【4】第1292回賭博ゲーム
また本小説を覗いてくださりありがとうございます。今節はいよいよ修司と双葉が賭博ゲームに参加します。修司が天才的頭脳で名勝負を繰り広げる傍ら、なんと同ゲームに参加していた菊川有希にも接触することに。
「コツンコツン…」
4人の人間の足音が廊下に鳴り響いた。前から宗徳、双葉、修司、黒服である。その廊下は先ほどの説明会場の左扉から続く廊下であり、床は大理石、そして両脇には複数の荘厳な木製の扉が並んでいる。修司と双葉はその異様で無機質な空間をキョロキョロと見回している。そして、20mほどの廊下を進む4人の前には、これまた木製の大きな扉が待ち構えている。先頭の宗徳がドアノブに手をかけると、音を立ててその先の全容が明らかになった。
「え?これはどういう…」
声を上げた双葉の先には、一面真っ白な円形の部屋があった。天井は4mほどと高く、部屋の直径は10m以上もあった。そして、部屋の真ん中には円形のテーブルがあり、その周りを12つの椅子が囲んでいる。しかし、双葉が驚いたのはその異様な空間に対してではなかった。なんと12の椅子のうち10席に人間が座っていたのだ。驚く双葉に対し、淡々と宗徳は二人を誘導する。
「さぁ、二人は残った2席に座ってくれ。説明はそれからだ。」
二人は言われたとおりに空いた2席に歩いて向かう。10人の内、希望に満ちている顔をした人間はいない。むしろその顔からは緊張と恐怖すら伝わってくる。そして2席は隣同士で空いており、二人がその席に辿り着く直前だった。修司が座ろうとしている隣の席に見覚えのある女性が座っていたのだ。それは「菊川有希」だった。しかし修司は顔色一つ変えず、とりあえず席についたのだ。すると、宗徳は黒服からマイクを受け取る。
「10人の民よ、今日はご苦労じゃ。そして、今週もめでたくこの村は二人の新人を授かった…さぁ、新人さんは今自分たちがどういう状況に置かれているか、理解しがたいことだろう。単刀直入に言う…」
双葉に緊張感が走る中、修司は背もたれに大きく寄りかかりながら、ゆっくり宗徳の方向を見る。
「今から、第1292回賭博ゲームを執り行う。」
「え?まじ…」
「しー、声デケェよ。黙って聞いてろ。」
修司に宥められた双葉は耳を宗徳に傾ける。
「毎週木曜日、賭博ゲームはさっきの「新人説明会」の直後に新人を含めて執り行われるのじゃ。そして残りのメンバーは、応募した村民の中から厳正な抽選によりこちら運営サイドが選抜することになる。そして、今回は12人、この中でたった一人の勝者を全員で争ってもらい、その勝者には賞金を与える。ここまで質問はあるか?新人よ。」
首を振る二人を確認し宗徳は続ける。
「賭博ゲームの概要はこんなところだ。それでは早速今回のゲームを発表する。参加者は手前の電子パッドを見てくれ。」
すると参加者たちは慣れた手付きで電子パッドを手に取ると、修司と双葉もそれに習い電子パッドを手に取る。
「では、動画のアイコンを開いてくれ。」
宗徳の合図とともに全員動画を開く。すると、そこには5文字の単語が写っていた。双葉は思わず音読する。
「なにこれ?収…穫…ゲーム?」
収穫ゲーム、参加者たちが聞き馴染みのない単語に困惑していると、動画が進み、各電子パッドから少年のようなロボットの声が室内に鳴り響く。
「今回の賭博ゲームは収穫ゲームだよ。それじゃあ今からゲームの説明をするね。」
「ゲーム…」
呟く双葉を尻目に少年のロボットは話を勧めていく。
「ここにいる12人の参加者は全員、「黄金の稲」を育てる農民だよ。「黄金の稲」っていうのは1束1億円で取引される高価な代物で、ある特定の地域でしか育たないんだ。すごいでしょー。ただ最近は金に目がくらむ輩が増えて、なんとこの地域では12人もの農民がそれぞれ田んぼを持って育て始めたんだよ。すると、何が起こるかわかるかな?そう、価値が下がっちゃうんだよねぇ。だから君たち農民は、自分の稲をいっぱい収穫して、他の農民に収穫させないようにするんだ。それが収穫ゲームだよ。ここまではいいよね?」
場に緊張感が高まっている中、修司は動画を半目で見ながら周囲を観察している。初心者の双葉はもちろんのこと他の参加者も顔を強張らせていたが、ある一人の参加者だけ余裕の表情で修司と同じくあたりを見回していた。修司が自分の向かい側の席にいるその人物に目を向けていると、少年は話を続ける。
