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セックスに一番近い男  作者: IK_N
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ファスベンダー城への神々の入城③

空が朝に滲んでいき、風の声が耳に溶け込んでいく。ヴィクターが目を覚ました時、ベッドの上にフランシスカの姿はなかった。冷や汗が出るよりも早く立ち上がってあたりを見回したヴィクターの視界に、陶器が映った。


いや、陶器ではない。陶器のように白く、艶めかしい曲線を描いている…フランシスカの裸体だった。


「まだ寝てろ!」

「すみませんでした!」


罵声とともに投げつけられた燭台をパシッとキャッチし、ベッドのサイドテーブルに素早く置くと同時にベッドの中へと引きこもる。さっきとは別の意味の冷や汗が出てきていたが、それと同時に安堵と興奮もヴィクターは味わっていた。


(久々にフランシスカちゃんの裸見ちゃったな。後ろ姿だったけど眼福眼福)


早起きは三文の徳。もしこの言葉を作った人間がヴィクターと同じ経験をしたのなら、三億の徳に言葉を改めていただろう。ヴィクターがフランシスカの肢体を頭の中で反芻していると、突然瞼に光が差してきた。魔王がフラットシーツを少し持ち上げて、中のヴィクターを覗き込んできたのである。


「何しとるんじゃ?」

「説明し辛いですが…二度寝、ですかね」

「二度寝ってなんじゃ」

「一度寝て目が覚めた後、すぐにまた寝ることです」

「なんでそんなことするんじゃ?」

「そうですね。寝るのが楽しいからですね」


ヴィクターの回答を聞いた魔王は感心した表情で「私は寝るのが楽しいと感じたことはないな!」と言い、フラットシーツを閉じ世界は闇に包まれた。


暗闇の中でしばらく胎児のように丸くなっていると、「もういいわ」と声が聞こえたのでヴィクターはベッドから再び立ち上がった。そこにはすでに着替えを済ませたフランシスカが鋭い目でヴィクターをにらみつけていた。


「すみませんでした…」


とりあえずヴィクターはもう一度謝った。フランシスカはため息をついた後、ヴィクターに早く着替えるように促す。どうやら、もうすぐ朝食の時間のようだ。着替え終わったヴィクターは3人一緒に、夕食と同じ大広間に移動する。だが、扉を開ける前に、中が妙に騒がしいことに気が付いた。


「私が確認します。フランシスカさんは魔王様の近くに」

「…お願い」


フランシスカの許可を得て、ドアノブに手を伸ばす。少しだけ扉を開き、中の様子をうかがうと金髪少女たちが何やら話し合いをしているようだった。中にはファスベンダーの姿はない。


「どうかしましたか?」


危険はないとヴィクターは判断し、扉を開けた。それに気づいた金髪少女…おそらく一番年長の、それでも高校生くらいと思われる少女がヴィクターに駆け寄る。


「お父様がいないんです。部屋にも、朝食の時間になっても姿が見えなくて…」

「なんですって?」

「今から手分けをして城の中を探そうかと思っています。手伝っていただけませんか?」

「もちろん手伝うわ」

「ありがとうございます!フランシスカさんたちは私と一緒に来てください」


その少女はジャスティーヌと言った。ファスベンダーの娘たちの中では一番年長で、まとめ役のようである。テキパキと探す場所について娘たちに指示を出すと、フランシスカの方に駆け寄った。


「私たちは配膳室の方から見ていきましょう。ヴィクターさんは城壁塔を見てきていただけませんか?あそこは目立つので一人でも迷うことはないと思います」

「え?」


ヴィクターはてっきりフランシスカ達と一緒に探すのかと思っていたので面食らった。この状況、昨日フランシスカが言っていたようにファスベンダーがあの洞窟を確認しに行っていたとしたら…戻ってきたときに一緒にいないのは危険な気がする。そんな逡巡にフランシスカが気づいたのかヴィクターを手招きして耳打ちした。


「とにかく今は従っておきましょう。こっちには魔王ちゃんだっているし」

「それはそうなんですが」

「…正直、ファスベンダーは例の洞窟を見に行ってるわけじゃないと思う」

「どうしてです?」

「今見に行く理由が無いからよ。昨日の夜にでも行ってれば娘たちにも気づかれないし、あなたの警戒心も強めなかったはず」

「…たしかに」

「ファスベンダーが消えたのはもっと別の理由からよ。私たちとは全然関係ないのかも」


話がまとまったところでフランシスカとヴィクターは二手に分かれてファスベンダーを探すことになった。ヴィクターが探すことになった城壁塔は確かにわかりやすい場所にあった。元々見張り用に作られているのだから当然ではあるが。中の螺旋階段をのぼりながら、扉のあるところはすべて開いて、確認していく。


(これは…?)


