5話 村長の好物
村長の家は意外と僕たちの家の近くにある。
一応村長なんだから村のはずれなんかにわざわざ家を建てなくてもいいのに。けど家はやっぱり村長というだけあって他の家よりは立派だ。
ヘープ兄ちゃんと僕は大きな扉の前に立つ。村長自身がとても大きいから扉も大きい。
村長今家にいるのかなぁ……。
「村長ー!いますかー! 」
そう言ってヘープ兄ちゃんは容赦なく扉をバンバンと叩く。扉が壊れそうだ。
いつも気になってたけどヘープ兄ちゃんは村長に遠慮がないような気がする。まぁ、村長があんな性格だからかぁ。
そんなことを考えていると、不意に扉が開き、とてつもなく不機嫌そうな声が聞こえた。
「おい、こんな朝っぱらから誰だ!て、坊主たちじゃねぇか。俺はさっきまで寝てたんだよ! 」
「もしかして村長、今まで寝てたの?もう昼ご飯を食べる時間じゃない?せっかくヴィーと僕でおばさんの作ったお弁当持ってきてあげたのに」
そう僕たちは村長がいつもいい加減なのを知っているから強くなる方法と引き換えに、村長の大好きな母さんの手料理を持ってきたのだ!何かと理由をつけては母さんのご飯を食べに来てるのは知ってるんだからな。
村長の目の前に僕は弁当をちらかせる。村長は弁当を目で追いグルるるるるとお腹がなった。
村長はさっきの様子と打って変わってご機嫌となり、ニカッと笑い僕たちに家に入るように言った。
家の中を見渡す。
家の中は物が少なく小さな本棚とベッドにお酒が並べられているぐらいだ。
へぇ……案外家の中は綺麗なんだ、と思いながら大きな机の前に弁当を置く。
村長は机に置かれた弁当に手を伸ばしながら僕たちに聞いてきた。
「それで、坊主たちがわざわざ弁当なんか持ってきて俺のところを訪ねにきたのには訳があんだろ? 」
「うん、そーだよ」
「で、坊主何のようだ。俺は何処の誰かさんと違って忙しんでね」
「村長さっきまで寝てたでしょ」
「うるさいなヘープ。なんだ、もしかして坊主じゃなくてヘープが俺に用があるのか?」と弁当を開けてヘープ兄ちゃんをからかうようにニヤニヤと笑っている。
それを見たヘープ兄ちゃんは特に反応せず椅子に座った。ヘープ兄ちゃんと僕も弁当を食べることにした。
「いや、言い出したのは僕だよ」
「へぇー、珍しいな」
「昨日いろいろヘープ兄ちゃんと話してて、強くなるためには強い人に聞けばいいんじゃないかって」
「どうして急に強くなりたいと思ったんだ?あれか、どうせお前の母さんが作った絵本に出てくる勇者にでも憧れたんだろ。勇者みたいに簡単に強くなれたら苦労しねぇって。坊主が思っている以上に強さには種類があるんだ」
「「種類? 」」
「あぁ、そうだ。例えばな、坊主の憧れている勇者は絶対的な力の強さがあるだろう?」
「うん」
「けど、俺は心の強さがあると思う。それでこそ坊主の母さんみたいに」
「僕の母さん?なんで?母さんは強くないと思うよ? 」
「まぁ……なんだ、坊主には少し早かったか。それで二人とも力の強さの方の方法を知りたいんだよな? 」
なんかあきらめられた気がするんだけどちゃんと説明してよ。どうせ説明するのがめんどくさいだけなんでしょ。
僕は、じぃっと村長を見る。村長は僕の目線に気づいたのかどこかばつが悪そうに、
「少し難しい話だからよく聞いておけよ」と言って神妙な顔をした村長腕を組んだ。
お弁当は空っぽだった。