「じゃあ、今から君たちにやってもらうことを具体的に教えてあげるね。一回しか言わないからよーく聞いてね。」
場の参加者は固唾をのむと、画面にはある間取りが映し出される。部屋は13部屋あり、1部屋が円形の大部屋、残りの12部屋は小部屋だった。
「まずね画面右のまぁるい部屋は今君たちがいる部屋でここが「収穫部屋」だよ。基本的にゲームはここで行われるよ。そして、残りの部屋は「君たち自身の部屋」だよ。今回のゲームは長丁場だから皆はここでそれぞれ休憩なり食事を取ってね。」
「長丁場…」
双葉が呟く。
「それではまずはぁ、ゲームの流れを教えるね。君たちがやることは唯一つだよ。皆画面をよぉく見てね。」
12人は画面を凝視すると、再び切り替わった画面にはアプリのような説明画面が映し出されていた。
「皆の電子パッドには、「収穫」というアプリが入っているから後で見てみてね。ここに乗っている画像はアプリのコマンド入力画面だよ。コマンドは全部で三種類。「収穫」、「雨乞い」、「盗み」。追って説明するよ。まず君たちは田んぼに10束の稲を植えている状態なんだ。君たちはこの稲を収穫するわけだけど、「収穫」ボタンを押すことで皆は一束収穫できるんだ。ただーし、ここで一つ注意。皆が収穫するためには「雨乞い状態」であることが必要なんだ。」
「雨乞い状態?」
周りから声が漏れる。
「稲はね、雨が降らないと育たないでしょ。だから収穫前に雨を降らせるんだ。「雨乞い」ボタンを押すと、一つの田んぼに雨を降らせることができるよ。だからね、収穫をする前には必ず「雨状態」が必要だよ。ただね、もし「雨状態」の場合に再び「雨乞い」ボタンを押してしまうと、田んぼが「洪水状態」になってしまうから気をつけてね。「洪水状態」になった田んぼは、復旧のために1ターンを消費しちゃうのと、復旧のあとは初期の「日照り状態」にリセットされちゃうから、次のターンも収穫できなくなっちゃうよ。」
「1ターン?」
修司が呟くと、少年ロボットは説明しだす。
「このゲームはターン制だよ。全部で8ターン。毎ターン1人1個だけコマンドを使うことができるよ。例えばね、Aさんが1ターン目に「雨乞い」、2~8ターン目に「収穫」を選んだら、Aさんのポイントは7。こんな風に8ターン消費して、最後に最も多くの黄金の稲を収穫していた農民が勝利で、収穫した稲の数×1億円が賞金だよ。」
参加者全員が理解を示すように首を縦に振っている。
「そして、3つ目のコマンド「盗み」について説明するね。そうこのゲーム…「盗み」が勝敗を最も左右するんだ。この「盗み」を押すとある一つの任意の田んぼから、収穫済みの稲をすべて奪うことができるよ。ただ、「盗み」は慎重に使わないといけないんだ。もし、盗み先の田んぼに農民がいたら、つまりその農民が「収穫中」だった場合、「盗み」は失敗し、逆に慰謝料として自分の収穫した稲を相手に全て渡さないといけないんだ。だから「盗み」コマンドは諸刃の剣だよ。「盗み」コマンドを総括するね。例えばね、さっきのプロセスで、7ターン目までに6つの稲を収穫したAさんが、同じく6つの稲を収穫したBさんに対し、8ターン目に「盗み」選ぶと、Aさんは12の稲を獲得できるよ。ただ8ターン目にBさんが「収穫」ボタンを選んでいた場合、Bさんが12の稲を獲得することになるよ。以上が3つのコマンドだよ。コマンドをそれぞれが選んだあと、すぐに結果が開示されるよ。順番はまず「雨乞い」、「収穫」、「盗み」だよ。でももし、「盗み」が複数いた場合は、その時点で獲得した稲が多い人が優先的に「盗み」ができるよ。」
少し複雑ながらも論理的なゲームルールに参加者たちは納得していると、少年は動画を締める。
「ということで、僕からの説明はここまで。皆頑張ってね。僕は全てのゲームの説明を担当してるから、君たちとはまた会うことになるよ。じゃあまたね…」
少年の挨拶を最後に動画が切れると、部屋の後方から電子音が鳴る。振り返る参加者たちの前には、1時間をカウントするデジタル時計が動いている。参加者たちが誰も言葉を発さず沈黙が流れること3秒、椅子に座って休んでいた宗徳が立ち上がった。
