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次の日の朝。宿の食堂で早めの朝食を取っている時。
「船が出ていないなんて・・・。
まさか父さん、知っていて無理難題を?」
目の下に隈を作ったアークさんが言った。
昨日の喧騒とこれからの事を考えてたら眠れなくなったんだって。僕達は戦争中の真っ直中でも自分達に害がなければ眠れるんだけど、修行が足りないなぁ。
「ったりまえ。テメェーの価値観、ガキに押し付けるようなクソジジィだぜ?」
ライ君、相変わらずキッパリ言うなぁ。
まぁ。でもだからこそ今さらな依頼料の交渉させて貰えたんだろから、クソジジィはやめてあげたいかも。
「そんな・・・。では、どうすれば良いのでしょうか?」
同じ理由で隈があるリアさん。綺麗な顔なのに勿体無いよ。
「さ・あ・な」
ニヤッと意味ありげに笑うライ君。
おいしそうな御飯見つけたのかなぁ。と、言いたい所だけど。・・・あの顔。なんか、もの凄く嫌な予感が・・・する。
「相変わらず性格悪いわね。方法、あるんでしょ?コーリヴァに行く」
それを聞いて、アークさんがガタッと勢いよく席を立った。
「あるんですか!?行く方法!」
「あるけど、教えてやる条件。今日一日俺の下僕になること」
ニマッと言うライ君。それに顔を引き攣らせる二人。
「げ、下僕・・・ですか」
「無理にとは言わねぇけどな。お前らは困んだろぉ?」
ふっ、不良!ライ君が不良に見えるよ!
「トニー、ライは元から不良じみてる」
ティルがボソッと耳打ちしてきた。
「~っ!わかりました。ケド!今日一日だけですよ!」
「うっし!腹括ったな」
ライ君何だかんだ言って楽しそう。
「ところで」
「トニー?どうしたの?珍しく真面目な顔して」
僕の真面目さに、皆にも緊張が走る。
「下僕って何だっけ?」
・・・。
・・・・・・。
「さて、行くか」
「そうね、行きましょう」
「・・・」
三人は、二人を連れて出て行った。
「って。ねぇ!なんだっけぇ!」
僕は慌てて追いかける。
僕の質問聞こえ無かったのかな~?
「ねぇ!ねえってば!」
「取り敢えず港まで行くぞ」
「ねぇっ、ライ君ってば!」
あうぅ。目から水出てきたぁ。
「あー。何か分かった気がするわ。あんたの意図が」
「うわーん(泣)。ティルまで耳が遠くなったのぉ?」
水が止まんないよぉ。
「・・・」
「ルック君、下僕って何ぃ?」
「・・・」
「答えてよぅー」
でもルック君は僕を見るだけ。
「ルックは、喋るようなキャラじゃ無いでしょ」
「!ひぃん(泣)、ティルぅ。教えてよぉ」
水でティルが見づらいよぅ。
「自分で調べなさい!」
「人に聞くのも、調べるうちだもん!」
「そんなに知りたきゃ、こいつら見てりゃわかんだろ。『百聞は一見にしかず』つーだろ」
「うん!」
ライ君優しー。やっと水止まった!
「うもぅ。そんなにぐしゃぐしゃに泣く事じゃないでしょう?ほら、濡れた顔拭きなさいよ」
ティル優しぃ。ハンカチくれた!
「で?港に着いたわよ」
「ああ、それじゃー・・・」
ええ!?いつの間に!
「いつの間に、どうやって!?」
『話している内に。歩いて』
うわ!気付かなかった!
「普通気付くけどな」
ライ君優しくないぃ。
「そんで、だ。まず、アークとリアはルックの召喚獣、ニックに乗って海を渡る」
ルック君が頷き、二人は滅びた筈の召喚士という事にビックリ、感動する。そしてべたべた触る。いつもの事にルック君も動じない。
「私は元から飛んでるし」
ティルが僕とライ君を見る。
「ああ。トニーは飛空系の龍術もしくは魔法で飛んで行き、俺はトニーに摑まって行く」
そうだよね。ニック君もそんなに大きくないもんねぇ。海渡るなら、負担は少ない方が良いし。ライ君は僕が連れてくしか無くなるもんなぁ。
・・・僕が・・・ライ君を?
「どうえええ!?嫌だ!龍術も魔法も楽じゃないもん!それなりに疲れるんだよ!?海渡るなんて嫌だ!」
当然の主張だよ!
「依頼に賛成したのはお前だ」
しくしく(泣)。ライ君冷たい。
「ニックはもう飛んだぞ。後はお前だ」
み、皆の視線が僕に・・・(汗)。
僕は已を得ず空中に【翔】という字を書いた。
「翔龍壁」
僕の体はライ君を連れて浮き上がった。
「ぢゃ、早く行こう。ライ君重いから」
「トニー。後でぶちのめす」
僕は冷や汗を掻きながら、ソシリアに向かった。