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脇役令嬢と憧れの魔王様


 暗く澱んだ空気の中、一段高い豪奢な椅子。膝を組んだ魔王がこちらを威圧的に眺めている。ゲームのパッケージを見た時から魔王様に一目惚れ。寝る間も惜しんで攻略に精を出した。

 そんな愛しの魔王様にやっと会えたことに、感無量になってしまった私は、ツルッと口走ってしまった。


「ずっとお慕いしておりましたわ」

「……は、えっ?!」


 おおっ?!魔王ってばNPCなのにそんな反応するのね。何だか可愛いよ?!


 さすがラスボスだけあって、AIが他のキャラクターとは違うみたい!


 予想外の魔王様の反応に興奮する私。裏腹に、何だか思案顔?(顔見えないけど)な魔王様。今回はギルドの助けを借りずにソロでここまでたどり着いた。しかし、途中数々のモンスターを屠ってきたものの、魔王の軍勢らしきものには一人も行き当たらなかった。


 ◇◇◇


 感覚までも体感できる本格的VRゲームが市場に登場して数年が過ぎた。今、全世界は空前のVRゲームブームの渦真っ只中だ。各地で大会が開かれたり、VRゲーム内での交流も盛んにおこなわれている。


 私の最近のお気に入りは、VRRPGで貴族ロールプレイングを楽しむこと。もちろん中世から近世風の世界観が良い私は、迷わず王国がある人族の大陸を選択した。


 悪役令嬢ギルドに所属している私。ギルマスはゴージャスなブロンドの縦巻きロールに真っ赤なプリンセスラインのドレス。見た目からして悪役令嬢なプリシア様だ。


 ちなみに私はというと、この世界では脇役令嬢エルディアと名乗っている。アバターでドレスアップしているが、見た目に反してその実はガチ最前線攻略勢だ。ちなみに大剣使いの大陸最高火力保持者である。


「あー。えっと、よくぞここまで辿り着いた。俺の傘下に降るなら世界の半分をやろう」

「はい。喜んで」

「あっ、えっと。……本当に?」


 この人、本当に魔王様だろうか?


――――ピロリン♪


 不審に思い始めた私に、なぜかフレンド申請が届いた。


『よろしくお願いします。第八代魔王ハイド』


「えーと、攻略最前線ギルドの悪役令嬢所属、脇役令嬢エルディアさんですよね?俺も攻略ガチ勢なんで一緒に楽しみましょう」

「はっ?!ええええええ?!」


 魔王様に惚れてしまいパケ買いして一気に攻略してきた私は、このゲームの設定を実は全く理解していなかったのだ。


 今遊んでいる『コンチネント・フロンティア』通称『コンフロ』の特徴は作りこまれた世界観。自由自在のアバター、多様な戦い方。その最大の特徴は…………あとなんだっけ。


◇◇◇


「うそぉ。ガチ攻略勢のくせに、いまさらそんなこと聞いてくるなんて…………信じられませんわ」


 一瞬、素に戻ってしまったプリシア様と優雅に紅茶をたしなみながら、作戦会議と決め込んでいたが、さすがに自分でもそう思う。そう『コンフロ』の特徴は大陸ごとの自由な世界観。

 大陸のうちの一つである魔大陸で行われるトーナメント1位になったプレイヤーは、魔王を襲名することができるのだ。


 もちろん、私のいる人族の大陸ではトーナメント1位になると、国王や女王を襲名することができる。……それは私だって知っていた。


「だって、RPGの魔王様がプレイヤーだなんて思わないじゃな……思わないではありませんか」


 魔王様狙いのパケ買いだったと言っても、さすがに神ゲーと名高い『コンフロ』は遊んでいて最高に楽しかった。戦い方の多様性もVRゲームは真剣に遊ぶ主義の私の心に突き刺さるものだった。


 私はくるりとその場で回って見せる。


「このドレスの再現力、ほかのゲームではとても出せませんわ。プリシア様も素晴らしいと思われませんか?」

「まあ、確かにドレスにどれだけの容量つぎ込んでいるかというくらい、作りこまれていますわね」


 今飲んでいる紅茶だって、一種類じゃないのだ。なんと、バラの香りの紅茶まで存在する。ゲームも本気で楽しめる上に、悪役令嬢ロールプレイまで完璧にできるなんて、素晴らしきかな『コンフロ』!!


「でも、さすがに今回のは恥ずかしすぎましたわ。引退しようかとも思っていますの」

「は?!何言っているの。うちのギルドの最高火力が引退なんて許さないわよ?!」


 すっかり素の言葉遣いですわよ、プリシア様……。引き続き、優雅に紅茶をたしなみながら私はため息をついた。そんな私に、再び悪役令嬢の仮面をかぶったプリシア様が声をかける。


「ホホホ。でも、魔王なんて魔大陸の最高位プレイヤーよ。あそこは競争率も高いのだから、さぞや強いのでしょうね。一緒に攻略してみてはいかが?それに、エル様もそろそろ女王の座を手になさってはいかがかしら」

「え、いやよ。女王なんてイベント強制参加とか制約があるではないの。学校もあるし、私は脇役令嬢のこの役がとっても気に入っているのだから」


 なんでわざわざ脇役令嬢を名乗っていると思っているの。私は、自分の思うとおりにソロや時々ギルメンとの血が滾る熱い冒険がしたいの!あと悪役令嬢ロールプレイもね!


「でも、エル様は私とリアルでお知り合いだけど、まだまだ近くに仲間がいるかもしれないですわよ」


 プリシア様はゲームストアの店員さんだ。いつも通っているお店なので顔見知りではあったが、『コンフロ』をパケ買いするときにいつもロールプレイを嗜んでいることを知っていたプリシア様が悪役令嬢ギルドに誘ってくれたのだ。


 まあ、恥をかいたがよい出会いであることを祈ろう。私はそう結論付けることにした。


 

最後までご覧いただきありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 脇役令嬢!ネーミングが面白いです そして、思っていることをツルッと言っちゃいますね♪ グッジョブ! 「はい。喜んで」の居酒屋ノリで笑、 世界の半分をやりとりする魔王と配下*\(^o^)/*…
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