのは事実だけど、美菜ちゃんの分も作るため相当頑張ってたのよ?」
魔王様からの貢物が急に重みを増してくる。
「あ、この話したのハイドには秘密だよ?」
なんだか顔が熱くなってしまった。小林くんと、魔王様を違う人と認識しようと思っていたのに、これでは意識してしまいそうだ。
「きょっ、今日は帰ります!また後で、ギルドで会いましょう、プリシラ様!」
「はいはーい。またギルドでね?」
私は慌ててゲーム店を後にして、頬の熱さを振り払おうと家まで全力ダッシュで帰った。
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