「さぁ、1ターン目の開始じゃ。1時間後にまたこの部屋に集合してもらう。それまで各々自分の部屋で休憩するなり、選ぶコマンドを考えるなりするのじゃ。」
宗徳が合図を出すと、黒服は、さっき修司たちが通された入口の前に立つ。
「参加者はこちらへ。」
先程あの丸部屋に通される途中の12部屋は参加者の休憩室だったのだ。廊下の手前左から101、右が102、奥に行くにつれて数字は増していった。そして修司は103に通される。
「休憩ねぇ…」
修司はそう呟くと、ベッドに座り込み周囲を見渡す。部屋は7畳ほどで間取りはビジネスホテルのようだった。ベッドと冷蔵庫、シャワーが完備されており。小さなテーブルもある。修司は立ち上がり冷蔵庫を見ると、水やお茶、サンドイッチやおにぎりといった軽食が並んでいる。そしてふとテーブルの上に目をやると修司は、固定電話と電話帳を目にする。
「なるほどねぇ。」
修司は電話帳を手に取ると、すぐさま104に電話を掛ける。
数分後、103のドアにノックオンが聞こえると修司がドアを開ける。そこには双葉がいた。
「なに?」
「いいから入って。」
「おじゃましまぁーす…」
双葉が部屋に入ったあと双葉の背後から声がする。その声の主は菊川有希だった。
「ごめん、2人とも。座って。」
小さな机の側の椅子に案内された二人は座ると、ベッドに座った修司は口を開く。
「菊川有希ちゃんだね?」
「え?あなたあの…」
驚く双葉の隣で菊川は相槌を打つ。
「えぇ…あなたは?」
「俺は柊木修司、君のお母さんに捜索を依頼された探偵だ。で、こっちの人は警察だ。君のような行方不明者の捜索でここに潜入してる。」
「探偵?警察?私のためにこんなところ…ごめんなさい!」
罪悪感に襲われた菊川は何度も修司に謝った。修司はその悲壮に帯びた菊川の表情から、今自分がいるこの村の邪悪さを再確認した。
「いいんだ、仕事だから。それより君がここに来た理由を詳しく教えてくれないか?」
「はい。」
修司は、菊川が真面目で臆病者、非常に単純な性格をしていることをここで読み取っていた。そして、菊川は小さく掠れた声で説明を始める。
「私とお母さんが住んでるアパートに、手紙が投函されてて、そこにここの住所が。私達お父さんが借金を抱えて自殺してしまって、でも保険金が下りなかった私たちは毎日取り立てが来るような生活をしていたんです。それで…」
「ここに来たの?」
「はい。」
短い話ながらも、二人は菊川の経緯を理解する。すると修司は話を変える。
「君は2回目だろこのゲーム。前回の結果は?」
「はい、私は先週の説明会のあとのゲームで、5000万円勝ちました。」
「参加費は?」
「5000万円です。なので…所持金は最初と変わらない一億円で…」
双葉は深い息を吐く。修司も胸をなでおろしている。
「でもよかった…まだ間に合って。」
「だな…あと9億円か。」
すると、菊川は更に表情が暗くなり、こえもさらに掠れていく。
「わた…し、どうす…れ…ばい…いか。」
「辛かったのね…」
双葉は北側の背中を擦ると、修司が時計を見る。
「あと40分だ急ごう…菊川さん大丈夫。なんとかする。」
「はい…ありがとうございます。でも何とかって…」
修司は頭をかきながら淡々と話す。
「まず単刀直入に言う、この一ターン目の休憩時間がこのゲームの勝敗を握る。」
「え?」
修司の突拍子もない言葉に二人は凍りつく。
「休憩時間って、何かできることあるの?」
「そうですよ、投票タイムまでやることなんか…」
「あるよ。」
二人の言葉を遮り修司は自信満々に言う。
「まず知らなければならないこと、それは、このゲームが完全なチーム戦であることだ。」
「チーム戦?だってこれは勝者は一人だって…」
「そう、勝者は一人だ。ただ、一人に協力してそいつを勝たせて賞金を分配すればいい。契約だ。」
「契約って…」
いまいち理解ができない二人を他所に、修司は噛み砕いて説明する。
「いいか、じゃあ菊川さん君に質問する。」
「はい。」
「このゲーム、最大何票獲得できると思う?」
泣き止んでいた菊川は、残った涙を拭いながらゆっくり考え、答える。
「えーと、最初は必ず「雨乞い」で、2-7ターンまで収穫して、最終ターンで「盗み」を成功させた場合だから、えっと…12?」
修司は顔の角度を変える。
