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第74話 陰キャな僕は天使を自宅に招く




「………………」

「………………」



 "チッ、チッ、チッ"


 静寂な空間の中、僕の部屋の壁に掛けた時計の音がいやに響く。理由は簡単。


 そう! 今僕の目の前には頬を染めた風花さんが俯きながら座っているからだよぉ!



 ………………。


 ……ごほん。さて、今に至るまでの流れを順に沿って説明しようと思う。


 なんと風花さんは僕の家にきてほしいという言葉を戸惑いながらも了承。そのあと彼女に理由を聞かれたけど『んー、僕の部屋に行ってからのお楽しみ』って少し誤魔化しながらも僕がそう言ったら顔を真っ赤にしながらこくんと頷いてたよ。


 ……でも『うぅ、何も準備してないよぉ……』とか『し……、かわい……のつ……て……っけぇ?』って小さく言ってたけど……はて、何の準備なんだろう? 所々聞き取れない所もあったし。……まぁいっか。


 やがて僕らはそのまま無事自宅に到着。幸い(?)といっても良いのか、仕事や学校で両親も姉もいなかったのですんなりと僕の部屋の中まで行くことが出来たよ。


 僕は急いで照明とか暖房とか丸テーブルやらリンゴジュースやらお菓子やら準備しつつ、ごめんしばらく待っててと伝えると着替えを持って浴室に直行。


 すぐさまびしょ濡れになった黒コートや制服の中のワイシャツを洗濯機にぶち込むと、あったかいシャワーを浴びました。まる。


 そうして髪とか頬に掛かった泥水や汗を軽く流しながらシャワーを浴びること十五分。長袖のシャツの上に黒パーカーを羽織り、メーカーの下ジャージを身に纏うと僕の部屋に向かったのだった。


 扉を開けると制服姿になり正座で座っていた風花さんがいた。彼女はいきなりで驚いたのか、顔を赤くしながらビクッとしてたよ。何故かわたわたと手櫛(てぐし)で髪をずっと()かしたりしてた。香水も振りかけたのか、メチャクチャ良い匂いがしてたな……!


 最初こそは『ははは初めて男の子の部屋に上がったなぁ……!? ききき綺麗にしてるんだねぇ……!?』『うん。でも棚とか直ぐにラノベで溢れちゃうから大変だよ』とか世間話をしてたんだけど、次第に口数が減っていきこうして互いに無言の状態になったってワケ。



 ……さて。



「―――ねぇ風花さん」

「は、はひぃ……っ!!」

「風花さんに今日僕の部屋に来て貰ったのも、実はお願いがあるからなんだ」

「お、お願いぃ……!? ら、来人くん……そそそれはいいったい何なのかなぁ!? 私でも出来ることかなぁ!?」

「うん。風花さんにしかできない、僕にとって大事なこと……かな」

「わぁ、私にしかぁ……!?」



 『ふぇ、やっぱりそうなんだぁ……』とか『覚悟しなきゃ……』とか両手で顔を押さえながら小さな声で呟く風花さん。


 あはは、別に取って食うわけじゃないからそう可愛くぷるぷるしたり表情や肩を強張(こわば)らせなくてもいいのに。……まぁ、これからするのは少しだけ重い話だから覚悟して貰うに越したことはないんだけどさ。


 ……ふう。―――よし、心の準備は出来た。



「風花さん、それでその肝心なお願いなんだけど―――」

「は、ははははいぃ!? こちらこそ優しくお願いしますぅ!!」

「うん。―――僕の、色んなトラウマを抱える原因になった中学時代の話を聞いて欲しいんだ」

「…………へ?」

「ダメ、かな……?」



 僕は真摯な眼差しで目の前の風花さんを見つめる。心臓の音がやけに五月蠅(うるさ)い。


 とても緊張するけど……でも、どうしても風花さんに聞いて欲しいんだ。


 僕が自分の本音に向き合えるように。そして何より、大好きな(・・・・・)風花さんに僕自身をもっと知っていて欲しいから!!


 僕は唇を強く結びながら風花さんの言葉を待つ。すると、彼女の小さな唇がゆっくりと開いた。



「……あ、そっちかぁ」

「え……? そっちって、どっち……?」



 最初は呆然としながらフリーズしていた風花さんだったけど、一切瞬きをせず感情の籠っていない表情と声音でぽつりとそう呟く。

 まるで何か別なことと勘違い(・・・・・・・・・・)してたような(・・・・・・)感じ。


 ……ん? 心なしかしょぼんとしてるのはどうして?


 そんな彼女の様子を不思議に思いその言葉の意味を訊ねると、どこか慌てたように手を前に突き出してわたわたし始めた。


 わ、また風花さん顔が真っ赤になってる。



「……はっ! なっ、なんでもないぃ! 何でもないからねぇ来人くん!?」

「そっか。それで、返事なんだけど……?」

「きくぅ! ぜひ訊かせてほしいぃ! 来人くんのぉ、昔のお話ぃ……!」



 おそるおそる上目遣いながらも、力が入った期待に満ちた表情。


 これから彼女に語るこの話は、輝きを失った物語だ。……いや、もしかしたら物語なんて大層な話なんじゃないかもしれない。

 僕のワガママだということも分かってる。なにせ押し付けるんだから。


 でも、やっぱり。


 "―――あぁ。やっぱり風花さんなら、安心する"


 独りよがりな僕の心中を占めるのは、どこまでも風花さんへの安堵感だった。



 僕は大きく深呼吸すると、ゆっくりと言葉を紡いだ。



「それじゃあ話すね。口下手だし長くなるかもだから、出来れば軽い気持ちで聞いて貰えると助かるかな」

「う、うん……! わかったよぉ……!」



 そうして僕は語り始めた。



次回からは過去編!


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[一言] やっぱそうなるよね~ そっちに決まってるけど。
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