鎮まれ!冒険者ども!
仄暗い室内に、蠢く影が集まっている。
それは人の形をしており、背格好は大きい者もいれば、人の半分程の者もおり、耳が尖っていたり、胸部や臀部が丸みを帯びていたり様々で統一性はない。
些か室内が狭いためか、人と人の間隔は縮まっており、肩と肩が触れ合う位で、横に2人一緒には並ぶことは難しいだろう。
そんな狭い室内で集団の一番前にいる人間が、机を挟んで向かい側に居る、同じく人間に何やら物申している。物申す人間は気が立っているのか、しきりに目の前の人物に詰め寄り、まくしたてている。
周りの者達は、それに同調する様子であり、野次を飛ばし場を盛り上げていた。様子見に徹する者や、諌める者も居たが一部のため、あまり効果がないようであった。
「ーーーー、ーーーーーーーーーッ!」
幅1メートル程の黒塗り市販品の机を挟み、
目の前に立つ大柄の男が声を張り上げる。
余程頭にきてるのか、唾を飛ばしてることも気にしてないらしい。毛髪が少なくなった頭と袖をまくっている腕には、血管がはっきりと浮き出ていて迫力満点である。街で出会えばすぐさま道を譲り、関わり合わないように端っこを歩きたくなるだろう。
男を後ろから援護する集団は仲間だろうか、
数人の男達が同じように怒気を撒き散らし、盛んに同意を示して、声をはりあげている。
中にはこの雰囲気が楽しいのか、それとも集団で寄ってたかっていじめているこの状況に愉悦を感じてるのか、ニタニタといやらしい笑みを浮かべながら、目の前の人物に 偽物 詐欺だ 殺すぞ と様々な罵詈雑言を吐いている。
その後ろから諌める声が掛かるが、ひどく弱々しく、声が通らず消えていく。声をかけているのは、集団の中では一番背格好の低い人物で子供といっても差し支えない程で、事実声変わりがしていない様なソプラノ声であった。あわあわと同じところを行ったり来たりしながら、慌てふためいて居るが、諌めるには些か力不足のようである。
そのさらに後ろには2人程静観するものがおり、ただただいじめられている人物を静かに見つめるのみで、これといって仲介する様子もなく、又場を落ち着かせる気もないようだ。しかしながら見つめるというかは、目の前の人物を値踏み、見定めているかのようにも見受けられる。
さて、集団で寄ってたかって一方的な集中砲火を受けている人物はというと、
「…はぁぁぁあ!…あのさぁっ!言っても無駄かもしんねぇけど、一回落ち着こうぜ⁉︎
人生大人になったら余裕ってもんをもたねぇといけねぇよ?、余裕がなくなるから毛も無くなるんだぜ?おっさんよぉ。」
煽りに煽っていた。
こめかみをヒクヒクさせながら、唾を吐くように気勢をあげて、目の前の大男に負けず劣らず、声を張り上げており、鼻息も荒い。
額には汗をかき、いやに男が興奮しているのかが、よくわかる。
張り上げた声を浴びせられた大男は、鎮まることを知らず、先程よりも顔を赤々させて、さるも有名な満月の吸血鬼かという程に目を充血させる。口からは煙を吐くのが見えるかの如く、肩を怒らせている。
そうして、かれこれ一刻程続いているこの戦いは、始まりから勢い落ちることなく、今まで続き、互いの譲り合いもないために暫くこの先も続きそうだ。