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旅への手順  作者: 蒼穹月
21/22

第3歩-勇者と同郷の人達と

一回でかなりの文字数を入れられると気づいたので、全部載せます。


 「良い天気♪」

 雲一つ無い青空。真上に照る太陽。地平線が見えそうな広い草原。時折微風が過ぎる。

 「どぉこが。『良い天気♪』だっ」

 頭からマントを被ったライ君。項垂れてる。当人曰く。絶不調。

 「何所からどう見ても」

 ライ君を見て。草原と空を見る。

 「良い天気だよ?」

 ライ君の足が止まった。

 「っだぁぁ!」

 両手を思い切り天に伸ばして。

 「あっちーんだよ!」

 思い切り下ろす。そしてまた元気無く項垂れる。

 「今、真夏だもん」

 日差し避けに僕とルック君もすっぽりマントを覆ってる。

 「本当。人間て暑さに弱いのね」

 元気に飛び回ってティルが言う。

 「うるへー。ティルは寒さに弱いだろー」

 反論も元気ない。お蔭で僕はハリセン攻撃も何も無く、平和な日常だけど。

 「小さいから熱が溜めづらいのよ」

 「僕達エルフや人間も寒さに弱いよ」

 「あら。そう言えばそうね。という事は、ライってば暑さも寒さも駄目なのね」

 面白がってティル。

 「うー。涼しくする魔法ねーのかよー」

 力なく座り込んでライ君。

 『有るけど』

 僕とティルがはもった。

 「じゃーやれよ!」

 「僕必要無いから習得しなかった」

 「下に同じく」

 僕の頭上でティルが真面目に言った。

 あ。ライ君てば変な顔。口がアングリ開いてる。あ。力尽きた。

 ライ君が力尽きたところで、ルック君がテントを張った。ティルがその周りを氷で囲う。

 「あー。生き返ったー」

 水を飲んだライ君が、背伸びをして言った。

 「俺様ってば、温室育ちだから。高温低温に弱いんだよ」

 「曲りなりにも王子だもんね」

 ティルが水の入った容器に浸かりながら言った。

 それを見てライ君が羨ましそうに見る。

 「チビって便利だな」

 うう。二人の間に火花が見えるぅ(汗)。

 「ご飯出来たよ」

 ライ君の体の為に、食べ易い雑炊を作ってたルック君。出来た物を僕が器に盛って皆に渡す。

 「相変わらず旨いぜ。ルックの料理」

 料理だけじゃなく、洗濯や掃除までやってくれる。ぐちゃぐちゃの荷物も、何時の間にか綺麗に整えられてる。

 「ルック君て僕達のお母さんみたい」

 美味しいご飯に満足して食べる僕。自然、満面の笑みになるのを隠す気は無い。

 「お母さんて・・・。ルック男でしょ」

 「しかもトニーより全然年下。失礼にも程が、」

 言いながらルック君を見る。

 「でも無い様だな」

 満更でもないルック君の様子に、口をヒクヒクさせるライ君。ティルもめまいを起こしてる。

 「にしても。何で真夏に草原闊歩せんといかんのだ」

 ライ君がスプーンをピコピコ動かす。

 「先頭きってこっちに来たのはライ君だよ」

 う。っとあからさまに言葉を詰まらせるライ君。

 「そうよね。

東に行った怪しい奴を追う筈が」

傾きかけた太陽の方を見て。

「なんで西に向かってるのかしら」

ジト目でライ君を見る。

「面倒事を避けるため」

サラリと言ってのけるライ君。

「のすんじゃなかったの?」

「伸すとは言ってない」

そういえば。

「そういうのは勇者とかにでも任せりゃ良いんだよ」

面倒くさそうに寝っ転がるライ君。

「ライ君ジジくさい」

「ぬわぁんか言ったか~?」

うわぁん!ライ君に頭グリグリされた!

