第35話 天使との図書館勉強会 2
夜の更新です!
それではどうぞ!
あれから公園からでた僕らは少し歩いたのちバスに乗って移動。しばらく流れゆく街の景色を眺めながら風花さんと雑談に興じた。
図書館近くのバス停で降りると肩を並べて歩みを進める。図書館の敷地内に入ると、一般駐車場や緑や花々の庭園が見えた。僕は久しぶりに来たという懐かしさを感じつつ、風花さんと共に綺麗に舗装された真っ直ぐの一本道を通る。
じりじりと茹だる夏場にもかかわらず、立ち並んだ緑が芽吹いた木々の間からは爽やかな風が吹いていた。気のせいか、そこを通る時だけ不思議と暑さは全く感じない。
やがてそこを潜り抜けるとその先には―――白と黒の洗練されたデザインで構築された、建物の直線の流麗さが伺える、ガラス張りの多い大きな人工物の建物が見えた。
この建物の名前は『まなびホール』。以前、僕がラノベに嵌った中学の頃に良く頻繁に利用していた図書館の名称である。
そんな図書館の前に、僕と風花さんは立っていた。うん、図書館の割にはこの現代的で先鋭的なデザイン、懐かしいね!
まぁ三年前に出来たばかりだから新しく感じるのも当然だし、十六歳で懐かしいって感覚は少し変だったかな?
僕はちらほらと入口へ向かう、図書館へとやって来た人を目で追いつつ風花さんと中に入ろうとする。が、僕と同じように図書館を見上げていた風花さんはぽつりと呟く。
「やっぱり建物自体大きいなぁ。ぜんぜん見た目変わってなぁい……!」
「あれ、風花さんってここもしかして初めてじゃない? 利用したときあるの?」
「―――……うん、初めてじゃないよぉ。前に何度か良く利用したことがあるんだぁ」
「そっかぁ、僕らが住んでる辺りから案外遠いけど、ここは色んな本が集まる上に勉強とか読書ができる休憩スペースが多いからねぇ。僕も良く中学生の頃使ってたんだ」
僕は当時の様子や中を思い出しながら図書館を見上げる。
ここは図書館といってもただ本を読む場所というわけではなく、多くの会議室や資料保存室などが存在している。特に注目なのは図書館の隣の区画スペースではジュースやコーヒー、紅茶などの飲み物や焼き立てのパンなどを提供しているカフェが併設されていること。
そのおかげか地元の地域住民にはよく利用されており、僕のように離れて住んでいるところからきている人も多い。
因みに図書館で借りた本を飲食テーブルで食べ飲みしながら読むことも可能だよ。
「へぇ、そっかぁ………………まぁ知ってるけどぉ」
「え? 風花さんなにか言った?」
「うぅん、ただ"暑いなぁ"ってぇ。さぁ、早く行こうよぉ!」
「あぁ、そうだね!」
風花さんは笑みを浮かべつつ僕にそう促した。
確かに今日はすごく暑いもんね。気温三十℃超えとかもう馬鹿げてるよね。太陽を思わず睨み付け……ってまた同じ轍を踏むとこだった。
ふぅ、目が焼けて視界が真っ白になるとこだったぜ……!
もう、僕ったらおたんこなす☆
簡潔に返事した僕は、風花さんと一緒に図書館の入り口に向かって再び歩き出した。
―――さぁ、お勉強の時間だ!
自動ドアが静かに開くと僕らは建物の中に入る。足を進めながら周囲の様子を見渡すとロビーの内部は広く、奥には二階へ続く階段や無人の受付、そして複数の入り口があった。
今までいた外と比べ、ひんやりとした冷たさが目立つ。
その内の一つである、二重になっている図書コーナーへと続く自動ドアの先へ行くと、大量の本棚が目に入る。
「おぉー……! やっぱり広いねぇー!」
「風花さん、しぃー、だよ」
「はっ……! そ、そうだったねぇ、静かにするのがマナーだよねぇ……!」
「あはは、少しだけなら大丈夫だと思うよ。次、気を付けようね?」
んー、貯蔵されている大量の本と室内の匂いが僕の鼻腔を擽る。
始めは風花さんも久しぶりに来たという興奮のせいだろう、声を大きくしてはしゃぐ。僕はそんな風花さんを微笑ましげに見つめながら指を立てると、風花さんは「ごめんねぇ……!」と言いながら少しだけしゅんとした。
大丈夫大丈夫! まぁ図書館らしくない図書館だからねぇ。小さな子供もいるから叫んでも大して気にされないから迷惑じゃないよ。
むしろ厳かで静けさしかない雰囲気よりも、親しみやすい憩いの場って感じで貢献してる(謎のフォロー)!