「お前は?」
双葉は、余裕のある表情で答える。
「実は私もチーム戦ってことは考えてた。例えばね、私とあなたでチームを組んだとする。顔見知りだからお互い裏切ることはない。」
「ほぉ。」
修司は感心する顔で双葉を見つめる。
「それでね、私が死に役であなたに稲を集めるとする。なら最初から私があなたの田んぼに「雨乞い」を使うと、あなたは1ターン目から収穫ができる。これであなたは7ターンまでに7束獲得できるでしょ。」
「ちょっと待って下さい…「雨乞い」は自分の田んぼだけじゃないんですか?」
不思議そうに純粋な顔で、菊川は双葉に質問する。
「ううん、あの動画では「1つの田んぼ」としか言ってなかった。大丈夫…そして、8ターン目。あなたが他から稲を盗めば合計13。基本的に菊川さんの案は皆考えてると思うわ。そうすると皆12止まり。そこを1票差で勝てる。」
「すごーい、芦屋さん!」
菊川に褒められ得意げな表情を見せる双葉だったが、修司の顔を見た双葉の表情は一瞬で強張った。なぜなら修司が笑っていたのだ。
「何がおかしいのよ。」
修司は笑みを止めると、冷静に説明する。
「いいか、今から俺たちは6人のチームを作る。参加者の半分は必須だ。」
「6人?」
「あぁ、そして俺は12どころじゃない最低でも2倍以上の26取る。」
「26!?」
双葉と菊川は同時に声を上げる。すると、修司は荷物から紙とペンを取り出すと、何やら書き始める。
「いいか、例えばだが、3人チームの場合を考える。通常通りに行けば、菊川さんが言ったとおり、7ターンまでに一人6票取れる。そして最終ターンAがBの稲を、CがAの稲を盗むことで最終的に18億で勝てる。ここまではいいか?」
「そうね。」
「そしてこのチーム戦の一番の利点は獲得金額にある。個人で戦っても最大6億しか稼げないのに対し、チームで戦っても一人6億稼げる。対し、勝率は3倍。いわばチーム戦はローリスクでありながら獲得金額を下げることのない戦法だ。」
「なるほどね。」
二人は納得の表情で顔を見合わせる。
「そして、同じように6人チームを組むとどうなる?」
芦屋は考えながらゆっくりと答える。
「えーと…6人が7ターンまでに6つだから…AがB、CがA、DがC、EがD、FがEの稲を盗めば、Fが36億で勝ち抜けできて、一人の取り分が…あ、本当だ。変わらない。」
修司は上とペンを片付けながら冷静に続ける。
「そう、結局額は変わらない。ただし、勝ちは限りなく近くなる。最悪の場合、仮に残りの6人が組んでいたとしても5分5分。そして、それ以外なら必ず勝てる。」
「すごいわね。」
「柊木さんすごい…」
二人が感心していると、双葉があることに気づく。
「あ、でも…それだったら7人チームを組んで42億目指したほうが確実じゃない?」
「確かに。芦屋さんそうですよ。」
浮かれている二人を、修司は淡々と宥める。
「いや、それは危ない。」
「なんで?」
「このゲーム、チームを組むにはそのメンバーが裏切ることは必ず許されない。じゃあお前だったら見ず知らずのあと3人とどうやって契約を結ぶ?」
「いや、それは…」
修司は鞄からあるものを取り出し二人に見せる。
「これだ。」
「それって…」
「あぁ。住民票だ。俺ら3人の住民票を彼ら3人に、ゲーム終了まで渡す。思い出せ。これは再発行に4億かかる。そして最後の勝者にはこの3人のうち誰かを選ぶ。仮にお前だとするだろ。もしお前が勝った金を持ち逃げしたら、あの3人は住民票を返さない。俺らの関係性をあいつらには入念に話しておく。そうすればお前が逃げたときに、仲間の分と合わせて12億マイナスになるようなことをお前はしない。これは信用の証だ。そして、7人チームだと俺ら3人の住民票では足りない。」
「すごい、柊木さん。そこまで…」
菊川が納得していると、双葉が水を差す。
「でも、ちょっと待って。36-12は24億。私達が持ち逃げしても3人で一人8億。これだったら住民票を捨てた方が私達にとっては得だから、信用は得られないかも。」
修司は冷蔵庫から水を取り出すと、一口飲み、続ける。
「お前、頭は悪くないな。よかった。でも俺がさっき言ったことを思い出してくれ。
今回取れるのはおそらく26億程度だ。」
「どうして?」
