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セックスに一番近い男  作者: IK_N
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森の魔王の領域にて①

フランシスカ、ヴィクター、イヨの3人は近くのカフェで今後の計画を立てはじめていた。


「まず、お金がないと何にもならないわ」


フランシスカの言葉に、ヴィクターは無言でうなずく。だが、うなずいているだけで実際に自分たちが金欠なのだという実感を彼は持っていなかった。なにしろシェリー伯爵の城を出てバイロン伯爵の領地に入るまでお金も食料も完全にフランシスカ頼みだったのだから。現時点でどの程度お金と食料が残っているのか、ヴィクターは全く知らなかった。


「言っておきますが、私はヴィクターさんの監視任務に必要なお金以外は出せませんよ」

「それは分かってるわ。私とヴィクターでお金を稼がないと…」


フランシスカとイヨの会話を聞きながら、ヴィクターはこの世界での金の稼ぎ方は何があるのだろうかと考えた。羊皮紙職人や今いるようなカフェを経営する道もあるのだろうが、どう考えてもフランシスカの夢の実現には向かない。彼女は世界中の様々なところを見て回る必要があるのだから。


「とりあえず、冒険者組合に行きましょう」


『冒険者組合』という言葉に、ヴィクターは色めきたった。


(おお、この世界ギルド的なものがあるのか?ちょっとワクワクしちゃうなぁ。そういうのが出てくるライトノベル、昔よく読んでたな)


ヴィクターは、かつて読んだ小説に出てきた冒険者ギルドを思い出し、ひそかに胸を高鳴らせた。クエストを受注して、それをクリアして報酬を貰う…そんなファンタジーな世界観。今までも魔法が出てきて十分ファンタジーだったのだが、ゴブリンのようなモンスターは出てこなかったし、貴族と言われても歴史の勉強をしているようでイマイチ乗り切れなかったのである。



冒険者組合の建物は首都のはずれに建てられていた。中に入ってみると、思った以上に小奇麗で驚くが、そこにいる冒険者たちはいわゆる「荒くれ者」という呼び名にふさわしい風貌だった。

フランシスカは一直線に正面の掲示板へ歩いて行った。そして、さっと2つほど張り付けてあった羊皮紙をはがして、ヴィクターの元に戻ってくる。


「これ、いまからあんたにやってもらうわ」

「おお…!」


ヴィクターの見たそれは間違いなくクエストの発注というやつであった。そこには『ミノタウルスの角24本』『グリフォンの羽根48本』と書かれていた。よく聞く名前のモンスター書かれていて、なぜだかヴィクターは安心した。


「これが依頼書ってわけですね」

「そうよ、まずはこの2つを受けてみましょう」

「わかりました。これはそんなに報酬がいいんですか?」

「いいえ。でも私には必要な依頼なの。私はまた別の依頼を探すから、あんたがこれをやっといて」

「え」


フランシスカの言葉にヴィクターは慌てた。やっておいてと言われても、ミノタウルスやグリフォンがどこにいるのか彼にはまったく分からなかった。それに、フランシスカがここに留まるつもりなのも気になった。


「場所が分からないって言うんでしょう?大丈夫よ、依頼を受けたら地図を渡されるから」

「あ、ああそうなんですね。しかし、他の依頼を探すというのはここで?」


ヴィクターはそこにいた冒険者たちを見回した。正直、女子供の周りにはいてほしくない人種ばかりである。


「あんたの言いたいことはなんとなく分かるわ。でも、冒険者は信用と信頼が大事な仕事なの、ここにいる人たちは当然それを分かっているわ」

「………イヨさん、私がクエストを受けている間、フランシスカさんのそばにいてくださったりは…」

「無理です。私はヴィクターさんの監視役ですから」

「…ですよね」


ヴィクターはしばらくう~んと唸っていた。フランシスカからの依頼は当然全うしたいのだが、その間フランシスカを守れる人がいなくなるのは不安だった。彼女自身から大丈夫だといわれても、どうしても抵抗がある。

