自動販売機
……とある夏の日の朝。
あまりの暑さに閉口しながら歩いていた僕は、交差点で『自動』販売機を見つけた。
ポケットを探ると、ちょうどいい額の小銭もある。
これ幸いと、僕は躊躇うことなくその小銭を投入していた。
体力にも気力にも人並みの自信はあったが、さすがにその日は暑すぎたからだ。
そして、ボタンを押す――
――僕は、放課後の教室で帰り支度をしていた。
さっさと帰って、冷房の効いた部屋で遊ぼうとも思ったが……よくよく考えれば今日は塾に行かなければならない。
さぼってしまいたいところだが、受験もあるし、親もうるさい。
めんどくさいとぼやきながら家路につく。
そうして足早に歩く僕の目に留まったのは、朝も利用した自動販売機だった。
……そうだ、これがあった。
朝に小銭を使い切っていたので、手持ちは1万円札だけだったが、幸いにしてこの自動販売機は、高額紙幣も使えるようにしてあった。
僕は安堵しながらお札を入れ、さっさとボタンを押した――
……気付けば、窓の外は暗い。
部屋の中は煌々と白い光に照らされているから分かりづらいが、真夜中だろうか。
誰かに時間を聞こうとも思ったが、口が開かない。
いや、それよりも……。
見知ったような、見知らぬような……そんないくつもの顔、顔、顔が、揃って僕を覗き込んでいるのはどういうわけなのだろうか。
いや…………待て…………待てよ………?
見知らぬはずがない。
そうだ、そんなはずがなかった。
よくよく見れば……居並ぶのは、私の子や孫たちではないか。
そうだ、ここは病院だ。私は、もう何年も入院していて……。
そう、もうじき寿命を迎えるのだ。
思い返せば……きっと、恐らく……平凡ながら、幸せな人生だった。
……そうとも。
『自動』人生こそが、幸せなのだ。