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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゴブリンの昔話

作者: Twilight


 ――何故、ゴブリンに出会ったら殺せと言われるか知っているか?


 異種族を浚うゴブリンの習性? それとも数が増えて危険な為?


 そうじゃない。


 確かに、ゴブリンは人を襲い、女の尊厳を奪う最悪な生き物だが、ゴブリンの種族特性だけが理由ではないんだ。


 冒険者と戦い、運よく生き残ったゴブリンは知恵をつける。


 何故かって?


 それはな、ゴブリンは襲った冒険者の匂いを忘れずに、殺された仲間のために復讐を企むからだ。


 ゴブリンは基本、本能的な生き物だが、長く生きたゴブリンは進化し群れのボスとなる。


 そうして長く生きたゴブリンほど凶悪になり、手をつけられなくなる。


 昔な、こんな事件があったんだ。


 ――曰く、ゴブリンを殺さずに痛め付けていた二人の冒険者がいた。理由は博打で金を溶かしたという、ただの腹いせだそうだ。


 落とし穴にはめたゴブリンを上から見下ろしながら石を投げたり、よじ登って来たゴブリンを何度も蹴落としたり、魔法でじわじわと殺さずに痛めつけた。


 冒険者たちは飽きると、何の因果か殺さず見逃した。


 その冒険者はなんで見逃したのかって?