「俺はさっき議論に挙がった、7ターンまで1人6億確保するという作戦は取らないからだ。」
「どういうこと?説明して。」
修司は、水の入ったペットボトルをテーブルに置くと顔色1つ変えずに言う。
「もし、お前は7ターン終了時に全員が6億持っていたらどう思う?」
「どうって、あと1ターンで作戦が成功するから、順調だと…」
「本当に順調か?」
「ええ、だって…あ!」
双葉は何かひらめいた顔をする。
「そう、順調かもしれない。だが、もしもう1チームが組まれてたら?」
「確かにもう1チームいたら私達の勝利は確実じゃない。」
「そうだ、だから俺はもっと確実な方法を取る。」
「確実な方法ってなんですか?柊木さん。」
菊川が修司に問うと、修司はゆっくり答える。
「まず、6チームを2役に分ける。4人は稼ぎ役、もう2人は捨て役だ。」
「稼ぎ役?」
「捨て役?」
「あぁ、稼ぎ役は名の通り収穫のみをしていく。常に「収穫」してチーム内の稲の数を増やす役だ。そして、捨て役。ここがチームの鍵になる。この捨て役は「雨乞い」を使って、相手の収穫量を減らす役割だ。」
「雨乞い?」
「あぁ、もちろん雨乞いは自分の田んぼを潤すコマンドなんだけど、相手を陥れるコマンドでもあるんだ。」
「洪水ね?」
双葉が横槍を入れると、修司はうなずく。
「あぁ、洪水を使う。まず、1ターン目、必ず全員「雨乞い」使って、2ターン目以降に収穫に入るのがセオリーだろ。」
「はい。」
「そこで俺らは2ターン目から「雨乞い」を相手に仕掛ける。例えば俺らがA-F、相手がG-Lとする。2ターン目にこっちのAが相手のGに雨乞いを仕掛けると、相手の収穫量が1つ減るだろ。」
菊川は頷きつつも、修司に疑問を呈する。
「え、でも修司さん、それだと相手の収穫量も減りますがこちらの収穫量も減りますよね。実際それだとB-F, H-Lの10人が収穫できるから、5対5です。」
「いや、たしかに菊川さんの話はあってる。ただそれは2ターン目の話だ。3ターン目はどうだろうか?」
菊川は順を追って答える。
「3ターン目は…例えばBさんがHさんに「雨乞い」を仕掛けて、他の人が全員「収穫」を…あ!」
修司は微笑む。
「そう、さっき「雨乞い」を使われたGは「日照り状態」に戻るんだ。つまり、Gはもう一回「雨乞い」を使う必要がある。だから3ターン目に収穫できるのは、「雨乞い」を使ったB, H, G以外の9人。つまり3ターン目にはさっきの5対5から、10対9となり、ここで1点こっちが優位に立てる。ここで初めて点差がつく。あとは、これを繰り返していくんだ。すると6ターン終了時には、25対21。」
「え?6ターン?」
二人は修司の言葉の1点に引っかかった。
「そう、俺たちは8ターンじゃなくて、7ターン目に稲をまとめる。なぜなら相手がもしチームを組んでた場合、8ターン目を怪しんでくる。だからその前に稲を集める。また、集める際に5人が「盗み」を使い、もう1人は「雨乞い」を相手の一人に使うんだ。俺らは7ターン目にAに25の稲をまとめるとする。そのターンの両チームの稲数は25対25だ。そして8ターン目、Aが「収穫」を使えば、「盗み」からも守られ、さらにAは26で単独トップ。相手は「盗み」を多用して25票を集めてくる。もし、最初に盗まれる人間が「収穫」を使用してきたら相手の総数も26で並んでしまうが、ただ俺らは最終ターンにA以外の5人で雨乞いを仕掛ける。そして相手は一人が前ターンの影響で「日照り状態」、つまり俺たちは最終ターン、必ず相手の「収穫」を阻止できる。つまり26対25で勝てる。」
「すごすぎる。」
「すごい、柊木さん。」
2人は修司の緻密な策に唖然としていると、沈黙の中に秒針が進む音が響いた。3人はふと時計に目をやる。
「あと20分...悪いが2人とも、手分けしてあと3人集めてくれ。同じ説明を彼らにもしないと...」
二人は頷くと、急いで部屋を出ようとする。双葉が部屋を出ようとしたとき修司は何かを思い出し、双葉を止める。
「あ、悪ぃ。110番の柚木っていう女は外してくれ。」
「え?な...」
「後で説明する。時間が最優先だ。」
4話の方もご拝読いただきありがとうございました。いかがでしたでしょうか。次話では、秘策を打ち立てた修司がチームの更なる拡大を目指して、勝利を目指していきます。