シンクロは突然に
俺とアリサは流れ行く景色を眺めていた。時折見える山間の風景に俺の心は癒される。隣のアリサは少し不機嫌そうに俺の顔をチラチラとたまに見るのだった。
「何でそんなに機嫌悪いんだよ?」
「……別にわるくなんてないよぉ。」
プイッと窓の方へと顔をそらしたアリサは、何も語らない。今日は朝からずっとこんな感じだったのだ。
「はぁ……、嫌ならついて来なくたって良かったんだぞ……」
「蓮志さんと私は仲間でしょ。ついて行くに決まってるじゃない……」
俺達は今、電車に乗り和歌山県へと向かっていた。俺のサイト【世界の異変】内で、モンスターの情報をくれた尾崎さんに会いに行く為だ。アリサには事前に報告していたはずだったのだが、昨日の晩からアリサは俺へと素っ気無い態度を取るようになっていた。
「それに……女の子と2人だけなんて許さないんだから……」
「ん、なんか言ったか?」
「別にぃ……。」
ハァ、先が思いやられる。アリサの態度を横目に俺は再び外の景色に癒しを求めるのだった。暫く電車の揺れに身を任せていると、山間の景色は和歌山の中心部に向かうにつれて見られなくなっていた。
「俺達の住んでいる場所の方が田舎だな」
「そうかもねっ。でも私は田舎好きだけどなぁ。」
「そう言ってくれると助かるよ。あ、そうだ。まだ時間あるから少し寄り道していかないか?」
アリサは俺の言葉に目を輝かせている。うん、オッケーと言う事だろう。尾崎さんとの待ち合わせ時間にはかなり余裕があり、元々少し寄り道をするつもりだった俺は、アリサと一緒にショピングモールへと向かうのだった。
「蓮志さんあの店見てもいいかなっ!きゃぁ〜!可愛いっ!蓮志さんコレ見てっ……あっ!何これ……、え。可愛いぃっ!?」
機嫌を取り戻したアリサは、楽しそうに洋服やら可愛い雑貨を見て回っている。アリサの機嫌がなおってホントに良かった……帰りになんか買ってあげよう……
店内にあるフードコートで早目の昼食とする事にした俺達は、それぞれ違うものを注文する事にした。俺はたこ焼きを頼み、アリサはオムライスを注文しているようだった。
「ん〜、美味しぃッ!蓮志さんも食べて見てよっ!」
「へぇ?デミグラスに海老カツトッピング……間違いないよな!!
俺の目の前に差し出されたスプーンの上には、美味しそうなオムライスがのっている。俺はアリサが差し出したオムライスを頬張ると、予想していた以上の味に思わずにやけてしまうのだった。
「わかるぅ〜、美味しいと幸せだよねっ!」
「だよな!俺のたこ焼きもたべていいよ。この塩ダレもかなり美味いんだよ!」
アリサは嬉しそうに少し顔をたこ焼きに近づけると、俺へと視線を向けていた。恐らくこの流れは、アンタが食べさせなさいよ!って事だろう。
オムライスの美味しさで忘れていたが、俺は無意識にアリサと間接キスを済ませていたのだ。それに、もう恥ずかしがるような歳でも無い俺は、アリサの口へとたこ焼きを運んでやるのだった。
…………
……
ぐっ……鎮まりたまえ鎮まりたまえっ俺の右腕よっっ!!
このままでは、アリサの口元を汚しかねない!荒ぶる邪心よ……俺は決して屈しはしないぞ!?
震える手は目標へのロックオンを簡単には許してはくれない。やっとの思いでアリサの顔付近まで持っていく事に成功した俺は、スローモーションの様にアリサの紅色に色づく唇が開いていくのを確認する。
ここだ!無理矢理照準を固定させ、たこ焼きと言う砲弾をターゲットへと流れる軌道で放ったのだった。good luck!!