「で。現実問題。今、勇者って居るの?」

ティルが紅茶を飲みながら聞いてきた。

「・・・。さあ?」

「『さあ?』って。分らないの?」

「城に居た頃は、まあそれなりに色々聞いてたけど」

考え込むように唸るライ君。

「確か。どっかの田舎で勇者を祭上げてるとか何とか」

「はっきりしないわね~」

「田舎が復興の為に何かすんのは、今に始まった事じゃねーからな」

「調べたりしないんだ?」

「国以外の場所の戯言に、一々付き合ってやる程王族は暇じゃねー」

ウンザリしてソッポを向いちゃった。

「勇者かぁ。悪云々は兎も角、会ってみたいなぁ。ねぇ、ティル?」

「そうね。興味あるわ。ね、ルック?」

ルック君はちょっと考えて、頷いた。

僕達の遣り取りを聞いて、ライ君は耳を塞いだ。

「あ、ごめんね。煩くて寝れないよね」

食後に寝ると牛さんになっちゃうけど、ライ君具合悪かったんだもんね。静かにしてあげなくちゃ。

「煩かったな」

ソッポを向いたまま返してくれるところをみると、塞いだ意味は無いみたい。

「聞こえない振りしても駄目。多数決だから、次の行き先は勇者の田舎よ」

キッパリハッキリしっかり言い放つティル。ライ君は頭を抱えて唸る。

煩くて寝れないから塞いだんじゃなかったんだぁ。

「さ。ご飯も済んだし。町で情報収集するから、さっさと出発!」

ティルが氷の魔法を解いた。

「だー!もーちっと涼んでもいいだろ!」

「問・答・無・用!」

グチグチ言ってたけど、僕達がテントも片付けちゃったから結局出発した。


近くの集落に着いたのは、次の日の昼。

宿が無いから農家のおばちゃん(僕にとっては娘さんなんだけど)に、ご飯を御馳走して貰ってる。

「取り敢えず人の居る所には着いたけど。此処じゃ勇者の田舎の話聞けそうに無いね」

おばちゃんが持ってきてくれた、採れたてのトマトを齧りながらティルに言う。

「此処で聞く気は無いわよ」

苦笑してリンゴに噛付く。

「こんな集落じゃ情報なんて入んねーよ」

馬鹿にするライ君。でも出されたご飯は美味しそうに食べる。採れ立てをふんだんに使ったご飯は、とっても美味しいの♪

「勇者の居た村なら知っておりますよ」

「ほらな」

・・・。

「うおわっ!」

音も無くライ君の背後に立つおばちゃんに、椅子をひっくり返して驚くライ君。流石に転ばないけど。

おばちゃんは、空いたライ君のグラスにリンゴジュースを注いだ。

「気配無く背後に立たないで下さい!」

胸を押さえながら椅子に座り直す。

よっぽどビックリしたんだねぇ。何か敬語だし。

「おやおや。御免なさいね。狩の癖で」

言って、豪快に笑う。

「どんな癖だよ」

力なく呟くライ君。

「けど、これ位気付けなきゃ、旅なんて出来ないんじゃないのかい?」

ジュースを持ってない方の手で、ライ君の頭をワシワシ撫でる。

「何時でも気を張ってたら疲れるっつの。只でさえ暑さで体だりーのに」

泡を食っておばちゃんの手から逃れる。

「ライ君て・・・。ああいう人が苦手なのかなぁ」

ティルとルック君に耳打ちすると、ルック君は肯定で返してくれた。

「お母さんがああいう人なんじゃない?」

これにも肯定で返してくれた。

「おやおや。あたしが僕達を売る気だったらどうするんだい?」

人差し指をライ君の鼻面に押し付けて、人の悪そうな顔で言う。

ライ君は逃げる様に後ろに退いて、おばちゃんの手を掴む。

「生憎。人を見る目はあるんでね」

逃げ腰ながらも自慢して言うのが、とってもライ君らしい。逃げ腰なの始めて見たけど。

おばちゃんは、呆れと驚きの中間の顔をして、一瞬黙る。でも、すぐ噴出して。

「凄い自身だね。まあでも、有難うね」

最後にニカッと人の良い笑みを見せて、僕達にもジュースを注いでくれた。

「で、勇者の村だったね」

おばちゃんも近くの椅子に座って、ジュースを口に含む。ライ君がおばちゃんを睨んで、「そうだよ。何で知ってんだよ」って呟いた。

「此処から西に歩いて一ヶ月の所。ニルス王国からは南東に五日の所だね」

「へぇ。情報ってどこでも入るんだぁ」

感心しておばちゃんを見ると、笑みで返してくれる。

「此処は、近くに村も町も無いからね。案外旅人が立ち寄るのさ。僕達みたいなね」

納得です。

「なら宿位作りゃーいーじゃねーか」

ぶすっとしてリンゴに手を付けるライ君。

「あたし等は今こうして生きているだけで幸せでね。儲けようとは思わないんだよ。その代わり、旅人にはあたし等の家に御招待」

僕達みたいにね。ウィンクをされて笑みが漏れる。ライ君は何でか引き攣った笑みだけど。

「御蔭で色々な情報が入るのさ」

ジュースを飲み干したおばちゃんは、「ま。ゆっくりしていきな」って言って畑作業に戻った。忙しい合間に僕達の相手をしてくれたみたい。

「じゃあ。後一ヶ月頑張りましょう」

ライ君に向かって、ニッコリ笑って言うティル。ちょっと、人が・・・妖精が悪く見える・・・(汗)。

「へーへー」

思いっきりやる気無くだらけて言うライ君。テーブルに突っ伏して、リンゴをピコピコ振るの、お行儀悪いですよぉ?ライ君。

「でも今日はお言葉に甘えて泊まろうね」

五個目の美味しいトマトを齧り、ニコニコして言うと、ライ君が元気に同意した。

ティルは直ぐ行きたそうだったけど、ルック君も僕に同意した事で泊まる事になった。

「じゃぁ、僕おばちゃんのお仕事手伝ってくる」

食べ終わったお皿を片付けて外に出ると、ルック君も付いて来た。

「おばちゃん。僕達も手伝うよ」

「あら。有難う。助かるわ」

言って一通りの作業を教えてくれる。

「ねぇねぇ、おばちゃん。他に変わった情報入ってこない?」

真っ赤なトマトを採りながら、隣で余計な葉っぱとかを切ってるおばちゃんに聞く。

「そうさねぇ」

考え込むおばちゃん。でも手は止めてない。

「魔物が暴れる。って話を聞いたね」

魔物・・・。その言葉にちょっと手を止める。ルック君は雑草を抜きながらおばちゃんを見る。

「西から東にかけて次々暴れて行くんだそうだよ」

西から・・・。魔物園・ドフィル・ソシリア。確かに西から東の位置にある。

「何時頃からか分かる?」

トマトを籠に入れる。

「時期は勇者が村から居なくなったのと、同じ位だね」

「え?勇者。村に居ないの?」

「ああ。忽然と姿を消したそうだよ」

・・・。魔物。勇者。西から東。勇者の村は西。夜皆と話した方が良さそうかなぁ。

他にもおばちゃんは、家出した王子の話とか、絶滅したと言われる召喚士一族の話とか、エルフの集落から追い出されたエルフと妖精の話とかしてくれた。僕達と全く同じ条件で旅に出る人って、いるもんだなぁ。(大真面目)。

お手伝いも終わって、お風呂を使わせてもらって、借りた一部屋に皆が揃ったのは、夜も遅い頃。

床に敷かれたお布団に包まって、皆の様子を窺う。

ティルは、棚の上に敷かれたプチクッションの上で、ハンカチを膝に掛けてる。

ライ君は、剣を磨いてる。

ルック君は、荷物の整理をしてる。

「ねぇ。あのね。畑でおばちゃんに聞いたんだけど」

「なあに?」

皆手は止めないけど、耳は傾けてくれる。

「うん。勇者ね。村に居ないんだって」

「どういう事?」

ハンカチを退けて、僕の近くに飛んでくる。

「詳しくは知らないけど。

ある日、忽然消えたんだって。

それと同時期に魔物が暴れる事件が、西から東に次々起こったって」

ライ君が剣を鞘に収めて、僕の隣の布団にドッカリ座った。

「成る程。逃げたか」

「原因を追ったんでしょ」

「ヤられたかもな」

ティルとライ君が口々に推理してく。

やっぱり言って良かった(喜)。

僕が喜んでる間も二人は、推理していってる。関係無い事まで言ってる気がするけど。

「よし解った。じゃー勇者の村は行かないって事で」

すっごく嬉しそうにライ君が唐突に言う。

「行くわよ」

ティルはすっぱり言い放つ。

「僕も行きたい」

ルック君も頷く。

「結局行くのかよー」

ウンザリして言うライ君。

ライ君って本当に面倒臭がり屋だなぁ。

不貞寝を始めたから、僕達も寝る事にした。


勇者の村に着いたのは、一ヵ月半の事だった。

だってライ君ぐずるんだもん。やれ休憩だ。やれ暑い。騒ぐから、強い魔物も寄って来る。ここぞとばかりに活気に倒してくから、ストレスは発散できたみたいだけど。でも、魔物可哀想だったなぁ。犠牲になって・・・(悲)。

勇者の村はそれなりに出来の良い村だ。

ライ君曰く。

「勇者騒ぎで相当儲けたな」

「勇者って儲かるんだねぇ」

勇者が居なくなった所為で、やけに閑散としたお店を見て、かなり感心しちゃう。

村の真ん中辺りに宿を見つけて入る。入って直ぐは、食堂になっていた。でも、人はいない。それどころか、カウンターには従業員すらいない。

「風邪でも大流行してるのかなぁ」

ばし。げし。

『んなわけあるか』

一々殴る蹴るしなくてもぉ。

因みに、【ばし。】がティルのハリセン。【げし。】がライ君の蹴り。

カウンターには、呼び鈴がある。勿論迷わず鳴らす。そして誰も来ない。

「やっぱり寝込んでるんだよ」

ティルに振り返ると、ティルは溜息を吐きかけ、カウンターの奥を見て止める。

「ほら、違うでしょ」

ティルの指した方を見ると、奥から人が現れてた。

「・・・手品」

「普通に歩いてきたから」

ライ君にホッペつねられた。

「客か。こんな何も無くなった村に」

焦燥感を漂わせたおじさんが、投げ遣りに言葉を発した。やる気が全く感じない。

「勇者の居なくなった村に今更何の用だ」

目だけで睨む。

それに反応するのはライ君だけ。負けずに睨み返す。しかも思いっきり笑顔で。

「接客が成ってねーなー」

語尾が上がってる。キレなきゃいいけど。

「ふん。今更商売なんてどうでもいいさ」

目を逸らすおじさんと、僕の目がぶつかってしまった。何か嫌だなぁ。この目。

「それで。泊んのか、泊らんのか」

僕に聞いてくる。

「えと。泊ります」

「ふん。上の部屋を好きに使うがいいさ」

壁に掛かっていた鍵を、無造作にカウンターにばら撒く。でも、どの鍵が何人部屋かは教えてくれない。仕方なく近い数字をそれぞれ取る。ティルは僕と同じ部屋で寝るから、取ってないけど。

「言っとくが飯は出ないぞ。食うもんは自分達で何とかするんだな」

言って、奥に引っ込むおじさん。

「取り敢えず、部屋行こ?」

ライ君が奥に威嚇してたから、腕を引っ張って上に促した。

部屋は階段に近い所にあって、ライ君が真ん中で右が僕で左がルック君になる。

ライ君の取った部屋は四人部屋になってる。そこに集まってこれからどうするか、聞いてみる。

「そうね。勇者の事は聞きたいわね」

「うん。そうだね」

「そうだな。あのオヤジは一遍締めた方がいいな」

「うん。それは止めとこう」

真面目に言いたくなるの分かるけど。でも事情も知らずにただ締めるの良くないと思う。

うん。ライ君が残念がる気持ち分かんなくは無いよ?だから、ハリセンに手を掛けないで欲しいな・・・っ(焦)!