僕は風花さんに然程問題ないことを伝えると、入り口の左側にある受付から僕に声を掛けてくる人物がいた。
「………あら、阿久津君じゃない。久しぶりね」
「文音さん……! お久しぶりです!」
「………えぇ、約一年ぶりかしら。今は高校生でしょう、今更だけど入学おめでとう。それにしても、中学三年生の秋頃からぱったり来なくなったからびっくりしちゃったわ」
「あー、あはは……ありがとうございます。文音さんは相変わらずの抑揚の無さと無表情さですね」
「………ふふん、図書館司書としてはぴったりのキャラでしょう?」
「………………」
僕と話している間でも言葉の抑揚がなく無表情、だけどどこか温かみがある話し方をするのはこの図書館の職員の一人。
名前は六塚文音さん。僕が中学生のときに休憩スペースでラノベを読んでいたら、背後にたまたまいた彼女がそのラノベのキャラをぼそりと呟いたのをきっかけに、僕が図書館に来る度に良く話す仲となった。
因みに黒髪ポニテで眼鏡を掛けた超絶美人(ココ重要!)で、純文学やミステリー、歴史書、ラノベといった様々な幅広いジャンルを好む読書家だよ。
正直に言うと、年上な文音さんが姉だったら良かったなぁって出会った頃から思ったりしなくも無かったり。だってメチャクチャ趣味嗜好が合うし。……姉には絶っっっっっ対に内緒だけどね!! またタコ殴りにされる!!
だって暴虐が垣間見えるファンキーゴリラと親しみのある寡黙な本好きの無表情眼鏡美人、どちらが良いかと言われたら……言わなくても分かるでしょ(有無を言わさない圧力)?
久しぶりに会ったので会話に華を咲かせようとするが、僕はここではっとする。天使を置き去りにしたまま会話してたからだ。
ちらりと風花さんを見てみるとにへらっとした表情を深めて無言でニコニコしている。
ごめんね風花さん置いてけぼりにしちゃって!!
文音さんが僕の隣にいる風花さんにちらりと視線を向けて、ぴくりと眉を顰めるのを機に慌てて話す。
「あっ紹介します文音さん。彼女は高校の友達の三上風花さんです。今日はテストも近いので、二人で勉強をしようと思って」
「………へぇ、そうだったの。私は六塚文音、この図書館の職員で、図書館司書をしています。よろしくね、三上さん。………? 失礼だけれど何処かで会ったことがあるかしら?」
「えぇー、初めましてですよぉ。改めてぇ、来人くんと高校でとっても仲良くさせて貰ってる三上風花でぇす。よろしくお願いしまぁす」
"とっても"の部分を強調する風花さんに、僕はすっごく嬉しい気持ちになる。まさに天にも昇る気分だよ!
でもどうしてだろう。風花さん、いつもよりもなんだか表情と話し方の柔らかさが少しだけ違うような気がするなぁ。
まぁ説明しにくいから単に僕の気のせいかもしれないんだけどさ。
そう僕が思うも、二人が互いに言葉を交わすとじっと見つめ合う。僕はこの不思議な空白な間に包まれている状態に思わず首を傾げた。
ん……? 二人ともそんなに見つめ合ってどうしたの?
……はっ! これはもしかして女性同士が唐突に出会った瞬間に起こるというトキメキ、俗に言う『百合』という奴なのでは……っ!
あわわわわどうしよう! 僕もしかしてとんでもない瞬間に立ち会っているのでは……っ?
―――あ、僕この二人だったらもう全然許せる(達観)。他の男だったら? ハハハ、絶許。
と、僕は内心そんなことを思いながら二人に交互に視線を向け……あれ? よくよく二人の表情を見てみると『百合』な展開には程遠い感じ?
なんだか雰囲気が桃色というよりも、ぱちぱちと火花が散ってる気がするんだけど。
まぁ二人とも初対面だし僕の錯覚だよね!
「………まぁいいわ。二人ともわかっているでしょうけど、図書館のご利用はお静かにね。阿久津君とは久しぶりにラノベ談義をしたいのだけれど、私はまだ仕事が残ってるから」
「あぁはい、また今度……」
「お仕事頑張ってくださぁいっ」
「それじゃあね」
文音さんはそう言い放つと、カウンターの奥に積まれた返却済みの本の山へと向かった。
彼女は基本真面目なんだけど、前は良く僕とラノベ談義をしてちょくちょく業務をサボってたよなぁ……と遠い目をしながら思い出す。
うんうん。最初上司らしき人から静かに注意されたとき、言葉巧みに『………この利用者の方から質問があったので』って言って僕を盾にしたことは忘れないよ。
……いくら僕が中学生だったからって、魅力的な女性である文音さんに『二の腕はおっぱいと同じ感触って話はどこからきたんですか』なんて聞かねぇよっ! もう少しちゃんとした具体的内容だと良かったなぁ文音さんっ!! ぷんぷんっ!!
文音さんの後ろ姿を見送っていると、ふと腰辺りに何かが触れる感触があった。視線を向けると、どうやら隣に並んだ風花さんがシャツの端をくいくいと引っ張っていたようだ。
僕を上目遣いで見上げる風花さんの表情を覗き込むと、何故かむぅっとした表情をしていた。
えっ、ちょっ、風花さん!? いったいどうしたの!? 天使の気に障るようなことでもあった!?
「―――ねぇ来人くん、早くお勉強しよぉ?」
「え、あ、あぁ……そうだよね。じゃあどこか空いてるスペースに行こっか!」
「うん!」
このあとお昼時になるまでいっぱい勉強した!
明日も更新予定です!
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