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第7話 陰キャ男子と天使とのメモ交換 1




 ―――『メモ交換シミュレーション』とは。


 良く授業中に教師にばれないように、秘め事や必要事項を生徒間のみで伝達し合う連絡手段の一つでありそのシミュレーション版である。

 だがそのメモ交換の実態は、席が隣同士の陽キャな友人がふざける為だったり、席が離れた恋人同士がイチャつく為に利用されるコミュニケーションツールだったりする。



 うん、控えめに言って死ねばいいのに(真顔)。



 これは言い過ぎだと思う者もいるかもしれない。だが想像してみてくれ。授業中なのに目の前でメモを交換してカップル同士がいちゃついたり、その周囲にだけしか聞こえない声量でメモを交換し合い友人同士がくだらない話に花を咲かせるのだ。


 もちろん当人同士は楽しいだろう。だが聞いている側からしたら授業の集中力が削がれるわそもそもそんな友達なんていないと劣等感や敗北感に苛まれるわで百害あって一利なし。


 そもそも学校の存在意義というのは『学問を学ぶ』、つまりは自分の学力と向き合い臨機応変に学習能力や己の精神を高めていく事にこそ意味がある。

 つまり僕は何が言いたいのかというと、授業中はとにかく集中して勉学に励み、私語は休み時間にするなど態度をちゃんと切り替えて―――、




「………(ちょんちょん)」



 隣にいる風花さんが僕の腕を人差し指で突いてくる。


 おっと、今は現代文の授業中だった。この授業の中で『メモ交換シミュレーション』をしようとするなんてさすが風花さん。なんて(いき)なんだろう(おい)。


 いとおかし☆ おっとそれは古文だった。



 さて、そもそも風花さんがこのメモ交換を提案してきたのは、僕が貸したラノベの影響を受けたかららしい。『交換日記』という作品のテーマの一つであるあのラノベには文字に秘めた素直になれない気持ちを伝えるというコンセプトもあるので、その主人公とヒロインとのじれったいやりとりに惹かれた部分があったとのこと。



 僕らの席は一番後ろの窓側。教師に気付かれる確率は低いだろうが、僕は男性教師が黒板へ向いたタイミングを狙って、目を細めて微笑む彼女を見ながら受け取る。


 ふっ、気分は仲間に情報を明け渡す謎の組織の諜報員。


 綺麗に四角に畳まれた紙片に目を落としながら開けると、そこには可愛らしい丸っこい文字である事が書かれていた。



『実は中川先生ってぇ、ハゲらしいよぉ』



 ?……???………??????????


 僕は風花さんが描いた内容を理解出来ず、思わず紙片の文字と教壇に立っている先生の髪を交互に見る。先生の声と共にチョークを黒板に走らせる音やシャーペンのカリカリした音が聞こえる中、僕の頭の中は思考を停止していた。


 ちょっと待って、いくら『メモ交換シミュレーション』とはいえ手始めのジャブの割にはインパクト強めじゃない? それ設定『弱』じゃなくて『強』だよ風花さん。


 隣をちらりと見ると、何かを示すようにノートへ指をトントンとしていた。よく目を凝らして見てみると、ノートの端には『お友達に聞いたんだぁ』と書いてある。


 え、えぇ……確か中川先生って確か二十代後半のアラサー男性だよね? 遺伝だったら分からなくはないけど、僕の曇りなき(まなこ)にはふっさふさに見えるぜ?


 と僕がそう思っていると、教室の空気を入れ替えるという名目で解放していた教壇側の外窓から不意に突風が吹いた。



 ………。

 ………………。

 ………………………。



 はいはいなるほど理解した(腕組み&頷きながら)。


 どうやらそのお友達の言う通りのようです。えぇ……先生ー、ダメだよ隠したいんだったら徹底的に隠さないとー。


 僕が見た光景はこうだ。



 その一、風が吹いた途端に身体をビクつかせて頭を押さえた。


 その二、「いやー髪が崩れちゃうなぁハハハー」とわざとらしく言いながらヅラの位置を調整、窓を閉めた。


 その三、動揺していたのか教壇に上がる際に躓いてコケそうになった。そしてずれた。



 そして最終的におでこの肌色の部分がだいぶ曝け出されたまま、黒板へと向かって授業を続行。


 ………入学してから約三か月とはいえ、なんで僕気が付かなかったんだろうな。最初思わずドン引いちゃったけど、今はいろいろと悲しいよ。ほら、なんだかクラスのみんなも生暖かい目で見てるじゃん。

 年下から指摘される恥ずかしさを理解しているクラス全員の配慮だね。



 ……こいつなまじイケメンだからなぁ。ほらそんな顔に産んでくれた母親と共に僕たちに感謝しな中川ぁ。



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