「じゃぁ、村の人捕まえて聞こう」

ハリセンを見ない様にして、会話をティルの方ので進める。

「さっきのオヤジ捕まえときゃよかったんじゃねーか?」

「うう。あのおじさんは嫌ぁ。目、嫌い」

「そうね。此処に泊る以上、あの人とは何時でも話せるわ」

結局話すんだぁ。嫌だぁなぁ。

「お店と民家どっちで聞く?」

「んー。二手に分かれて聞きましょう」

「うん。じゃぁ僕民家がいい」

お店択んで、さっきのおじさんみたいだったら嫌だし。

「ん。それじゃ、ライとルックは店ね」

「へーへー」

やる気ない返答に、ティルはジト目でライ君を見る。

「ルック。ライの事、くれぐれも宜しくね」

ルック君に引っ張られて、宿を出るライ君。

「それじゃ、私達も行きましょ」

僕達も宿を出て、民家の多そうな南へ行く。ライ君達はさっきの閑散としたお店に行ったみたい。

南は民家と畑で成ってる。中心に比べて、やや田舎臭さが残ってる。人も少しは外に出てる。でも僕達を見て、近くの村人に駆け寄って、内緒話を始める。

なんだかなぁ。

「僕そんなに変?」

「エルフが珍しいって、考えも出来るでしょうけど」

村人の顔色を窺って、溜息をする。

「旅人にいい思いを抱いて無いんでしょうね」

「自分達から旅人目当てに荒稼ぎ始めたのに?」

村人が睨んできた。声量気にしないで言いたい事いったもんねぇ、僕。でも、荒稼ぎしてたじゃんねぇ。

ワザと呆れ顔で周りの村人を見る。

だって、僕は何もしてないのに、こっち見てヒソヒソ話すの、ムカついたんだもん。

「・・・がう・・・」

「がう?」

横から微かに聞こえた女の人の言葉を、無意識に繰り返して言ってる僕。繰り返して言ったのに気付いて、頭の中で何度か反芻してみる。

「・・・実は、村人さんは村人さんじゃなくて・・・ライオンさん?」

「違うっ!」

「・・・トラさん?」

「違う。わたっ・・・私達は望んでなかったのよっ・・・!」

はい?何が何だか?

声のした方を見ると、横道から来たであろう、野菜籠を抱えた女の人が泣崩れていた。

えと。・・・ぼ。

「僕が・・・泣かしちゃった・・・の?」

顔中から脂汗が流れるのを感じる・・・(汗)。

「ティ・・・ティルぅ。どぉしたらいい?」

ちょっと離れた所からする泣き声を、耳に受けながら、ティルを見る。

ううぅ。僕が泣きたくなってきたぁ(潤)。

ティルは僕の鼻面をぽんぽん叩く。僕の前髪を引っ張って、女の人に近づく。

「取り敢えず、此処じゃ何だから。貴女の家に行きましょう」

女の人は泣きながら頷いてくれた。

女の人、ミルシャさんというらしい。ミルシャさんの家は村の外れにあった。一人暮らしらしい。

今は泣き止んでくれてるミルシャさんは、冷麦を出してくれた。

「取り乱して、ご免なさい」

向い側に座ったミルシャさんは、コップを両手で包んでる。その手はちょっと震えてる。

「あう。僕が泣かしちゃったみたいで。ごめんなさい」

素直に額をテーブルに付ける勢いで謝る。

「ごめんなさい。狼さんなんだね」

「は?」

ミルシャさんの目が点になった。

「え?それも違うの?じゃぁ熊さん?」

ずばん。

「御免なさいね。この子の言動は気にしなくていいから」

ティル・・・。鉄扇に進化してる(痛)。

「何か、事情があるみたいね」

「え?ええ」

ティルと僕を交互に見るミルシャさんの目は、明らかに困惑している。

「あの。大丈夫ですか?」

あう。優しぃ(感涙)。

「だいじょぅぶぅ。慣れてるからぁ」

目を白黒させつつ、濡れタオルでたんこぶを冷やしてくれる。やっぱり優しぃ。

「この子は大丈夫。それより事情、話してもらえるかしら」

「・・・はぁ」

生返事を返して、俯いて考え込む。

「あの。貴方達も勇者目当てで来られたのですか?」

警戒して言う。

「うん」

素直に言うと、目を見開いて、睨まれた。

「なら、貴方達に言う事は有りません!」

「勇者さん。急に居なくなっちゃったんだってねぇ。それでね、西から東に向かって、魔物が暴れてるんだって」

「人の話聞いてます⁉」

「やっぱり勇者さんやられちゃったの?」

「全然聞いてませんね⁉」

「居なくなっちゃったの、悲しいねぇ」

ミルシャさんの顔色が変わった。

「あなっ、貴方達の所為じゃない!」

あわわわわっ!また盛大に泣き始めちゃったよぉ。

「うわあん!ティルゥ、僕何もしてないよねぇ⁉」

「して、してないからっ!両手で、握り締めて、シャッフル、するんじゃない!」

あう。怒られた。

「んもう!」

体をパタパタ叩いて、服を整えるティル。ちょっとフラフラしてる。

「ふー」

体の調子が戻ると、睨みながら泣きじゃくるミルシャさんを、ギン!と睨み返す。

怯みまくるミルシャさん。ティルの勝ちだ。流石ティル魔人(汗)。

「ミルシャ。あんた今の完全な逆恨みじゃない。そんなの、私達に当たるんじゃない!」

「さ、逆恨みじゃないわよ!貴方達みたいなのがいるからっ、サリヤが居なくなっちゃったのよ!」

ソッポを向いて叫ぶ。

うんうん。ティル魔人を真っ向から見据えて言い返すなんて、怖すぎて出来ないよねぇ。でもね、人の目を見て話さないの、すぅっごく、逆効果。ほら、ティルの額におっきく血管浮き出ちゃったよ。そういうの、許せないんだよねぇ。特に魔人時は(遠目)。

「思いっきり、逆恨みじゃない。あんたの言ってる事はね。人間の幾人かが、他種族を殺したら、人間全てが他種族殺しだ。そう言ってるのと、全く同じなのよ」

じりじりとミルシャさんに近づいて行く。でも、ミルシャさんはソッポを向いてるから気付かない。取り敢えず、僕は壁際まで逃げる。

「それとも何?あんたはやってもいない事に責められても、受け入れるわけ」

間近でする、ティルの声に気付いてか、ふとティルを向く。でも、時すでに遅しで、ティル魔人の形相を目と鼻の先に見て、まともに蒼白する。・・・南無。ご免なさい。僕にはどうする事もできないです・・・(合掌)。

「ていうか!目ぇ逸らして話してんじゃないわよ⁉」

始まった(汗)。

ご免なさい。この空気に耐えられないから、

・・・逃げます。ダッシュで。

おおぅぅ。外に出ても、ティル魔人の説教攻撃が聞こえるぅ(半泣)。

ふふふふ。蝶々が見えりゅぅ(現実逃避)。あはははぁ。人族がお家を変な目で見てるぅ。吼えてる犬も、お家に近づくとキャンキャン逃げてくぅ。鳥も離れてくぅ。

何時の間にか通り雨が来た。何時の間にかぐっしょり濡れてる。雨が過ぎた頃に、ミルシャさんがげっそりして、ぐっしょりした僕を呼びに来た。

ほんのちょっとの間で、激痩せダイエットに成功だねぇ。

「ご免なさい。逆恨みでした」

土下座で謝る。

・・・ティル。どこまで叱ったんだろぉ。怖くて知りたくないけど。

「うん。気にしないで」

本当に気の毒だから、土下座は止めて欲しぃな。満足気なティルが怖くて、口に出来ないけど。

「それで。貴方様方は、如何な理由でいらっしゃられたのでしょうか」

土下座で顔だけ向けて聞く。

本当にどんな説教したの、ティル(汗)。

「えと、ここら辺から魔物が暴れだしたって聞いて。勇者さんが気になって来たんです」

「多大なる、ご配慮痛み入ります。勇者と称されたサリヤは、私の幼馴染に御座います」

王様にでも話してる口ぶりに、つい涙が溢れる。堪えてるから頬をつたりはしないけど・・・。

うわぁん!胸が痛むよぅ!

「ふふふ。ミルシャ、そんなに畏まらなくていいのよ」

王者の威厳!?

