伝説の狩人
昨日寝たのは朝方だった、自分で立ち上げたHPに大量のアクセスがあり返信対応をしていた為だ。
ピンポーン……ピンポーン……
「うぅ。もう少し寝かせてくれ……ッ!ロ、ロビンフットか!?」
意識がボヤけていたが俺はベッドから飛び起きる。昨日速達で頼んだ例の物が頭に浮かんだのだ、壁に衝突しながらもどうにか受け取る事に成功する。宅配のお兄さんはかなり引いていたがかまわないだろう。
「きたよ!きたよ!俺のロビンフット!」
寝起きで意味がわからない事を叫びながら、中身を開封していくと俺のテンションは更に上がっていた。思いのほかデカイが素晴らしくカッコイイではないか。
「おぉぉっ!最高じゃないかっ!」
俺は待ちきれずにコンパウンドボウを組み立てていく。ブラックカラーがシブくてとにかく素晴らしい。少し時間がかかったがなんとかコンパウンドボウを組み立て終えた俺は、購入した全てのプロテクターを装着してみる。
「ヤバッ……めっちゃ狩人じゃないか!絶対強いやん俺……」
見栄えだけの感想を鏡の中の自分を見ながら述べてしまった。モンスターやダンジョンの存在を知らない人から見れば俺はただの不審者だろう。問題は実際に矢を放てるかどうかと、実際に引けたとしても実戦で使用できるかだ。まずはネットで見た練習から試してみる事にする。
「フゥゥ〜、やってみるか……」
初心者の練習は素引き(すびき)と呼ばれるものからするらしく、練習用の軽い弓で矢もまだつがえずただ引く格好を繰り返し、基本の引き方を練習するらしい。俺は練習用の弓は持っていないので、そのままこのコンパウンドボウを使用する。
ゆっくりと75ポンド(約35Kgの重さ相当)ストリングを3本の指で引いていく。レベルアップのおかげだろうか、引き始めはある程度の力を必要としたがコンパウンドボウの特徴であるホイール・カム (リムの両端に取り付けられる偏心滑車)によって、後半はほとんど力を入れずに引く力を激減してくれた事により簡単に成功してしまった。
一般の成人男性ならかなり筋トレや練習をしなければ、最大限までストリング(弦)を引き切るのは難しいと言われているぐらいだった。
「これなら何度でも疲れる事なく矢を放つ事ができそうだな」
俺は何度か素引きを繰り返し感覚を確かめていく。正直100ポンドぐらいでも問題なさそうだと感じてしまう。次は実際に矢を使って試し打ちを始める事にした。裏庭へと移動した俺は和室から畳3枚程を引ッぺがし持って来ていた。ちゃんと後で畳を張り替えるつもりです。3枚の畳を重ねて庭に生えている木へと立て掛ける。
とりあえず今はこれで十分だろう。立て掛けている畳へとダンボールで切り抜いて作った歪な人形を貼り付けて距離をとっていく。まずは50mぐらいから始めるとしようかな……
通常は1mや3mぐらいの距離で矢を放つらしいが、あまりのんびりと練習しているわけにはいかない。まず一度感覚を掴んでみたいので俺は矢をコンパウンドボウへと設置した、ゆっくりとストリングを引き切ると狙いを定めて綺麗なフォームで矢を放っていくと弓特有の風切り音が響き、そのまま綺麗に人形の頭部部分へと吸い込まれていく。
「あれ……なんか上手くいったみたいなんだけど……はは……」
俺が放った矢は歪な人形の眉間部分をしっかりと射抜いていたのだ。ビギナーズラックかもしれないと続け様にもう一度矢を放つ。
「……ふむ、なんかこう上手くいくと怖いよね」
この際一気に90mもの距離をとった俺は、再びストリングを引き切り感覚で射角を調整していく。狙いを定めるとそのまま一気に矢を放つ。矢は再び風切り音を響かせ歪な人形へと吸い込まれていく。頭部を狙ったはずの矢は人形の眉間からハズレて耳の辺りへと少しずれて刺さっていた。
「あぁ、ダメだったか……まあ、一応当たったようだしそんなに上手くいくわけないよな!」
俺は気がついていなかった、矢についている羽根の意味を。今放った矢は羽根の部分が欠損していたのだ、羽根は直進性を持たせる効果があり命中力を高めてくれる。羽根が欠けていた場合狙い通りには飛ばずに、起動がブレて変わってしまうのだ。その効果は……
