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セックスに一番近い男  作者: IK_N
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勝利者①

ファスベンダー城の城壁塔。ヴィクターは先ほどまでファスベンダーが居た部屋へフランシスカ達を案内した。


「そんな…」


そこには体を切り開かれた少女の死体。そして、ファスベンダー自身の死体があった。しかも、その死体はジャスティーヌと同様顎が外れており、体の中から何かが這い出てきたような印象を受ける。


「ジャスティーヌも同じ死に方をしていた…」

「え?」

「ファスベンダーは妹を蘇らせたいと言ってたのよね?」

「ええ、たしかに」


フランシスカにはファスベンダーの「妹を蘇らせる」という目的と今回の化け物がどう関連しているのか考えあぐねていた。聞き出そうにも首謀者とおぼしきファスベンダーが死んでいる。


「この部屋にある資料を確認して…」


フランシスカが言いきる前に、ヴィクターは瞬間移動魔法の気配を感じて彼女をかばうように動いた。


「ヴィクターさん、私です」


そこに現れたのは、イヨだった。


「イヨ!どうしてここに?」

「やはり皆さんもここにたどり着いていたんですね」


イヨは詳しい事情は話せないと言いながらも、ある事件調査のためにあの化け物の出自について探っていたと説明した。そして、そこにファスベンダーが関わっている可能性が高いという疑惑もつかんだ。


「ファスベンダーは第一魔法騎士団所属の時に生物に関する研究を専門としていました」

「生物…」

「はい。魔法の才能に対する生物面からのアプローチです」


それは、一見同じような人間の中でなぜ魔法の才能に大きな差異が出るのか、という疑問に対する研究の一つだった。魔獣の中で魔法が使えるものと使えないものの身体器官に何らかの差異がないか、解剖して調査する。それをファスベンダーも行っていたというのである。


イヨは説明しながら、その部屋にあった資料などを確認していく。


「あの化け物が出てきたのはファスベンダーの元領地からでしたから、一番怪しいのは彼だと思いました。もっとも、もう死んでいたようですが」

「これは私たちがやったわけじゃ…」

「そうでしょうね。ヴィクターさんにこんな殺し方はムリでしょうし、フランシスカでは殺す前に殺されているでしょう」


その時、イヨは一つの資料に目を通し始め、次第にその表情が険しくなっていった。


「誤解が無いようで何よりだわ。ファスベンダーは自分の妹を蘇らせたいと言っていたらしいけど、それとあの化け物がどう関係してくるのかしら…」

「…」

「…イヨ?」


イヨは、手に持った資料に集中していた。しばらく沈黙の時間が続いたが、読み終わったのかイヨは資料をフランシスカに渡し、読むように促してきた。資料に目を通し始めたフランシスカの表情は、イヨと同様に次第に険しくなっていく。そして、その後驚愕に目を見開いた。


「あの、一体何が書いてあったんですか?」


ヴィクターの問いに、フランシスカではなくイヨが答え始める。


「ヴィクターさんには以前話しましたが、団長は望遠魔法の使い方を変えることで微生物を発見しました。覚えていますか?」

「ええ。それは」

「ファスベンダーが研究していたのはさらに小さな事象を確認するための魔法です。彼は目に見える違いではなく、目に見えない違いに着目していたようです」


ヴィクターは、その話を聞いて冷や汗が出てきた。別に後ろめたいことがあるわけではない。ただ、この話の終着点が何となくわかり、それにおののいていた。


「ファスベンダーは最初、精子と卵子に魔法で手を加えることによって妹さんと"同じ存在"を生み出そうとしていたようです」

「見た目が同じ子たちを集めていたのは、最初からそのためだったってことね」

「しかし1人目と2人目は失敗。結果生まれたのは異形の化け物だった、という顛末のようです」


だが、それだけではファスベンダーは止まらなかったのだ。


「ファスベンダーはその後、自分が失敗した理由を突き止めていました。精子と卵子ではなくその中の小さな領域、そこに"生命の設計図"がある、と」

「生命の、設計図ですか…」

「はい。大発見です。この糸のような設計図にはその生物を形作るための情報がたった4つの突起のパターンによって記述されています」


ヴィクターはその場にいるイヨやフランシスカとは別の意味で驚愕していた。ファスベンダーは、自分が昨夜まで会話していた人物は、この世界で永遠に語り継がれるに値する偉業を成した人物だったのだ。


「しかし、そうして見つけた発見が逆に彼の希望を奪ってしまった。妹を蘇らせるには、妹と全く同じ"生命の設計図"が必要だと気づいてしまったのです」

「その発見の日付がちょうど昨日…。自暴自棄になったってところかしら」

「おそらくは。最初の2人に対して行った魔法を自分と娘たちにも使い、すべてを終わらせようとしたのでしょう」


フランシスカはその時、嫌な予感に襲われた。ヴィクターはあの化け物を洞窟で1体、この城で10体倒している。だが、それでは数が合わない。最初に失敗した2人、エリザべスを除いた娘たちが9人、そしてファスベンダー。この世界には12体の化け物がいるはずなのに、倒したことを確認したのは11体だけだ。