「はい。では、失礼かとは思いますが、そうさせて頂きます」

従者!?何時の間にかティルの横に控えて、ケーキとアイスティーを差し出してるしっ。

「サリヤは村長達の勝手な扱いに嫌気をさし、私にだけ告げて、村を出たのです」

あ。じゃあ、生きてるんだぁ。良かったぁ。

嬉しくてアイスティーを一気に飲み干す。すると、新しく注いでくれる。まるで、メイドさんの如く(汗)。畏まってる。まだ畏まってますから!そんなに、恐怖体験だった?

渇く喉を潤す事も悪い気がして、コップに手も付けられない。

「それじゃぁ、行き先とかは教えてくれたの?」

渇きを我慢して、話に集中する。

「いえ。東に行く。それしか、聞いていません」

東。

「・・・。

ティル」

僕の考えに同意を促すと、頷き返してくれる。

「ミルシャ。東の魔物の話は聞いた事あるかしら」

「ええ、はい」

ティルの目をしっかり見据えて肯定する。そして、ティルの見据え返す目を見て、困惑する。

「え?それって、まさか。サリヤは、嫌気がさしたのではなく、その魔物達を何とかする為に・・・?」

うん。たしか、集落のおばちゃんが同時期って言ってた。

「ねぇ。その、サリヤさんて、本当に勇者なの?何で分かったの?」

「神の選定が、あったのです。彼が生まれた時に」

神。それじゃぁ本物かぁ。今会えないの残念だなぁ。

「そう。ならその、サリヤという人が真の勇者なら、何らかの理由で異変を察知したのかもしれないわね。それこそ、神に導かれて」

「そう、ですか。彼は、勇者の責務を果たす為に、村を出たのですね」

重い物が取れたかの様に、どっと力を落とすミルシャさん。

「ずっと、気に病んでいたのね」

何時の間にか、僕の肩に乗ってるティル。僕にだけ聞こえる様に言う。

「それで彼は、東に行く、とだけ貴女に言ったのね?」

「はい」

肩の力を落としたまま、それでもティルをしっかり見て頷く。

「ん~。じゃぁ、勇者の責務を果たしたら、帰ってくるのかな?」

「理由がそれなら、その可能性が高いわね。良かったわね、恋人、帰ってくるかもね」

ミルシャさんにニヤニヤ笑いかけるティル。それに、赤面するミルシャさん。

「べっ、別に私と彼はそんなんじゃありません!」

「ふふふふふふなら、そういう事にしときましょうか」

意地悪そうなティル。何だか楽しそう。

まぁ、兎にも角にも、勇者は生きてるみたいだし。ミルシャさんは、魔物との関連については知らないみたいだし。取り敢えず、勇者の特徴だけ聞いて、ミルシャさんのお家を後にした。


宿に皆が揃ったのは、夕暮れ時になった。

商店街で馬鹿みたいに高い食べ物じゃなくて、ミルシャさんが持たせてくれた野菜で、簡単に夕食を取る。商店街の商品が高すぎて、携帯食料しか買えなかったってライ君が愚痴った。しかも少量。必要最低限量だけ。

「ったく。ムカつく連中だったぜ」

 野菜スープを啜りながら尚も愚痴り続ける。

 ルック君しかいなかったから、キレるにキレなくて、ストレスだけを溜めて帰って来たんだって。ライ君の自己申告だけど。

 「で、こっちは今話した通りだけど」

 といってもティル魔人の所は端折っての情報だけど。とにかく、ライ君とルック君の情報を聞き出すべく、話を振る。

「そっちは何か掴めた?」

 「ああん?」

 ギンっ!て僕を睨むライ君。

 思わずティルの後ろに下がる僕。ティルちっちゃいから隠れられないけど。

 「そっちみてーな、情報はねーよ。やれ、勇者が逃げたお蔭でどーの。やれあいつは、勇者とは認めん・・・」

 言ってる内に、どんどん声が低くなっていくライ君。

 めきょ。

あ。スプーン折れた(汗)。

「む・・・ムカつく・・・!」

手を震わせて、毒付く。

「ああ。怒りで手が震えてるわ。よっぽど酷かったのね」

僕がライ君に、「風邪なら早く寝なきゃ」って言おうとする前に、ティルが言った。

「おお。酷かったさ!」

僕がティルに、「風邪だよ」って言おうとする前に、ライ君が言った。

・・・。

僕は言うに言えずに、俯いて黙る。

なんか。僕最近会話に入れてない気がする。

ふと、ルック君に気付いて、近寄る。

「ルック君。僕達は僕達でお話しようね」

「食事中は、静かに」

満面の笑みで話すと、真顔で答えてきた。

うぅぅ。ルック君は何時だって静かじゃんかぁ。しくしく。

「で、勇者の特徴も分かったし、行き先も見当がついたし」

しかたなくライ君に話を振ると、ルック君が合わせて東を指した。

うんうん。東に向かってるらしいんだよね。

「どうする?」

「その怒りを勇者にぶつけるのも手よ」

ティルが合わせてライ君ににじり寄る。

けどもの凄く嫌な顔をすると、ソッポを向いた。

「嫌だ。こんなトコさっさと出るに限る」

「分かった。じゃぁ、このまま西に行きましょう」

以外にアッサリと納得するティル。

「ティル。それで良いの?」

「せっかく此処まできたのに戻ってもね。それに漏れなく魔物退治付よ」

元の道を戻って、魔物を退治して行って。

うっ。嫌かも。

延々とした道のりを想像して、嫌気がさす。

「うん。分かった。忘れて先行こう」

ルック君は渋い顔をしたけど、三対一で先に行く事になった。

翌朝、太陽が顔を出したと同時に、僕達は勇者の村を後にした。


・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・そういえば。宿のおじさんに話を聞いてないや。・・・怖かったから、ま、いっか。ティルもライ君も忘れてるみたいだし。似たり寄ったりの話しか聞けないだろうしネ(遠目)。