「おぉぉっ、今度は命中したぞ!次も当たるかな……おぉぉっ!ならこれは……おぉぉっ!それじゃあ振り向き様に……おぉぉっ!ジャンプして……おぉぉっ!」
…………
……
検証結果
「俺の命中率は98%だ!!」
50本の矢を繰り返し使い合計100回もの(2回羽根欠損矢を使用)矢を放っていた。100回中2回は的を僅かにズレた程度だったが、ハズレはハズレだろう。どうやら実戦でもコンパウンドボウは十分使う事ができると確かな手応えを感じている。この感じなら100m圏内で確実にヘッドショットを決める事ができそうだった。
「コンパウンドボウなんて素晴らしいんだ……」
後に俺の射撃は幾度と無く人々の窮地を救う事になるのだがまだ先の話となる。
射撃の検証を終えた俺は室内に戻ると、自分で立ち上げたHPの続きを見ていた。新たに届いているメッセージを次々と開き目を通していく。その中の1つのメッセージで指が止まった。
「お、返事きたよ……オバケを見たってのは本当みたいだな」
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蓮志さん返信ありがとうございます!
和歌山県在住の学生です(^^)
私は、尾崎 美琴と言います。これから宜しくお願い致します!
やっぱりあの写真じゃわかりませんよね……
でも蓮志さんが直接来てオバケを一緒に探して頂けるのなら、とても心強いです。1人で行くの心細かったのは秘密です……
平日は学校が終わればいつでも時間は大丈夫です!
土曜日、日曜日、祝日なら、言って頂ければ予定を入れずに待機していまーす(╹◡╹)
場所は説明が難しいので、和歌山駅に私が迎えに行くと言う事で大丈夫でしょうか?ヾ(๑╹◡╹)ノ"
連絡お待ちしております!
あ、私のJINE IDも言っておきますねヾ(╹◡╹๑)
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メッセージを読み終えた俺は彼女へと連絡を取る為に、緑の画面を携帯で立ち上げJINE IDを登録していく。正直手早く連絡できるので助かる、俺のサイトにも自分のJINE IDを載せておいてもいいかも知れないな。
それよりも問題は彼女の勘違いだ、俺は彼女にオバケを見た場所を聞いて一人でその周辺調査をすると言う意味で先日メッセージを送ったのだが……
彼女、尾崎さんの文面を見る限り何故か一緒に探すと言う形で話が進んでいるのだ。しかも見ず知らずの俺に警戒心が全く感じられない、何も考えていないだけなのか、それとも天然なのか……
「はぁぁ……どうしたもんか……」
俺は尾崎さんへと当たり障りのない返信を返しておく。俺が行くまでは決して1人でオバケ探しをしない事、今日は火曜日なので今週の日曜日、もしくは来週の土日どちらかで和歌山に行く事を考えていると言う事を書いた。曜日が決まり次第直ぐにまた連絡すると伝えJINEを閉じる。
とりあえずまず先に倒木ダンジョンをなんとかしなければならないだろう。入口の穴に入る為の登山用ロープは昨日買ったし、一応必要になるかも知れないと思いキャンプ用ランタンも用意している。
「さてと、倒木ダンジョンの攻略と行きますか。コンパウンドボウを手にした俺に不可能はない!」
謎の自信に満ち溢れていた俺は空間ボックスへとロビンフット(コンパウンドボウ)を収納すると、倒木ダンジョンへと意気揚々と向かうのだった。無論移動は原付でカッコつかないけどね……
アーチェリーでオリンピックに出場すればメダルを獲得する事間違いなし!
今回の章は現在のロビンフットの誕生秘話だったかもしれませんね。
※実は限定職業のダンジョンシーカーには弓系統のプラス修正が入っているんです。と、言うのはどうでしょうか?笑
10/14日17時以降に更新予定です!
ブクマ&評価&レビューなど宜しくお願い致します涙
それではお読み下さった方々ありがとうございました!また明日会いましょう。絶対ですよ笑