「1体、生き残りがいる…」

「なるほど、ではその1体は」

「アーネストが飼っている可能性が高いわね」

「え?」


ヴィクターは突然アーネストの名前が出てきたことに驚いた。


「ファスベンダーの資料の中に書いてあったわ。娘たちを探してくる代わりに、ファスベンダーから報酬を受け取っていたらしいわね」

「報酬?」

「報酬が何かまでは書いてないけど、あの化け物だったのかも」

「あの化け物が…ですか?」

「あんたにとっては大したことないでしょうけど、この国にとっては重大よ」

「どういうことですか?」


フランシスカとヴィクターの会話に、イヨが割って入った。国のことを出されたら、魔法騎士団のイヨは黙ってはいられない。


「おそらくあの化け物…魔法を使わせなくする祝福を持っている」

「………!詳しく話してください」


フランシスカはあの化け物との戦いの中で自分の魔法が使えなくなったことを話した。そして、洞窟でイヨの魔法がだんだん小さくなっていたという魔王の証言と合わせて考えると、あの化け物特有の祝福である可能性が高いということも。

イヨは、その話の信ぴょう性をかなり高いと判断した。特別魔法騎士団2名を殺害した犯人がファスベンダーにせよアーネストにせよ、本来なら後れをとるような相手ではない。だが、もし魔法が使えない状況に陥っていたとしたら、その限りではない。


「ありがとうございます。私はこれで」

「待って!」


フランシスカの呼び止めに、イヨは魔法の使用を中止した。


「あなたが追ってる事件って、アーネストが絡んでるんじゃないの?」

「…私に答える義務があるとでも?」

「無いのは分かってる。でも…」

「あなたまでヴィクターさんみたいなわがままを言わないでください」


突然流れ弾が飛んできてヴィクターは納得のいかない顔つきになる。だが、それとは無関係に2人の会話は続いた。


「なら、アーネストが絡んでるかどうかは聞かないわ。でも、あなたと同行はさせて」

「フランシスカ。この事件の調査は私が帝国から依頼されたものです。帝国の民であるあなたが私の要請で協力することはあっても、逆はあり得ません」

「…嘘ね」

「…嘘?」


イヨの眉が若干吊り上がる。ヴィクターは少し胃が痛くなってきた。魔王はファスベンダーの死体で人形遊びを始めている。


「何が嘘だと言うんですか?私が帝国の法を偽っているとでも?」

「そうじゃない。イヨが嘘をついてるのはイヨ自身よ」

「一体何の…」

「さっき私の要請でイヨが動くことはない、なんてこと言ってたけどイヨはいっつも私のこと手伝ってくれてたじゃない」

「え、いや、それは…」


予想外のところを突かれて、イヨの言葉がたどたどしくなる。


「イプセンの大樹林でミノタウルスやグリフォン倒したり、街では墓荒らしを捕まえるために土の中で埋まって待っててくれって私のお願い聞いてくれてたわよね?正直断られるかと思ってたわよ」

「い、いえ。そもそも大樹林ではフランシスカから要請を受ける前に自主的にやっていたので当てはまりませんし、墓荒らしは帝国に黄黒病をばらまいている犯人だと思っていたので私の責任の範囲で引き受けただけです!」

「じゃあ、黒曜石を取りに洞窟に行ったときは?」

「…」

「あの時は私からお願いしに行ったし、人の命も全然関係ない話だったわよね」

「…」


イヨは黙ってしまった。そして、顔が紅色に染まっていた。


「た、たしかに過去の私は厳格ではなかったかもしれませんが、それで今回も引き受けるという話にはなりません!」

「皇帝陛下からイヨ一人で解決するように言われているの?違うわよね?重要な任務であるほど、不要な制限はつけたくないはずだもの」

「たとえそうだとしても、あなたが付いてきたところで一体何になるんですか?ただ、自分の私怨を晴らしたいだけなんでしょう?」

「さっきも言ったけど、相手は魔法を封じる祝福を持っているかも知れないのよ?もしそうなら命取りになる。でもヴィクターが一緒ならそんな心配もないわ」


フランシスカのその言葉を聞いて、イヨは鼻で笑った。


「ヴィクターさん、ですか。結局あなた一人じゃ何もできないんですね」

「…なんですって?」


今度はフランシスカが眉を吊り上げる番だった。


「2人とも、落ち着いて、落ち着いて…」


見かねたヴィクターが、かなり無理やりだったが2人の間に割って入った。だが、2人はお互いをにらみつけたまま引こうとしない。


「あ、あのイヨさん」

「…なんですか」

「以前言っていた埋め合わせの件、ここでお願いできたりしませんか…?」

「埋め合わせ?一体なんの…」


イヨは言い返そうとして「あっ」と言葉を飲み込んだ。そう、思い出したのだ。遊牧民たちにもらった馬乳酒を飲んで、思いっきり粗相をしてしまったときのことを。


「…」


イヨは眉間にしわを寄せて、悩み始めた。その様子を、フランシスカは怪訝な表情で見つめる。


「…わかり、ました」

「え?それじゃあ…」

「…いいです。ついてきてください」

「ホント!?」


その言葉を聞き、フランシスカは飛び跳ねて喜んだ。イヨは苦虫をかみ潰したような顔をしていたが、眼中にないようだ。


「ヴィクター、あんたやるじゃない!」

「はは…どういたしまして」


イヨには悪いが、フランシスカに溢れんばかりの笑顔を向けられて、ヴィクターは今までで一番の多幸感を味わっていた。


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