それから楽しくも波乱万丈な月日は流れた。


「何でこんな事になっているんだ?」

 地に両手をついて、絶望的な顔になっているライ君。

 勇者の村を出てから季節は過ぎ、今は吹く風が温かみを帯び始めた春。

 けど春の芽吹きは、何所にも無い。有るのは荒れ果てた大地。そして魔物の群れ。その奥には男の人が一人。

 「真直ぐ西に進んだ結果よ」

 勝ち誇ってティル。

 「えと。ティル?どういう事?」

 気落ちしているライ君の変わりに聞く。

 「相手は真直ぐ東に進んでいたって事」

 「そうか。星は丸いんだったな・・・」

 ライ君は納得した。

 「えぇと」

 今だ事態が掴めない僕。

 「はい。トニー。此処に一つの球が有ります。その一点から左右に真直ぐ進んで行くと」

 出現させた氷の球を指でなぞっていくと。

 「あ。ぶつかった」

 「つまりそういう事」

 成る程ぉ。ティルは初めからこれを狙ってたんだ。だからあの時、あっさり東行きを止めたのかぁ。

 「お前はいったい何がしたいんだ!?」

 ライ君が切羽詰った顔でティルに詰め寄る。

 「ほら、私達の種族の生き方って、自然との共存でしょ。それを潰す何かの陰謀は、ちょっと。ほっとけなかったのよね~」

 何食わぬ顔で言うティル。

 「なら一人でやれ⁉」

 絶叫するライ君。

 「あら。一人より二人。三人より四人じゃない」

 朗らかに言うティル。

 「それに、ルックも如何にかしたかったみたいだし。ああ、でも」

 言って、何かに気付いて、ぽんと手を叩く。そしてその手をライ君の鼻頭に置く。

 「剣を振るうしか能の無いライは、居ても足手纏いだったわね。邪魔だから帰ってもいいわよ。ていうか帰れば?」

 満面の笑みでティル。

 「うぉぁーっ。それはそれでムカつくっ!」

 ライ君の性格を分かった上での言い様なんだと思うけど・・・。やっぱり、ティルって。

 「鬼魔人(恐)」

 「なぁんですって~?」

 ドスの利いた声でこっちに振り返るティル。

 「ふええ!口に出しちゃったぁ⁉」

 形相まで鬼魔人になってるティルを見て、本気で腰抜けちゃった(泣)。

 「あー。まだ終わらないのか?」

 突然の知らない声に、皆で振り返る。

 見た瞬間見えたのは、たじろく男。目がティルの方を見てたから(実際にはティルはちっちゃくて見えてないと思うけど)、ティルの鬼魔人の波動に当てられたんだと思う。

 でも直ぐに取り直した。

 「あー。私に用事があったのでしょう?」

 その問いには、ルック君が頷いて答える。でも見えてないと思う。

 「そぉだよぉ!」

 代わりに答えると、嫌な顔された。

 「僕嫌われちゃった?」

 ティルに相談してみる。

 「声が大きすぎただけよ」

 「そぉお?」

 「そんなに声を張り上げなくても聞こえます」

 「ほらね」

 「うん」

 心底安心。

 「それで何の用です?」

 「君が魔物を操って暴れまわってるの?」

 聞くと一瞬悲しそうな顔をした様に見えた。でも、直ぐにその顔が残忍な顔に変わる。

 「ええ、仰る通りですよ。それが?」

 そういう悲しい事を肯定した彼。でも、僕達に直ぐに魔物をけしかけずに、僕達の遣り取りを黙って見ていた。

 「なんで、そんな悲しい事するの?」

それがとても不思議に感じた僕は、取り敢えずそう聞いてみた。

「何故?では、逆に訊きますが、何故それが悲しいのです?」

何の感慨も無い顔。抑揚の無い声で聞いてくる。

「君は悲しくないの?

命が・・・一つ一つの心が消えていくのが。

一度消えてしまったら、もう二度とその心に触れられなくなっちゃうんだよ?

・・・『おはよう』も『お休み』も。気遣う事も、気遣われる事も無い。

ケンカすらできなくなっちゃう」

自分で言ってて泣けてきちゃった・・・。

「それの何が悲しいというのです?」

更に聞いてくる。

「・・・君に大切な人はいないの?大切な物、大切な思いは無いの?」

「・・・無い」

一間置いて答えてくる。

「本当に?」

すかさず聞いたのはティル。

「何故そんなものが必要なんです?この魔物共は私の言う事を聞いてくれる。それだけで、他はもう必要ないではありませんか」

相変わらず抑揚の無い声だけど、よく見ると眉根が寄ってる。

「確かに魔物は君の言う事を聞いてる。でもそれだけしかないんだよ?そこにはきっと、心が無いよ。ただ聞いてるだけ。道具と同じ。それじゃぁ、彼らじゃなくても同じ。

でもそこに、心が在ると全然違う。同じ事を聞いても、答えが違う。同じ答えでも考えてる事は、きっと違う。

違う心は、自分に影響を与えてくれる。成長をさせてくれる。

だから心。思い。感情は大切なんだよ」

僕の言葉に、彼は感情を高ぶらせ始めた。

「成長・・・?

感情なんてあっても辛いだけじゃないですか!周りは私の事など道具扱い!なら、私が周りを道具扱いして何が悪いというのですか!?」

えと。

「いじめられっこ。だったのかなぁ」

それとなく、ティルに聞いてみる。

「う~ん。そうかもしれないけど。・・・それだけで、ここまでやる?」

小首を傾げながら、ティルも悩む。

「寧ろ苛められっ子はトニーだ」

ふっ。と何故かカッコつけて言うライ君。

別に苛められたんじゃないもん。エルフの僕が龍術使うのは、掟破りだっただけだもん。

僕が頬をぷぅっと膨らましたところで、彼は鼻息荒くふんぞり返った。

「返す言葉もないでしょう」

「いや。返す言葉も何も。先ず、アンタの置かれた状況が全く持ってサッパリ解らん」

訝って答えたライ君。

「え?だから、苛められっ子で、キレて、暴走?」

ライ君が解らないのが解らなくて、さっき出た結論を言ってみる。

キョトンとしている僕のほっぺを抓って、

「其れは、単なる憶測だ」

と詰寄るライ君。

首を縦に振る以外許してくれなさそう(汗)。

「経緯説明する気は無いかしら?」

ティルが少し近づいて聞く。

「・・・私は・・・成りたくて勇者に成った訳ではない」

怒りと、憎しみと、絶望に満ちた声音で語る。話してくれる気はあるみたいで良かった。

「う~ん。まぁ生まれてくる場所って選べないよねぇ。勇者って言えば人々の憧れ。だから、心無い人に利用されちゃうんだろうねぇ。勇者の村の勇者みたいにぃ」

僕達の生立ちと重ねながら、僕は納得する。

同意を求めようと皆を見ると、何故か硬直している。

別に寒い訳でもないし。魔物が怖い訳じゃないし。う~ん。

「どうしたの?達磨さんが転んだ?」

何時もだったら拳とか、蹴りとか、ハリセンとか飛んでくるのに何も来ない。かと言って僕の言った事が当ってたのかっていうと、そうでもないみたい。何故なら、皆、顔をぎぎぎって音が聞こえそうな面持ちで僕を見るから。達磨さんが転んだは動いちゃ駄目なんだ。鬼もまだ決めてないし。

「ティル?」

小首を傾げる。

「トニー・・・。理解、できなかったの?それとも、何時ものボケ思考?悪いけど、今は突っ込みできる心情じゃないわ」

擦れた声音。

「あいつは・・・」

ライ君が言葉にしようとして、でも、旨く言葉にできないでいる。

「勇者の村」

ルック君がぽつりと言う。

「そう。行ったのですね。私を私で無くした村に」

彼は、凄惨に笑う。

一気に理解が出来たらしい皆は、彼の気迫に後ずさる。

・・・えーと。あのぉ、僕一人寂しいんだけど・・・。つまり?勇者の村が関係あるの?

「~ティルぅ?」

頭が旨く回らない。溜らずティルに助けを求めると、ティルはふらふらしながら僕の鼻先に飛んできた。

「彼が、勇者、の、村の・・・ゆ・・・」

途切れ途切れで何とか言葉にしようとしてるみたいだけど。最後が掠れて良く聞こえない。

「ふ。はははっ!まだ解らない愚か者がいる様ですね」

僕がティルにもう一度聞こうとすると、男の人が低く笑い出した。そして、言う。

「私が、勇者の村の勇者ですよ」

・・・。

 「え・・・?」

 ・・・あ、え?

 「だって、勇者さんは世界を救う人で。悪ぅい魔物を倒しに世界を旅してて?」

 何だろう。どんどん頭がぼっとしてくる。

 がしっ!

 「!」

 ぼっとしてたら、ライ君にいきなり胸座掴まれた。

 「勇者が世界を救うってのは誰が決めた?」

 手を震わせて、顔を伏せて言葉を発する。

 「勇者とは何だ?」

 ライ君の言葉にどんどん力が入ってくる。

 「決めたのはあくまで他人だろう⁉本人じゃない!勇者って括りは人から外されんのか?俺達はどうだった?」

 ここで、僕をギンッ!と睨む。ううん。僕を睨んでる様で、僕を見ていない。かと言って、ここにいる誰かを見てる訳でもないみたい。他の誰か。ううん。他の誰か達。

 「あいつも人間だ!俺達と変わらない!」

 そして、張り叫ぶ。

 「!」

 ああ。そうか。

 「僕達と、一緒なんだね」

 僕達も、色々な事があって、今此処に居る。

 「俺は王族の人間だ。ルックは召喚師一族の人間だ。トニーはエルフ。ティルは妖精」

 その言葉の一つ一つに思いがこもる。

 

 僕はエルフの里で生まれた。ティルと一緒に。その当時、僕はまだ問題が無かったけど、ティルには辛かった。

 本来妖精族は、親から生まれるか、花などの自然と共に生まれる。どちらの場合においても、必ず群れの居る所で生まれる。でも、ティルは僕と一緒に、それも群れの居ない所で生まれた。他の妖精族と違う生まれ方をしたティルは、長い事悩み苦しみ続けた。でも、当時子供だった僕は、兄弟が居るみたいに喜んではしゃいでた。他のエルフ族に疎まれてもいたみたいだけど、概ね、大人は寛大だった。