そんなヴィクターの内心に気づいたのか、フランシスカは小さくため息をついた。


「分かった。分かったわよ。私も一緒に行くわ」

「ああ、そうしていただけると助かります」

「全く…」

「それで、一体どこに行けば…?」

「この依頼書の下の方に書いてあるでしょ」


そこには依頼主の名前が『グリーグ伯爵』と書いてあった。


「ああ、伯爵の依頼だから伯爵領に行けばいいわけですね」

「その通りよ。伯爵領内で以来の品を手に入れればいいの。グリーグ伯爵領だから、きっとイプセンの大樹林あたりになるわね」

「なるほど…伯爵領なら魔法騎士団の方がいるんですよね。その方たちに依頼はできないものなんですか?」

「できません。魔法騎士団の仕事は外敵の排除と、外敵の排除のための研究です。単なる採集行為のために使役することはできません」


ヴィクターの問いに答えたのはイヨの方だった。どうやら、魔法騎士団でやれることはけっこう細かく決まっているらしい。だからこそ、自分の領地での収集行為を冒険者に頼まなければならないのだろう。


「わかったら、早速行くわよ」


フランシスカはそういうと、依頼書を組合の受付へと提出しに向かったのであった。



「依頼は正式に受領。あとはグリーグ伯爵領に行くだけね。私たちが乗ってきた馬車は押収保管所にあるのかしら?」

「はい。しかし、馬車を使うのですか?私の魔法ならすぐ着きますが…」

「いえ、いいの。この道中のことだって、本にできるかもしれないしね」


押収保管所にはフランシスカとヴィクターが魔法騎士団につかまった時のままで馬車が保管されていた。


「よし!グリーグ伯爵領はここから南東に3日ってところね。あとは買える分のパンと豆を手に入れましょう。それ以外は現地調達ね」


金欠でギリギリ状態のはずだが、フランシスカは今の状況を楽しんでいるように見えた。いや、実際のところはヴィクター自体も楽しんでいたのだ。異世界での冒険にワクワクしない男子がいるだろうか?


既に太陽が傾きはじめたころに、荷物を積み終えた馬車はグリーグ伯爵領に向かって動きはじめた。御者は相変わらずフランシスカだったが、イヨもやれるというので数時間ごとでの交代をすることになった。


イヨと馬車の中で2人きりになったヴィクターだったが、女性と2人きりの空間で何をすればいいのか皆目見当がつかない。結局、胡坐をかいて腕を組み、目を閉じて瞑想しているふりをすることに決めた。


しばらくして、ヴィクターはふと気になったことをイヨに聞いてみることにした。


「…イヨさん。魔法って私にも使えるものなんでしょうか」


ヴィクターが話しかけてきたことか、それともその内容に驚いたのか、イヨは目を一瞬丸くした。すぐに鋭い表情に戻ると、ヴィクターの問いに答えはじめる。


「訓練すれば魔法は誰でも使うことができます。もちろん、才能と訓練量によって程度の違いは出ますが」

「…ぶしつけなお願いになってしまうんですが、私に魔法の使い方を教えていただけますか?」

「構いませんよ」


イヨは即答でOKした。正直断られるのではないかと考えていたヴィクターはその即答ぶりに驚かされた。


「いいんですか?イヨさんくらいの魔法騎士団になると、訓練方法とか国家機密になってるんじゃあ…」

「魔法の訓練方法は、皆大して変わりませんよ。今からあなたに教える方法は大昔から口頭で伝承されてきて、農民でも普通に知っているものです」

「そうなんですね。ではその方法教えていただけますか!?」


ヴィクターがいきなり魔法を勉強しはじめようとしているのは、単に彼個人の好奇心によるものである。魔法!ファンタジー作品に触れたことがある人間なら一度くらいは自分で使ってみたいと思うだろう。ヴィクターもその例外ではなかった。


