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【3】村のシステム

続きを覗いてくださりありがとうございます。今節では、いよいよ修司と双葉が、賭博村の長「百合川宗徳」に接触します。宗徳はこの村の驚くべき社会システムやルールを二人に告げる。

 村南西部のアパートから徒歩15分、町の中心部のある建物の前では、「新住民説明会」と書かれた立札が立ち、秋風に乗ってやってきた一枚の葉っぱはその建物の窓の隙間から、中に迷い込む。それに気づき、一瞬目を向けたのは黒服を来た1人のスーツの男だった。マイクを持つその男は、小さな体育館の中で話しており、目の前には、横並びのパイプ椅子に座って話を聞く2人の姿があった。前にはスクリーンがあり、PCを操作して黒服が2人に話していた。


「人口6000人、敷地面積4.2km2のこの国は外界との接続を一切立っており…」


 メモ帳を片手に聞く双葉とは対照的に、修司は欠伸をしている。ボールペンで双葉は修司の肩を指すと、修司は飛び上がる。


「痛って。お前...」


 黒服はすぐに注意した。


「ほらそこ、真面目に聞かないなら出て行ってもらっても結構ですが...」

「すみません。」


 修司は謝ると、すぐに双葉を睨みつける。2人は基本的な事項を30分に渡って黒服に説明された。この世界は外界と一切接続しておらず、全産業は村内で完結していること。また、生活費は全村民が1日1000円支給され、職を持つものは、プラスで相応の給料が支給されること。また、村内では居住費、光熱費、通信費、水道代から教育費までが無償であり、さらにはあらゆる税金は存在しないこと等が挙げられた。黒服が説明を終わると、修司は手を上げる。


「なんだ?質問か?」

「はい、この村に入った人間が外に出ることはないのですか?」


 黒服は、少し黙ると返答する。


「その辺は村長から話が。ほかには?」

「…」


2人は首を振る。二人の様子を見た黒服は左側の扉を向いて、口を開く。


「では村長。お願い致します。」


 ドアが開くと、村長と呼ばれる70才ほどの老人が杖を突いて歩いてくると、黒服からマイクを受け取る。老人は、身長が低く細く垂れ目で、気の弱そうな表情をしていた。さっきまでの適当さとは打って変わり、修司は、この異様な村を統治している長に目を向ける。



「諸君。ここまでご苦労。私は村長の百合原 宗徳だ。」


 老人ながら、芯のある声は二人の耳を突き刺す。


「今週の新人は2人か。では、わしからは君らも気になっているであろう『賭博ゲーム』に関して説明する。」


 二人は、失踪者がここに集まることや村の名前からおおよそは推測していた、『賭博』の説明をし始める百合川に、待ち望んでいたかのような視線を向けると、宗徳の横にあるスクリーンに何か映し出された。


「120890782 47 7396」


 映し出された3つの数字に唖然とする二人に対し、宗徳は聞いた。


「3つの数字は何を表している?そこのお嬢さん。」


 突然指名された双葉は、思考を凝らす。


「えっと、1億2000万っていうと、日本の総人口ですか?」

「いや、違う。数字は近いが単位が違う。じゃあ…」


 その時だった。宗徳が修司に目を向けると、修司は何やらメモ帳に高速で何かを書いていた。一瞬息をつき神妙な面持ちで宗徳は修司を呼びかける。


「じゃあそこの青年、わかる...」

「1億2089万782円、これは1ゲームあたりの平均獲得賞金っすよね。おそらく賞金は数千万単位と考えると、通算ゲーム回数は組み合わせからして1291回、通算合計賞金は1560億7000万円。週1回ペースなら27年、2回なら13-14年前から行われてる感じですかね。あとの二つの数字はわかんないっすけど。」


 宗徳の言葉を遮り、答えた修司の手元には無数の数字が書き連ねられたメモ帳があり、回答を聞いた宗徳は驚きの表情を見せつつ、冷静な口調で修司に聞く。


「どうしてわかった?」

「いえ、続けてください。説明めんどいんで。」


 修司の対応に少し眉をひそめた村長は続ける。


「そうじゃ、青年の言う通りゲームは1週間に1度行われる。希望を出した村民の中からランダムで選出された数名がゲームに参加することができるのじゃ。個人戦なら1人、チーム戦なら数名が勝者となり、その平均獲得賞金がこの数…」

「あの」


 再び修司が遮った。


「なんじゃ?」

「例えば5人の個人戦で勝者以外の4人はどうなります?」


 冷静な面持ちで聞く修司の質問に、宗徳は答える。


「罰はない。ただゲームには必ず参加費が存在する。勝者はその上乗せ分の利益が、敗者は参加費分の損益が発生するシステムになっておる。よいかな?」


 首をゆっくり縦に振る修司を確認した宗徳は続ける。


「そして、この村の根幹となる最重要事項を教える。これを見てくれ。」


 二人が目を向けたスクリーンには驚くべき二行の文言が並んでいる。


「1.総資産10億に到達した村民 ⇒ 3億を村への手数料とし、7億円を持って、外界に出る権利が与えられる。

「2.総資産-2億円に到達した村民 ⇒ 2億円の借金を背負ったまま、外界に出る権利が与えられる。」


 双葉はその奇妙なルールに驚愕しつつも、急いでメモを取る。


「これがこの村の絶対的なルールじゃ。基本村民が村から出ることは禁じておる。しかし、この二条件でのみ外で生きる権利が与えられるのじゃ。そして、この25年で、この村をプラスで出た人間がさっきの数字47、借金を負って出たものが7396人じゃ…」

「99%以上は借金…」


 肩を震わす双葉を尻目に、修司はぼそっと呟く。

 

「まさに天国か地獄か…」


 この窮地とも言える状況で笑みを浮かべている修司に対し、宗徳は問いかける。


「何がおかしい?」

「いや、何となくわかったよ。この国のからくりが。」

「からくり?」

「いや、なんでも無いっすよ。それより…」

「ん?」


 先程浮かべた笑みを絶やすことなく修司は口を開く。


「そのゲームについて、詳しく教えて下さいよ。」


 余裕の表情を浮かべる修司に対し、宗徳は肩を揺らし笑い出すと、マイクを置き部屋の左側へ歩き出す。


「付いてこい。」


3話をご拝読いただきありがとうございます。4話ではいよいよ賭博ゲームが開幕します。

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