 僕は、エルフなのに龍術に興味を持った。切っ掛けは確か、里から離れて狩の練習をしてた時、たまたま龍術士が龍術を使う所を目撃したから。それがとても綺麗で、激しくて、力強い生きる意志を感じられた。でも多分、其れだけだったら龍術使おうとは思わなかったかもしれない。その時、一緒に居たティルの一言が無ければ。

 『凄いね。命の息吹を感じる』

 涙を流しながら言ったティルに、僕はティルの為に龍術を使いたいと思った。直にその人に弟子入りした。それが良かったのか、術を覚えるにつれ、ティルは今のティルになった。でも多分、まだ悩んでると思う。

 けど、それはエルフの里に戻った時に大問題になった。エルフは精霊術を基本とする。荒々しさを含む龍術は精霊術とは反し、禁忌とされている事を子供の僕は知らなかった。更に、夢中で気づかなかったけど、里を離れてから数年の時が経っていた。僕が死んだか攫われたかしたと思っていた里は混乱した。

 何度も龍術を使うなと言われて、里の皆から色々言われた。でも、僕はティルの笑顔を作った龍術を決して止めなかった。結果、僕達は里を追い出されちゃったんだけど・・・。

 

 「確かに。周りから抑圧されりゃー、性格もひん曲がっちまうよな・・・。

 俺がそうだったし」

 僕が里を思い出していると、ライ君が静かに語りだした。

 「貴方も?」

 ライ君の話に耳を傾ける勇者。確か名前はサリヤさん。

 「生まれた時から俺は、ホロテウスの第一王位継承者だったからな」

 感情を殺した目になるライ君。

 それを訝るサリヤさん。

 「嘘でしょう?そんな大国の王子がこんな所にいる訳が・・・」

 顎に手を当てて、ライ君を上から下まで嘗めるように見る。

 それには、暗くなってたライ君も目を吊り上げる。

ちょっと離れた方が良いかもしれない。僕は思うや否や、ライ君の視界外にゆっくり移動する。

「あぁ?

そのこんな所で、魔物の群れ引き連れた勇者は何処のどいつさんだ?こら(怒)」

チンピラの強請りみたいに、凄むライ君。正に王子らしからぬ行為だ。

「・・・。それもそうですね。

なら、貴方は私の気持ちが理解出来るのですね」

掠れた笑みを浮かべると、手をライ君に向けて差し出す。

「解るのなら、一緒に来ませんか?

・・・ああ。そういえば名を聞いていませんでしたね。私はサリヤです。サリヤ・グラムス」

おお!先に名乗った。礼儀が出来てる!

「聞かないと分からないのか?大した脳味噌だな」

ふん。と、偉そうにふんぞり返るライ君。いつも僕を馬鹿にする時と同じ顔をする。

「どっちが悪人か分からないわね。ライを見てると」

ティルが呆れ返って呟く。

取り敢えず僕も、出会った時の基本。挨拶をしなきゃネ。今更だけど。

「僕はトニーだよ」

「貴方には聞いていません」

一刀両断の元に冷たく言われちゃった(悲)。

「ちょっとあんた」

僕が沈むのを見てか、サリヤさんの発言を聞いてか、全体にどす黒い(かの様に見える)オーラをかもし出す。

本能で危険を悟った僕とライ君とルック君。全力でティルの遥か後方へと逃げる。

これはあれだ。いつもの説教大魔神(汗)。

「人の挨拶を何だと思ってるのよ?

自己紹介は、心と心が触れ合う第一歩でしょう?相手がせっかく開いてくれた心に対して言うセリフが、それ?

好意に対し、悪意で返すのわねぇ・・・。

勇者だなんだいう以前の問題でしょうが!」

覇気だけで此処にいる者達を吹き飛ばす勢いだ。

ちっちゃい体が、山の様に大きく見えるよ・・・(怯)。

説教大魔神には、時と場所と人柄は関係ないらしい。勇者に説教する妖精。

「いや・・・。ある意味正しいのか」

ライ君が憐れみに満ちた顔をサリヤさんに向ける。

「ん?あぁ、そっか。

勇者って本来、神に認められて妖精や精霊を連れ歩くんだっけ」

ボー然としながら、取り敢えず記憶を呼び起こす。

僕達がそんな事を話していると、サリヤさんが動いた。

「私の事を分からない者が、偉そうに説教などしないで頂きたい‼」

怒号と共に、魔物達を一斉にティルに向かわせる。

そりゃ、説教大魔神は嫌だろうけどね。言葉に対し暴力で解決しようとするのって、自分の非を心の底で分かっていながら受け入れられない人が多いんだよねぇ。

「彼の痛みも分らなくはないから。なるべく話し合う方向性で」

魔物の猛攻からティルを風龍術で助けつつ、皆の意思確認をする。

「トニー。さっきから何かまともに見えると思ったら。キレてんのな」

良くぞキレてくれたとにやりと笑い、親指を立てる。了承の意だ。

ルック君も無言で頷く。

顔を向けたのは一瞬だけで、直に周りに気を向ける。

ライ君は、剣を抜き放ちつつ襲い来る魔物の爪を弾き、返した刃で腕を斬りつける。

ルック君はニック君とイック君を召喚して、ニック君に乗り高々と空へ舞い上がる。

地上に残されたイック君は、襲い来る魔物を突いたり投げ飛ばしたりしている。

ルック君を乗せたニック君は、空の魔物を攪乱しつつ、隙を見ては攻撃する。

僕はというと、龍術師の剣を抜き、口で精霊魔法を唱えつつ、剣で攻撃を交わしながら、ティルの許に駆ける。

「風と火の聖霊よ。我が友を助ける爆風を起こしたまえ!」

唱え終わるが早いか、爆風がティルと魔物の間に起こり、辺りは煙に隠れる。

僕は、ティルに掛けた龍術の気配を頼りにティルの許へ辿り着く。

「馬鹿トニー!私なら大丈夫だったのに無茶して!」

開口一番に怒られた。

「ごめん。でも」

言いながら龍術を解く。

ティルが怒るのも無理はない。

僕が龍術で結界を張らなければ、ティルは精霊に助力を乞えたのだ。でも、僕がティルの正確な位置を知るためには、龍の気配が必要だった。結果、龍の気配を正確に感じ取る為に龍術は使えない。だから、慣れない剣と詠唱に時間の掛かる精霊魔法を使う事になった。慣れない事には無理が生じる。でもどんなに言ったって、

「傍にいて大丈夫なのを見ていないと、不安で目の前の事に集中できないよ」

ティルをそっと手の中に抱く。

「もう。ほんとに馬鹿なんだから。私の兄妹わ」

言って、僕の頬に優しくキスをくれる。

「うん」

笑って、一先ずこの場を離れる。

魔物の攻撃を避けながら、ライ君と合流する。

「ティル。テメー覚えてろよ。お前のお陰で大変だ」

魔物の猛攻を避けたり弾いたりしながら睨むライ君。そこには既に戦闘不能に陥った魔物が無数倒れていて、ライ君は不安定な足場の中苦戦を強いられていた。

「あら、この状況なら私が動かなくてもいずれこうなってたわよ」

僕の頭の上で、ライ君の非難を真っ向から受けて立つ。二人の間に火花が散ったのを僕は見て、僕は取り敢えず宥める。

「まあまあ。いつもの口喧嘩は後にしようよ。こんな状況だし」

苦笑いをしつつ、後ろから来た魔物を斬る。けど、上手く刃が通らず、僕はバランスを崩す。それを魔物が見逃すはずがなく、襲い来る。そこへ、ティルが風の聖霊魔法で魔物を吹き飛ばす。

