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旅への手順  作者: 蒼穹月
20/22

-16-

テントを張ってもうすぐ一週間。そんな時に二人が来た。

「もう良いの?」

駆け寄って聞くと頷いたから、取り敢えずテントの中に通した。

外は今、雨が降ってる。濡れた体を拭くのにタオルを貸してあげると、お礼を言って受け取った。

「街はどんな感じ?」

この一週間。街の事ばかり話していたライ君が、今は黙って外を見てる。気になってはいると思って、僕が代わりに聞く。

「魔物の逆鱗に触れて街が壊滅した。そういう事で説得した結果、もう魔物に構わないという事になりました」

あれだけ怖い思いしたもんね。しみじみと頷いちゃう。

「それから街の復興の為に、領主が動きました。初めは皆さん文句を言っていましたが、人を動かすのが上手く、特に自分自身が動く事によって、次第に一丸となって動く様になりました」

まだぎこちないですが。と付け加えたリアさん。事態が収束して、心底ホッとしている。

「ふ~ん。ちゃんと謝った?領主さん」

「ええ。それは盛大に」

その様子を思い出したのか、くすくす笑い出す。そんなに面白かったのか。

「じゃぁもう安心だね?」

「ええ」

久し振りにほのぼのとした空気が流れる。

「うし。じゃー行くぞ」

それがライ君の一言で崩れる。

「もう?雨は?」

「止んでない。つーかこれ暫く降るから」

「何で分かるの?」

「ここはこの時期、長期に渡って大量の雨が降る。行くなら弱まっている今だ」

憮然として言うライ君。

「そんな風の動きしてないけど・・・」

空気と雲と風の動きを見ると、明日には晴れそうだけどなぁ。

「ち。エルフには通用しないか」

心底残念そうに言うライ君。

「そんなに此処に居たくないの?」

眉を顰めて聞くと、ライ君が苦虫を潰した様な顔をした。

「当たり前だ。あんな変顔の土地にこれ以上用は無いんだよ」

「素直じゃないわね。街の復興についてあれこれ言ってた癖に」

ティルがジト目で言った。

「!」

ライ君が赤面した。そりゃもう見事に真っ赤っ赤。

「うるせー!豆粒チビ!」

「んなっ。妖精なんだから小さくて当然でしょう!」

「様はチビだろーが!」

「屁理屈じゃない!」

二人が言い合いを初めたから、僕達は端によってお茶にした。

「子供の喧嘩ですね」

リアさんがお茶を啜り、遠目で二人を見守りつつ言う。

「うん。二人とも突っ込みだから」

「貴方というボケ役がいて初めて均衡が取れるのね」

納得された。でも僕ボケて無いよぉ。ちょっと不満顔。

「子供の喧嘩とはあまり関係無いだろ」

アークさんがやっぱり遠目で言う。時折ティルを応援してる。

「取り敢えず明日は出発だから、今の内に調子を整えようね」


次の日は快晴。朝食を食べてから、デイノールへ帰った。

「何か。平和だな~」

家路を行きながら、しみじみと言うアークさん。リアさんが横で微笑んでる。

「とか言ってる間に家か~」

気落ちして言う。

玄関を開けると待ちかねていた様に、カベックさんが出てきた。

「おお!帰ったか。やはり詰まらんかったろう!」

第一声がそれですか。無事を喜ぶ位しても。

「いーや!充実してたね!」

「にゃにおぉう?」

手に魔力を込め始めた所で、ライ君の剣が閃いた。

「魔法は止めろ」

「ふ、ふん!いいじゃろう」

負けじと言うカベックさんだが、膝は笑ってる。

「充実して様がしてまいが、条件がクリアーできてなけりゃいかんぞ」

どっしり構えて、父親の威厳を醸し出す。でも膝は笑いっぱなし。

「はっは~ん!残念でした。クリアーできたんだよっ。クソ親父!」

親子喧嘩かぁ。僕も昔はよくしたなぁ。

流石に、今の二人の様な取っ組み合いはしなかったけど・・・。

「嘘を吐け!お前に何が出来たというんだ!」

取っ組み合いで涌く埃が凄いから、ちょっと離れて様子を見る事にした。

「色々だよ!なぁ!」

僕達に話を振る。

「トニーに突っ込む代役?」

とは、ライ君。

「ライのストレス発散用サンドバック?」

とは、ティル。

「ティル魔人の生贄!」

とは、僕。

「や・・・役に立ってた用だな」

後ずさって冷汗を掻くカベックさん。

「条件。関係無い」

とは、ルック君。

うわぁ!ルック君が喋るなんて珍しい!

「そ、そうだ!条件と関係ない!」

「つーかそんな役立ち方したくねーよ!」

アークさんが思いっきり叫んだ。

「えと。私とのコンビプレーで沢山捕らえたわ(人を)!」

リアさんが割って入った。

「何?こいつにそんな頭脳プレーが出来たのか!」

心底驚いてる。アークさんて誰が見てもへっぽこなんだぁ。ちょっと同情。

「出来たんだよ!しかも街に魔物は居なくなった!」

偉そうに言うけど、それって僕達の働き。

結局僕達が一番働いてたよなぁ。

「ぬ、ぬぅぅ。いやしかし」

カベックさん圧され気味。全く、負けず嫌いはアークさんと一緒。

「兎に角!条件はクリアーしたんだ。旅に出るぜ!」

「あー!そうかいそうかい。解ったよ!出て行け出て行け!二度と戻ってくるな!」

「おー!その積もりだ!クソ親父!」

罵倒を吐きながらずかずか部屋に行き、荷物を持って戻ってきた。

「二度と戻るか!」

と、勢い良く外に出て振り返らずに進んで行く。それを見送るカベックさんの顔を、アークさんだけが見ていない。リアさんは荷物を持ってくると、カベックさんに「行って来ます」と言って、アークさんを追った。

「カベックさんも素直じゃないね。ライ君位に」

「俺様をこんな親父と一緒にするな」

痛いから。こめかみグリグリしないで欲しぃよぉ。しくしく(泣)。

「煩い。お前らもさっさと行け」

声に張りが無い。

「行くともさ。依頼料貰ったらな」

どんな状況でもライ君はがめつい。

依頼料を貰って(奪って?)アークさんの所へ向かう。

二人は町の入口に居た。

「ほら。金だ」

アークさんが嫌そうに、僕にお金を渡した。意地でもライ君には渡さない様だ。

「有難う御座いました」

「んーん。言ったでしょ。序でだったって」

「ええ、それでも。言いたかったのです」

「もう行くの?」

「ええ。・・・あの」

「何?」

口篭るリアさんの先を促す。横では例の如く、ライ君とアークさんがいがみ合ってる。

「旅の先輩に、旅に必要な事を教えて頂きたくて」

「自分を見失わない事。

自分以外を知る努力をする事。

世界を知る事。

一番大事なのは命を失わない事」

「そうですか。有難う御座います」

お辞儀をして。アークさんにも無理矢理させて、二人はデイノールの町を後にした。

「さてっと。んじゃ、俺達も行くか」

「うん。そだね」

「やっと。何時もの旅に戻れるのね」

「・・・」

ルック君も嬉しそうだ。

アークさんとリアさんの旅は、今此処から始まった。

そして僕達は、僕達の旅に戻る。

あの二人は、きっと家に顔を出せる時が来るだろう。僕達もいつかは帰れると良いな。

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