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記憶の果て〜俺は謎の少女に能力を貰った〜  作者: 郁嶋稚早
1章 名もなき小さな村
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3話 母さん

 


 僕たちが家に着いた頃にはもう日は沈み、代わりに月が顔を出していた。僕たちの家は、少し村のはずれにありウーボたちより帰るのに時間が掛かってしまうのだ。


 家の辺りにはいい匂いが漂っている。それでなくてもお腹がすいているのに、こんな美味しそうな匂いを嗅いだらもうこの食欲を止めることは不可能だ。足を速めて勢いよく家の扉を開ける。


「ただいまー!母さん、今日のご飯何?外までいい匂いがしてお腹ペコペコだよ 」


「ただいま、おばさん」


「ふふっ、お帰りなさい。今日のご飯はシチューよ。それにしても、随分と帰るのが遅かったわね?また、ウーボ君たちとケンカでもしたの? 」と母さんは優しい笑みを浮かべながらシチューをちょうど食卓に並べていた。それを見て思わず涎が出そうになるのをグッと抑える。シチューは僕とヘープ兄ちゃんの大好物だ。


「今日もヴィーはウーボたちに絡まれて泣いたらしいよ。それに、なぜか村長もいたし」


「ちょっ、ヘープ兄ちゃん!母さんには言わないでってさっき帰る途中で話したじゃん。それに僕は泣いてない!」


「あら、そうなの?今日もヴィーは泣いちゃったのね。それにしても、村長いつの間に帰ってきてたのかしら。一緒にいたならご飯食べていけばよかったのに。じゃ、二人ともすぐにご飯食べるから手、洗ってきなさい」


「「はーい」」


 僕とヘープ兄ちゃんは元気よく返事をして競争するように手を洗いに行く。








 *******************




「さぁ、両手を合わせて祈りを捧げいただきましょう」


 そう言って母さんは祈りを捧げるために目を閉じる。 


 僕は母さんは誰よりも綺麗だと思っている。贔屓目なしで、綺麗だし料理も上手いし裁縫も出来るし優しいし。


 けど、そんな母さんは妊娠しているのに村のはずれにある森で倒れていたところを村長に助けて貰ったらしい。だから僕は父親のことを知らない。母さんは父さんのことを話そうとはしないし僕も母さんが何も言わないから聞きたいと思わない。ただ、母さんはイチ―エ族である黒髪黒目であるが、僕の青い目が混血である事実は変わらない。


「ヴィー?ほら、早くあなたも目をつむって祈りを捧げなさい。せっかくのシチューが冷たくなっちゃうわよ」と母さんに言われ、なんだかきまりが悪くてあせって祈りを捧げる。



 そうして、シチューを一口飲む。

 美味しい。自分の顔が綻ぶのが分かる。さっきまで抱いていた複雑な感情が嘘のように消えていく。


「あっそうそう。今日のシチューのジャガイモはウーボ君のお家から頂いたのよ。今度会ったらお礼を言うのよ? 」


「嫌だ」


「ヴィー、いくらウーボ君と仲が悪いからと言ってお礼を言えないのは人としてダメよ? 」


「分かってるよ……」よ渋々うなずく。


 けど嫌なものは嫌だ。いくら大好きな母さんに言われてもウーボにお礼を言うのは嫌だし、もし仮にお礼を言ったところであの双子に見られたら何を言われるか分かったものじゃない。それにウーボのお母さんも母さんの事を悪く言っているのを僕は知っているのだ。そんな奴らにお礼なんか言ってたまるか。この怒りを目の前にあるジャガイモにぶつける。


「ヴィー、確かにウーボ君は意地悪をしてくるかもしれない。私もウーボ君のお母さんに悪く言われているのは知っているわ。けどね、そんな人たちがわざわざジャガイモをくれたりするのかしら? 」


「いらなくなったからくれたんじゃないの」


「だったら、別に私たちではなくもいいでしょ」


「確かにそうだけどさ」


 母さんは微笑んで、僕とヘープ兄ちゃんの頬を優しく撫でる。


 うん?どういうこと?訳が分からずヘープ兄ちゃんの方を見ると、何か知っているのか母さんと同じように微笑んでいる。僕の謎は深まるばかりだ。


「そうね、今はまだ難しかもね?けど将来貴方達が大きくなった時、真実を見分けられる人になったらお母さん嬉しいわ」







 そう言ってまた微笑んだ。






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