ティルに礼を言いつつ、バランスを戻し、剣を見る。

やっぱりライ君みたいに上手く使えないなぁ。

一人愚痴っていると、左右から魔物が来る。更にさっきティルが吹き飛ばした魔物も再び襲い来る。

「電龍激波!」

空中に【電】と書いて術を発動させる。

僕を発信源にして、前方180度数メートルに電流が走る。勿論、左右前方の魔物はまともに当たり、痙攣しながら倒れる。

けど、数が多い。というか多すぎる。キリが無いというより、僕達がやってる事って無謀以外の何物でもないよなぁ。

一気に片付けた方が良さそうかな。やりたくないけど、このままじゃ僕の大切な仲間が・・・。

覚悟を決めてライ君の直ぐ脇に行く。

見るとライ君の剣は既にボロボロだった。前回みたいにバキンって折れてないのは、ライ君が気をつけて使っているからだと思うんだけど。それじゃぁ全力を出せないし、どのみち何時かは剣も使い物にならなくなっちゃう。やっぱり僕の剣を貸した方がいいみたい。

「ライ君。この剣使ってて。僕じゃ上手く使えないから。それとおっきいの行くよ」

僕から剣を受け取ったライ君は、聞くが早いか僕と背中合わせに立つ。それを見たルック君はイック君を送還して、ニック君と共に更に高く飛び上る。

精神を一気に高め、空中に【炎】という文字を書く。

「炎龍爆獄衝!」

高々と言い放つと同時に、

ごおおぉおおぉおぉおおぉぉ‼

と、轟音と共に僕達を中心に地獄の業火が噴き上がる。

ひとしきり音が響いた後には、僕達人以外は忽然と消えていた。

といっても、キレてる僕が最高に精神を高めたから、多分どこか遠くに飛ばされただけだと思うけど。まぁ、一応大龍術だから瀕死の重傷は負ってると思う(汗)。

「ほんと。キレてるトニーは敵にしたくねぇよな・・・」

「僕がライ君の敵に回ること、無いと思うけど」

へたり込んだ僕は、ライ君を見上げながら言い切る。

するとライ君は、見る見るうちに真っ赤になる。熟れたトマトの様だ。

「ライ君・・・。熱?」

心配して言うと。

「風邪じゃねぇよ!」

と、顔面を蹴りつぶされた(泣)。

「あらあら。大技使ったから、元の性格に戻っちゃったわね」

ティルが僕の頭上に寝そべりながら、僕の額をぺしぺし叩く。

「う~ん。疲れたけど、すっきりしたから」

でへへと照れ笑いをすると、怒りマークをはっきり見せたライ君が、僕を踏み倒す。

ひどい・・・(悲)。

「お前わぁ~。事が片付いてから戻れよ!」

更に足をグリグリさせる。

「そんな事言われったってーっ!ひーん。ティルぅぅ」

いつの間にか僕から離れて飛んでるティルに助けを求める。

「はいはい。事が片付いてからゆっくりね」

ライ君の鼻をぺしぺし叩きながら宥めてくれる。

「・・・勇者」

「お。でかしたルックにニック」

空から一部始終を見ていたルック君。どうやら、無防備になったサリヤさんを捕まえてくれたようだ。

「お・おああぁ・・」

ニック君に鉤爪でしっかり捕まれてるサリヤさん。顔を変な形にして、同じ事を繰り返す。

お?

「・・・お腹痛いの?」

ライ君に踏みつぶされながら、様子を伺う。

「違うから。ていうか、ライもいい加減足退けなさいよ」

ティルが半眼で言う。

「貴方っ!え、エえエ、エルフの癖に龍術を使うのですかっ!」

指をプルプルさせながら僕に向ける。

ライ君の魔の手・・・じゃなくて魔の足から抜け出した僕は、土を払いながら立ち上がりキョトンとする。

「そ、それもっ。こんな強烈無慈悲な!」

顔がどんどん青くなる。

「風邪ひいたの?」

サリヤさんに近づいて聞くと、サリヤさんは「ひぃぃ」と悲鳴を上げてジタバタもがく。

それを見たティルが大きな溜息を吐く。サリヤさんに近づくと、ハリセンを出して思いきり叩く。

「ちっちゃいと平手打ちが効果無いからなぁ」

ふっと笑いながらぼそりと呟くライ君。

どうか、今の言葉がティルに聞こえていません様に(合唱)。

「何を怯えてるのよ。貴方だって凶悪無慈悲なマネしてくれたじゃない。ねぇ?勇者様」

うっ。と息を詰まらせるサリヤさん。

風邪じゃないのか。ちょっと安心。

「勇者の癖に魔物を使い人々を襲い。

勇者の癖に精霊や妖精が傍にいない。

仕方ないわよね。あれだけの事をしたんだもの。勇者の力は魔に染まってしまっている」

ティルは妖精だからそういうのが分かるのかな?

口を挟みづらくて、取り敢えず思うだけにする。

「トニーはね。確かにエルフだけど龍術師よ。だから里を追われた。でも貴方みたいに拗ねた力の使い方してないわよ」

きっぱりと厳しく言いつける。

な、何かティルに言われると照れるな。

妙に気持ちが落ち着かなくて、頬を掻きながら視線を泳がせる。

「ライだって。王子として生まれて、抑圧されて育ったけど。捻くれた性格にはなったけど、貴方みたいに自暴自棄になったりしてないわよ」

はっきりと断言する。

「おいこら・・・。

それは、褒めてんのか、貶してんのか」

口を引きつらして、抗議する。

僕は褒めてるんだと思うけど・・・。

「貴方いい歳こいて甘ったれもいい所よ。

待ってくれてる人がいるのに、知らないところで駄々こねてんじゃないわよ!」

言いたい事を言って、フンと鼻を鳴らして僕の頭上に腰を落ち着ける。

えーと。

今にも噛み付いてきそうなティルを目線を上げて見ようとしてみる。勿論頭のてっぺんは、鏡でもないと見れないけど。

それから目線をサリヤさんに戻す。

呆けている彼をどうしたものかと、目線を上げてルック君を見る。

目が合うなり首を傾げ、ライ君を見る。

つられて僕も見る。

僕達の視線を受けたライ君は、ふむ。と顎に手を当て考える。

「先ずは、こいつの国の城にでも行って取調・・・と、いきたいとこだが」

サリヤさんを見て、地平線の彼方を見る。

「非常に面倒だ。取り敢えず、お前に任せるぞ。トニー」

と、僕を見る。

・・・て。

「ええぇ⁉僕にどうしろと⁉」

「ちょ、ちょっと。わたわたしないでよっ」

落ちる寸前で飛んで避難するティル。

「ごめん」

はっとなって、気を落ち着かせる。

えーと。

「あのね」

サリヤさんの目線と合わせて、少しゆっくり話してみる。

「僕、自分の気持ちを大事にする事は良いことだと思うよ。

でもね、自分の気持ちを作った人達に何も言わないで、知らない所で叫んでも大事にしてるって言わないと思う。

たぶん、それって逃げてるんじゃないかな?」

言いたい事を手で表したくて、しきりに動かしてるけど、上手く形に出来ない。

困って、ライ君達を見るけど黙って見てるだけしかしてくれない(汗)。

「言いたい事は言わなくちゃ、伝わらないよ。言うだけ言って、それでも分かってもらえなかったら。嫌な事が終わらない様なら、外を見てみようよ」

サリヤさんが口をもごもごさせて、でも言わずに俯く。

「道は目の前いっぱいに広がってるよ」

俯いた頬を両手で覆い、上を向かせる。

再び合った目に、微笑みかける。

「その道にはいろんな人が歩いてる。

歩いている人達にいっぱい言いたい事言ってみようよ。聞かない人もいる。笑う人もいる。怒る人もいる。でも、欲しい言葉をくれる人も居るよ。でも口を噤んでいたら絶対に会えない。心を閉ざしたら、欲しい言葉は入ってこないよ」

腕をサリヤさんに差し出す様に広げる。

それから、口を閉じてサリヤさんの目をじっと見つめる。サリヤさんから口を開いてくれるのをじっと待つ。

とにかく待つ。

ひたすら待つ。

・・・。

いい加減腕が疲れてきた・・・。

「・・・私は・・・」

聞こえるか聞こえないかの掠れ声が、耳を伝う。

僕達は、ただ静かに次の言葉を待つ。

「ただ、普通に生きたかったんです」

俯いたまま、それだけを言う。

俯いた顔からは、水が滴り落ちている。

・・・よだ

「それ以上は考えないでね。せっかくの良いシーンが台無しになるから」

考えの途中で、ティルが僕の頭をポンと叩きつつ言う。

「馬鹿か。生きたきゃ生きりゃいいじゃねぇか」

ティルが僕に気が行ってる間に、ライ君がさらりと言ってのける。

「ティル。あれはいいの?」

こっそりとライ君を指さして、僕の頭の上でプルプルしてるティルに訊く。

「良い訳無いでしょう!」

あっという間にライ君の所に飛んで、ハリセンで叩く。

おぉ。ハリセン攻撃が僕以外の所に(感動)。

「せっかくのシーン!もっと言い方ってもんがあるでしょう!」

「あぁ?俺にんなもん求めんな!」

ひ、火花が・・・(汗)。何だろう・・・雷撃が走ってる様に見える・・・。こういうのは良いのかなぁ・・・?