塔を登り切ったところに最後の扉があったが、途中の階段が崩れてしまっていた。とはいえ、ヴィクターなら難なくジャンプで飛び越えられる程度である。


(昨日今日崩れた感じじゃないな)


ヴィクターはあっさりと階段を飛び越えると、最後の扉を開いた。カーテンでも閉めているのか、他の部屋と比べてかなり暗い。壁に手を当て、入口からのわずかな光量を頼りに部屋を探索する。しばらくすると、部屋の中に別の光源があることに気づいた。ランプの光だ。その光が人の輪郭を映し出している。


「ファスベンダーさん?」


ヴィクターが声をかけると、その輪郭はランプを手にしたまま振り返った。その顔は、確かにファスベンダーのものだった。


「よかった。娘さんたちが心配してましたよ。もう朝食の時間です」

「ああ、もうそんな時間ですか」

「城の方ではまだファスベンダーさんを探していると思います。すぐ戻りましょう」

「その前に、あなたに見ていただきたいものがあります」


踵を返そうとしたヴィクターに、ファスベンダーは声をかける。


「見せたいもの?」

「こちらに」


ヴィクターは言われるがまま、ファスベンダーがランプで照らすものに、一歩ずつ近づいていった。



フランシスカはジャスティーヌと魔王とともに、書物庫を確認していた。


「ファスベンダーさん!」

「お父様!」


書物庫は広く、棚のせいで視界も悪い。いちいちすべて確認するわけにもいかないので、フランシスカ達は大声を出してファスベンダーを呼びながら探索していた。


「これだけ呼びかけても返事がないし、ここにはいないみたいね」

「……」

「ジャスティーヌさん?」

「すみません。もう少し調べさせてください。もしこの部屋のどこかで意識を失っていたりしたら…」


フランシスカは、ジャスティーヌの手がわずかに震えていることに気が付いた。


「わかったわ。一通り調べてみましょう」

「ありがとうございます!」


パッと明るい表情に変わったジャスティーヌは手早く棚の間を確認していく。何十とある棚だったが、2人で確認すれば十数分で終わってしまった。


「こっちにはいなかったわ」

「はい。こちらにもいませんでした」


ホッと息をつき、次の探索場所について会話する。その中でフランシスカは気になっていたことを聞いてみた。


「ずいぶんと、ファスベンダーさんを大事に思ってるのね」

「はい。身寄りがなかった私に声をかけてくれた方ですから…」

「そう。私と同じなんだ」

「え?」

「私もお父様とお母様が死んじゃったの」

「そうだったんですね…」


次の部屋に向かいながら、フランシスカとジャスティーヌは自分の身の上話をし始めた。


「私はフランシスカさんとは少し違いますね」

「違う?」

「はい。私は…私が両親を殺したので」

「え…?」


目を見開いてジャスティーヌの表情を伺うが、そこには寂しげな微笑みしかなかった。ジャスティーヌはおもむろに自分の手のひらを胸の高さで広げた。そして、その手のひらから突如炎が舞い上がった。


「あなた。そんな魔法が使えるのね」

「はい。他には風の魔法も得意なんです。数秒なら自分の身体だって浮かせますよ」


ジャスティーヌは遠い目をして、自分に起こったことを話し始める。


「この魔法は独学で覚えたんです。あの頃は魔法で炎が出せるようになったことがうれしくて、両親がいない時にこっそり使っていろいろなものを燃やして実験とかしてたんですよ」


ジャスティーヌの顔からはだんだんと微笑みが消えていった。


「あの日、炎の魔法でカーテンに火をつけて、予想以上に炎の勢いが強くなって消せなかったんです。燃え広がる炎を前に、私は両親に怒られることを恐れてそのまま家を出ました」

「まさか…」

「…はい。恐る恐る帰ってみると、家は全焼。両親は私が家の中にまだいると思って飛び込んで、炎に巻かれて死んでいました」


いつの間にか、ジャスティーヌは自分の手をギリギリと握りしめていた。


「お父様にも、この話はしてません…嫌われるのが怖くて」

「そう…」

「でも、私は決めたんです。今度こそ、真っ当な子供として、娘として、お父様の元にいようと。たとえ…」


そこまでしゃべって、ジャスティーヌはハッとしたようにフランシスカを見た。


「ごめんなさい。私の身の上話ばっかり…。あ、さっきの話はお父様には内緒に、こんな魔法が使えることも黙っているので…」

「わかったわ。しゃべらない。約束するわ」

「ありがとうございます!」


いつの間にか、ジャスティーヌにはあの微笑みが戻っていた。


「ちょうどこの部屋ですね」


話しているうちに、次に探索する部屋についた。中に入ると、そこは誰かが住んでいた部屋のようで、必要な家具はそろっているのだが薄く埃が積もっている。


「誰もいないみたいね…。この部屋、以前誰かが使ってたの?」

「はい。今は私が最年長ですけど、私がここに来た時には上に2人いましたよ」

「そうなのね。その人たちは職についた…いえ、ファスベンダーさんは元伯爵だものね、他の貴族のところにお嫁に行ったのか」


フランシスカの問いにジャスティーヌは少し考えるそぶりをした後、


「…そうですね。お嫁に行ったんです」


と言って微笑んだ。



ヴィクターは自分が今見ているものが夢か現か、本物か偽物か、判断が出来なかった。まるで熱に浮かされている時のように、頭を回転させなければならないのに、うまく動いてくれない。そんな状況でヴィクターにできるのは、一つの質問を隣の男に、ファスベンダーにぶつけることだけだった。


「これは、一体何ですか」


ファスベンダーは答えない。


ヴィクターとファスベンダーの目の前には、金髪の少女が仰向けに眠っていた。顎から子宮の付近までを切り開かれた状態で。

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