 さあな。それはただの気まぐれだったのかもしれないし、別の魔物に襲われたからかもしれない。


 ただ一つだけわかるのは、その冒険者たちのほんの偶然が「最悪」を産み出したってことだけだ。


 冒険者から偶然にも生き残ったゴブリンは、仲間の断末魔を聞きながらプライドを砕かれ、人間を、己を、そしてこの世界を呪い、復讐の炎を心臓に宿した。


 ゴブリンは時間をかけて知恵をつけ、技を磨き、人間を真似て武器を身に付けた。


 来る日も来る日も人間を観察し続け、多数の生き物を屠り、その身に力を蓄えながら人間に復讐する機会を待ち続けた。


 そしてある日、最悪の物語の幕を開いた。


 そのゴブリンはある日を境に、弱そうな人間だけを徹底的に狩り始めた。


 自分では敵わないと分かれば即逃げ出し、勝てそうな人間のみをしつこいほどに徹底的に狩っていった。


 何人もの新人冒険者が行方不明になり、森に知恵をつけたゴブリンがいると話題になった。


 一時的にそのゴブリンの噂が広がり警戒されたものの、一月もしないうちに鎮静化していった。


 やがて噂がなくなり、人々の記憶から過ぎ去った頃、再び新人冒険者が行方不明になる事件が増えた。


 さらには、森に薬草を採取に来た町の人間も犠牲になると、そこから急激にある噂が広がっていった。


 ーーある森に知恵あるゴブリンがいるらしい。

 ーーそのゴブリンは冒険者や力のない町の人間をさらうと頭から喰らうそうだ。

 ーーいやいや、そのゴブリンは金品に目がなく、穴蔵に財宝を溜め込んでいるそうだ。


 そんなくだらない噂と共に、「行方不明になった者の中に、とある有名な商人の娘がいる」というものがあった。


 悲運にも、その噂は真実を突いており、娘の父親であった商人はあらゆる伝手を使い、行方不明になった娘を探していた。


 あらゆる情報が毎日商人の元に舞い込む中、その情報の中に、娘が入った森で奇妙なゴブリンが時折現れると知った。


 商人は怒髪天をつきながらギルドに怒鳴り込むと、ギルドマスターを呼んだ。


 森に行った娘が返ってこない、と――


 しかし、ただ魔物にやられたんだろうとギルドは適当に受け流し、重要視しなかった。


 それはどこの国にでも起こりえる、いくらでもありふれたただの悲劇だからだ。


 ギルドは中立を謳うからこそ、あらゆる国に存在することを許されている。


 それが国の一大事であれば協力しない訳には行かないが、有名な商人とはいえ、その依頼を金を払うからと何でもかんでも受ける訳には行かない。


 商人はギルドが事なかれ主義で対応しようとしない事に腹を立てて、最終手段に出た。


 ゴブリンは冒険者が見逃したから起きた事件だ、と公表したのだ――


 ゴブリンの出現時期とその冒険者がゴブリンを痛めつけた時期が同時期であることを既に商人は突き止めていた。


 商人は少なくない私財を投じ、娘の情報と並行してゴブリンに関する情報も探っていたのだ。


 しかし、流石のギルドも冒険者のせいで問題が起きたとなれば責任問題になる。


 大慌てになったギルドは当初は火消しをしようとしたが時既に遅く、また、原因となる冒険者を探そうとしたが、既に別の町にいて、事情を聞けなかった。


 何とか時間を稼ごうとするギルドとすぐに準備を整え、討伐隊を出すように訴える商人とで意見が割れた。


 商人は街で行方不明者になった者の関係者を集めたり、住人に公表し支持を受け、さらに領主に願い出るなど様々な手を打った。


 ギルドもようやく事態を把握した時にはギルドの周りが住人で囲まれ、動かざるを得ない状況にまで陥っていた。


 ギルドには町の治安維持という名目で実力行使をする手段もあるにはあったが、商人に味方をする冒険者たちも多く、私財を投じて雇った上位冒険者が複数いるなどの理由から討伐隊を出すことを正式に発表した。


 そうして人間たちの間で準備をし始めたが、すでにその頃には取返しもつかない事態にまで進行していた。


 狡猾に進化したゴブリンは日に日に力をつけ、群れを増やし、ついにはキングにまでなっていた。


 ギルドの対応がもっと早ければ、もしくは冒険者が早くに倒せていれば、そして、冒険者がゴブリンを見逃さなければこのような惨事は起きなかったというのに。


 キングとなったゴブリンはおよそ2万近くの軍勢を引き連れ、商人がいた町とは別の町を襲った。


 真夜中が過ぎ、人が眠りについた頃を見計らった時刻だった。


 その町は数時間と経たずにゴブリンの手によって落ちただろうと言われている。


 何故なら、ゴブリンは声を上げずに、静かに門から侵入したからだ。


 昼間に立っている門兵も夜には眠りについているため、扉の音さえ気を付ければ町への侵入は容易だったのだろう。


 それはキングとなったゴブリンが人間を観察して手に入れた情報だったのだ。


 後にあるのは眠りについた住民たちを虐殺し、蹂躙してできた地獄絵図だけだった。


 事件後、その惨状を見た時、私は吐いてしまったよ。


 それほどまでに残酷で、凄惨な光景だった。


 人間のはねられた幾つもの首が無造作に転がり、あらゆる肉片と血と臓物で彩られた道、噴水には食われた人間の骸と、犯され、腹を裂かれた女性の亡骸、有名な冒険者の首や町長の首が掲げられたモノなど、ありとあらゆる地獄がそこには詰まっていた。


 そして、復讐に駆り立てられる者の邪悪さはここまで起こさせるのだと気付かされ、恐怖した。


 その後、幾つもの町と村が焼かれ、その度に地獄が作られた。 


 その中で運よく逃げ延びた者がそのゴブリン達の姿を伝えてくれた。



 ――人のような大柄の肉体で鋼の鎧を身に纏い、奪った黄金で全身を飾り付け、血に濡れた赤黒い大剣を手にした、ゴブリン共の王。


 剣を一振りすれば十人の首が断ち切られ、雄叫びを上げれば恐怖に竦みこうべを垂れる、濁った瞳にはこの世の絶望と怒りと殺意で満たされていた。


 いや、その様はゴブリンキングと呼ぶ事すら生易しい、絶望と災厄を創り出す王の中の王、【ゴブリンエンペラー】と――――。



 そう呼ばれてからまもない時期に、ゴブリンエンペラーは十万にも上る配下の軍勢を引き連れて、自分を痛め付けた冒険者を探しだし始めた。


 近くにあった何の関係もない村や町の人間を片っ端から殺して、奪い、女は犯して軍勢の糧とした。


 そう、それこそがゴブリンの狙いだったんだ。


 町を破壊し、人間を殺すことだけでなく、自らの復讐のためにゴブリンの数を増やし戦力を増強することも含まれていたのだ。


 そうして事件を起こし、注目を集め、数を増やしながら数十の村や町、果ては国などを破壊し、混乱をもたらした。


 最終的に、そのゴブリンは高位冒険者の手によって討たれたものの、多くの人が死に絶え、治らぬ傷跡を心に刻み、悲しみにくれた史上最悪の事件となった。


 事件が終わってから、そのゴブリンを痛め付けて事件の元凶を作り出した冒険者はすぐに見つかった。


 亡くなる寸前までそのゴブリンは恨みを忘れず、狂ったように叫び続けて冒険者の痕跡を追っていたからだ。


 その結果、冒険者達は多くの人間から恨まれ、そしてついには火炙りの刑にされる中、石を投げられながら愚かにも死んでいった。


 それ以降、無闇矢鱈に魔物だろうが何だろうが痛め付けず、一思いに殺すことが世界中で暗黙の了解とされているんだ。



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