部活
時間は少し遡って
「けっ。オメーも空手部がんばんな」
バイトに向かう風子が毒づいて帰っていく。激励されてはいるけどまだまだ口が悪い。外向けは別にそれでいい。2人だけの時は、許さない。付き合って1年近く立つけど、その甲斐あって、風子は私の前では、従順になる。従順にさせた。培ったテクニックで。可愛いのよね、向こう気の強い風子が従順になるのが。ゾクゾクするわ。今夜も可愛がってあげよう。
「押忍!お早うございます」
「押忍!お早うございます!」
「押忍!お早うございます!」
「押忍!お早うございます!」
掌握済みの部員達に挨拶を済ませ、更衣室で道着に着替える。髪の毛を後ろ手で縛りポニーテールにする。
風子の事を頭の片隅に追いやり、意識を戦闘モードに切り替える。
「今日は、他校との合同練習ね。迎え入れる準備は出来てる?」
「押忍!万端であります!」
相手校が着くまでにウォーミングアップをして軽く汗を流す。
そうしている内に相手校の生徒がやって来た。
「押忍!今日はよろしくお願いします!」
「押忍!お願いします!」
「ちわーす。お願いしゃーす」
......あきらかに毛色の違う舐めたおかしい奴がいる。今日は実戦はしない。演舞で威嚇して黙らせるぐらいしか出来ないか。
「あなた、挨拶はちゃんとなさい」
「お~す。しつれーしました」
若干自分がイラついたのが部室の空気に伝播する。部室の中が不穏な空気に包まれる。
「貴様!曽根崎さんに舐めた口を聞いてるんじゃないぞ!」
部員の1人が口火を切って激昂するのを片手で制する。
「いいのよ。分からない奴に言っても無駄よ。それより予定を変えて演舞からいくわよ。あなた私の前に来なさい、私は曽根崎涼子。あなた名前は?」
「金田麻希奈。お見知りおきをってか!。目の前の特等席で見せてくれるんすか?た~のしみ~」
「ええ。たっぷりと見せてあげる」
覚える必要のないソイツの名前を聞いて、ソイツの目の前に殺気を込めた目線を送り演舞を開始する。
ヒュボッ!
バスッ!
殺気と共に、私の拳と脚が空気を切り裂く。
身体から力が溢れる。
「おほっ!すげー、すげー」
ソイツは大仰な振りをしているが、私に恐れを抱いているフシは無い。それどころか......。
「そーいやアンタ、見たんだけどヤンキー娘なんかと仲いいの?」
「!!」
「イチャイチャしてて、できてんの?あんなのと。空手部の新星ともあろーアンタが」
.......ぶちっ!
「けっへへへ!女同士とかありえんしょ。趣味わりーし」
「......殺す」
「えー何ですかー?声が小さくてきこえなーい」
「3日後、個人の試合を受けなさい、誰だったかしら?アナタ」
「金田麻希奈つってんだろ!いいだろ。アンタ喰えりゃ私の名も上がるってもんだ」
ソイツは柄も悪く帰って行った。相手高の他の生徒は、すいません、すいませんあの馬鹿が!と言っていたが、気になさらずにとだけ、静かに答えて道着を着替えようとする。
「......曽根崎さん!!アイツ、こ、殺さないで下さいね!」
動けなかった部員達が詰め寄る。
私は努めて冷静に答える。
「殺しはしないわよ」
ニコッと微笑むと、部員達は震え上がっていた。
続く