後ずさりつつ、白熱する空気を見守る。

ルック君とサリヤさんを掴んだままのニック君が一緒に下がる。

「ええっと。ごめんね。あれ、落ち着くまでちょっと待っててね」

口をパカッと開けたサリヤさんにそっと耳打ちする。

すると、ぎぎぎっていいそうな感じで、僕を見る。

「貴方達。可笑しい、とか。変ってる、とか。言われませんか?」

目に水を溜めたまま、眉根を寄せて聞いてくる。

僕はキョトンとして上を向いたり、下を向いたり腕を組んだりして、過去を振り返る。

「ん~。言われたような、言われないような?」

首を傾げて答える。

それを聞いてサリヤさんは、しばらく動きを止めた後、「ふっ」と横目で笑う。

「なら、私が言って差し上げます。貴方達は普通じゃない。私が出会った中で、一番可笑しな人達ですよ」

眉根を寄せて。でもとても楽しそうに笑う。

それにつられて僕も笑う。

僕が笑うと。本格的に笑いだす。

するとニック君までが「きゅいー!」と楽しそうに鳴いて、ルック君が笑みを作る。

『そこー!こっちそっちのけで何笑ってるー!』

喧嘩してたはずの二人が息ぴったりに怒鳴ってきた。

「仲直りしたんだね」

笑ったまま二人に近づくと、二人は互いを見合わせてコクリと頷く。そして僕を睨む。

・・・って、何で睨むの~?そ、それに二人が手に持ってるのって・・・ハリセン?

「取り敢えず休戦だ!」

「取り敢えず休戦よ!」

これまた息ぴったりに言って、僕を叩く。

うぇ~ん(泣)。僕何かした~?

叩かれた頭を押さえつつ蹲る。

「ふぅ。なんかすっきりしちゃったわ」

「だな」

言って談笑を始める二人を余所に、僕はちょっといじけ始める。

「本当に、変な人達です。

何だかいじけていたのが莫迦らしくなっちゃいました」

ニック君から解放されたサリヤさんが、衣服を正して言う。

「そのいじけで死んだ奴らは嫌な迷惑だな」

大した感慨も見せずにさらりとライ君。

「そうですね。取り敢えず、道程に残して行った魔物達を返さないといけませんね」

「あー。まぁ。そっちは片付いてんじゃねーか?」

腕を組んでサリヤさんが来た方を見やるライ君。

「まぁ。暴れるものをほっとく様な人ってライ位だものね」

うんうんと頷き、じろりとライ君に横目で見られるティル。

「ん」

ティルの後に続いて、ルック君が頷く。これに、ライ君はぬぅと言葉を無くす。心なしか冷や汗を掻いて参った顔をしてる。

「人間っていざとなると割と逞しいよね」

いじけから立ち直って、ライ君をじっと見る。取り敢えずここにいる普通の人間だから。

「そう・・・ですか」

自分の胸を握りしめて、黙する。

そして顔を上げたサリヤさんは覚悟の目をしていた。

「死んでも償いにはならないのでしょうね」

「何言ってんだ。当り前じゃねーか」

「そうね。死って、確かに残された者にはちょっと慰めになるけど」

「死んだ者は、それだけ。後は、何も無い。苦しみ。悩み。色々」

珍しくしゃべるルック君に感動しながらも、僕も自分の考えをまとめる。

「死って、償うものには一番簡単だよね。死ぬ瞬間の苦しみだけで終わるんだから。自殺を考える人となんだかあまり変わらない気がするなぁ。生きる事の苦痛から逃げてる感じ。罪を犯して、それを苦に思ってる者には、普通に生きる人より苦しいもんね」

もっとも、人間の考える罪と僕達の考える罪って違うから、どういう苦しいかは分かんない様な、分かる様な?

う~ん。正義って個人個人が持ってる物だからな~。

「間違いってさ。やってみないと分かり難い物だよね。でさ、その間違いが大きいか小さいかは、周りからどういう影響を受けたかによって違うと思う」

「間違いに気付いたなら、苦労してでも正さないとね。それが成長ってものよ」

サリヤさんの鼻頭をぽんぽん叩きながら、僕の後に続くティル。

「たまに、何度言っても成長しない馬鹿がいるがな」

ふっと笑って僕を見るライ君。

成長しないって、誰だろう?そして何で僕を見るんだろう。諦めの混ざった眼で・・・。

「そうですね。間違いを正すまでは死ねないですね」

元来た道を見つめ拳を握り締める。


そして僕達とサリヤさんは別々の道を歩みだす。


「実際。そう簡単に改心したと思うか?」

緑豊かな森の馬車道。手を頭の後ろで組んだライ君が聞いてきた。

「さあ?でも、別の視点で物を見る機会は出来たんじゃないかなぁ」

顎に手を当て考えながら答える。

まぁ、何事も経験だし。

「彼は勇者なのよ。何だかんだ言ってもね」

腰に手を当てて、「はふっ」っと息を吐きつつティルが言う。

「純心が故に、人の持つ悪意にまともに当てられたのね」

ティルの言葉に僕とライ君は思い思いに俯く。

「勇者、は、悪心を正す者」

ルック君が最後尾で付いて来ながら言う。

「そっか。今回はその悪が、魔族じゃなくて人だったって事だね」

何だか感慨深いなぁ。

「ま。要は勇者の村の奴が原因つー訳だな」

怖い顔で言うライ君。

妙な殺気に当てられて、何だか汗が物凄い勢いで出てくるよう(怖)。

「ティル。暫く勇者の村避けよう」

小声でティルに耳打ちする。

「私としては言いたい事が山ほどあるんだけど」

半眼で笑みを作るティル。

説教魔人出現秒読み態勢⁉

僕がオロオロしていると、ライ君を見て溜息を吐く。

「ま。今のライを連れてくのも危険だしね」

苦笑いをしながら、僕の額をポンポンと叩く。

よ、良かったぁ。

「と、言う訳で」

ルック君と目を合わせて頷くティル。ルック君も軽く頷く。

何だろう?

首を傾げる僕を余所に、ティルはビシッと前を指す。

「次の行き先はホロテウスに決定~♪」

「なにいぃぃぃぃぃ⁉」

ライ君の絶叫が木霊した。

「わぁ!行きたぁ~い❤」

だって、まだ行った事無いんだもん!

ライ君の故郷かぁ。どんなとこかなぁ?

「だあぁぁー!却下だっ」

僕の思いを余所に、ライ君が全力で否定する。

「ライ。あんた仮にも王族を名乗るなら、一度位帰りなさいよ」

「う、ぐぅ・・・」

「そうだよ~。帰る場所がない僕達と違って、追い出された訳じゃないでしょ」

僕はもう、行く気満々満面の笑顔で後押しする。

「きちんと向き合うべし」

ルック君がじっとライ君の目を見た所で、ライ君が折れた。

「だぁー!わぁったよっ。

まっ。あいつにも偉そうに言っちまったからな。俺もぶちかましてやるか!」

開き直って踏ん反り返るライ君。

それを見た僕達の楽しい笑い声が、暫くの間森に響いた。


そして僕達は何時もの様にのったりのったり歩んで行く。

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