「ん〜。美味しいっ!?」
「お、おうっ。無事で良かった……」
「ん?それよりちょっとだけ離れてもいいかなぁ」
「お、おうっ。」
一瞬の攻防戦【octopus Transport作戦】は俺の勝利で幕を閉じた。アリサが席を離れてから数分間、俺は勝利の栄光に酔いしれたのだった。
「蓮志さんごめんねぇ……おまたせっ。」
「大丈夫だよ、もう他に食べなくてもいい……のか……」
アリサの方へと視線を向けた俺は、アリサが喋るまでずっとアリサの事を見続けてしまっていた。こ、これは……
「おかしいかなぁ?久しぶりだったから……」
「……綺麗だ」
自然と口から出てきた言葉だった。アリサは普段からあり得ないほど綺麗なのだが、目の前のアリサは更に女神の様な美貌へと変貌していたのだ。薄く化粧を施し艶のある唇にはグロスが塗られている。たったそれだけにもかかわらず、俺は一瞬でアリサの虜になってしまった……
「ふふ……少し好きになったんじゃないのかなぁ?」
「あぁ……」
「あはは、冗談だよっ……って……えっ、えぇぇっ!?」
もういいだろ。アリサは可愛いし、綺麗だし、俺の最高の仲間だ。別に自分の気持ちに嘘をつく必要もないよな。
「今日のアリサはいつにもまして可愛いよ……」
こうしてアリサは上機嫌のまま、目的地へと無事に到着したのだった。電車内でアリサに向けられる狼たちの視線は凄まじく、俺は優越感に浸りながらも電車移動を楽しんでいた。
「アリサけっこう揺れてるから気をつけろよ」
「うん!ありがとっ蓮志さん!」
和歌山駅へとつくと、尾崎さんとの待ち合わせ場所に決めていた正面入口付近のコーヒーショップへと向かう。アリサの機嫌は良く、終始ニコニコと可愛い笑顔を見せていた。朝とは別人のようなアリサに苦笑いしてしまう。
「確かここのカフェで間違いないんだけどな?」
「10分ほど早いし中に入る?」
「そうだな、先に入って待とうか」
駅内のカフェと言う事もあり、少し狭い店内はほぼ満席状態だった。一つだけ空いていた2人用の席を見つけた俺は隣の女性に一言謝り、アリサをシートへと誘導し、俺は正面の椅子へと座る。
なんかやたら隣との席が近いカフェってあるよね……。
「優しい彼氏さんいいなぁ……彼女さんアイドルみたいに可愛いし……お似合いのカップルだよね。」
隣の女性はもう1人の女性にヒソヒソとそう言うと、彼女達の視線を感じてしまうのだった。いやいや、君達もそうとう可愛いから。それに全部聞こえてますよ……
アリサがコーヒーを注文しに行っている間、ポツンと残された俺の周囲には、気まずい空気が漂っていたのは言うまでもないだろう。
「そろそろ時間なんだけどな。一度連絡してみるか」
「そだねっ。店内にいる事も伝えた方がいいよねっ」
JINEを立ち上げ、店内で待っていますと送信していく。これで問題ないだろう。
ピコッ!
送信した瞬間隣でJINEの通知を知らせる音が鳴った。
俺とアリサはシンクロしているかの如く、隣の女性達へと顔を向けていた……そこには、俺達のようにシンクロを発動しながら、こちらへと顔を向ける2人の女性がいたのだった……
シンクロは突然に編如何でしたでしょうか?
元々アリサは蓮志のダンジョン動画を見て、仲間になろうと思い立ったのですが、彼女は動画内に映る強い蓮志を尊敬していました。
動画で倒したモンスターへと手を合わせたり、優しい一面に惹かれていたのかもしれません。共同生活を一緒に送る中で、アリサは更に蓮志へと魅力を感じてしまっていたのでした。
そんな彼女の心境は、他の女性に蓮志が会いにいくとなれば、やはり気持ちの良いものでは無かったのでした。
ショッピングモールで化粧をしたのも、自分を見ていて欲しかったのかもしれませんね。女心は難しいものです……
明日10/29日も更新予定となっております、明日もお会いできれば嬉しく思います!
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