(洗脳魔法とかは存在しないみたいだけど、自分で火を出したり水を出したりとか、せっかくだからやってみたいよなぁ…)


齢29をこえているヴィクターであったが、いまだに魔法に対するあこがれは消えてはいなかったのである。


こうして、馬車に揺られながらの魔法訓練が始まった。


「まず、魔法とはイメージです。視覚化が魔法の基本中の基本になります」

「はい」

「本来であれば個人個人で最も集中力の高い時間にこの訓練は行うべきですが、一旦無視します。また魔法訓練用の御香を焚くとより効率的にできますが、今は手持ちがないのでやりません。では、ここにうつ伏せになってください」

「え、ここにですか?」

「はい。ここにです」


イヨの指示に従って、ヴィクターは馬車の床にうつ伏せになった。ひんやりとした木の冷たさが、ヴィクターの体温であっという間に温められていく。


「リラックスしてください。足の先から体の力を抜いて、それを頭のてっぺんまで伝えていください。筋肉をすべて弛緩させて、体が溶けて床と一体になるイメージで」


ヴィクターはイヨの言われた通りに体を弛緩させていった。そうすると、彼に睡魔が襲ってきた。


「眠くなってきたと思いますけど、眠らないでください」

「う」

「リラックスした状態を維持して」


図星を突かれて体がこわばったことをイヨが看破する。まどろみに堪え、かつ体をリラックスさせるのは、思ったよりも大変であった。

十分にリラックスできたとイヨが判断した後、ヴィクターの目の前にコインが置かれた。


「…これは?」

「帝国で使われている貨幣です。そのコインの大きさ・形・模様を記憶してください。記憶できたら目を閉じて、記憶したコインを目の前に思い浮かべてください」


目を閉じてコインを思い浮かべる。だが、記憶したようで、コインの模様の詳細はなかなか思い出せなかった。


「目を開いて実際のコインと自分が思い描いたコインとの差異を確認してください。そして、その差異が無くなるまで自分の頭の中でコインが視覚化できたら、第一段階は終了です」


イヨは簡単に言うが、これがなかなか難しい作業でヴィクターを四苦八苦させた。結局、完全に一致させるまでに40分ほどかかってしまったのである。


「まあ、最初はこんなところだと思います。しばらくはこの訓練を続けてみてください。大体二週間ほどが目安になります。そうしたら次の段階に進みましょう」

「え!そんなにかかるんですか!?」


ヴィクターはイヨの言葉に驚いた。ゲームやファンタジー小説ならもっと簡単に魔法が手に入る。ここでもお手軽に火が出せるようになるとヴィクターは期待していたのだが、現実はそんなに甘くなかったようだ。


「はいそうです。私も同じくらいの期間、この訓練しかやらせてもらえませんでした。焦るのは分かりますが、省けない訓練なんです」


(別に焦っているわけじゃないけど、もっと簡単に使えると思ってたよ…)


自分でお願いしておきながら、情けない泣き言を心に浮かべてしまうヴィクター。しかし、魔法を自分で使いたいという欲求はそれを上回るほど大きかった。


「それでは私はフランシスカと御者を代わります。この訓練は1日1回で十分です。回数を積み重ねてもあまり意味はないので、気を付けてくださいね」

「わかりました。ありがとうございます」

「どういたしまして。フランシスカ!代わりますよ」


イヨはフランシスカに声をかけると、御者を代わった。今度はヴィクターとフランシスカが馬車の荷台に2人きりの状態になる。


「…」

「…」


フランシスカはじっとヴィクターを見つめている。その眼には、何やら非難めいたものが表れているのをヴィクターは感じ取った。


「あ、あの何か?」

「…別に。あんたも御者ができればもっと楽なのにって思っただけ」

「…面目ない…」


今度はフランシスカかイヨに御者のやり方を習ったほうがいいな、とヴィクターは考えを改めるのであった。


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