【ダンジョンを知る者】を知る者
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目を開けると白い天井が見えた。どうやらダンジョンを脱出した後、あのまま意識を失ってしまったようだった。体の傷は消えている様だったが、まだ少し体が重く感じてしまう。
「おう!目を覚ましたか、また無茶をしでかしたんだって?がははっ!とにかく無事で安心したぞ!」
突然枕元で大きな声が響く。ガンガンと頭に響く声は、病み上がりの僕にはあまり嬉しくない状況だった。この大きな声の主は【【E′S】1番隊隊長 山下 剛毅】通称 山さんと呼ばれている。体育会系で僕が少し苦手としている人だ。
「……山さんも相変わらずの様で安心したよ。強いて言うなら、寝覚めで聞く第一声は女性がいいんだけどね。」
「がははっ!まあ、そう言うな!せっかく珍しくお前の顔を見に来てやったんだぞ。そのぐらいは我慢してもらわなきゃいけねぇな!」
何故だかわからないが自然と溜息がでてしまう。きっと体が山さんを拒絶しているのだろうか……今回は山さんなりに気を使っての見舞いのつもりだろうが、正直あまり嬉しくない。
「2形態の奴と殺りあったんだって?良く生きて戻ったな!お前が無事で俺は嬉しいぞ!!」
「今回はたまたま生きていた。僕にはその方がシックリ来るけどね。完敗だったよ……あれは今の【E′S】には、手に余る存在だね。」
「ふむ。お前がそう言うならそうなんだろうよ……、だがこのまま指咥えて見てるだけってワケにもいかねぇだろうが」
赤く変色した黒狼が脳裏に浮かぶ、自分から攻撃に転じるどころか、黒狼の攻撃を防ぐ事さえも出来なかった。唯一の行動は、死に物狂いで攻撃を躱し続ける事だったのだ。
「……確かにね。だけど今はまだその時じゃないよ。奴は僕が必ず駆逐してみせるよ……必ず。」
山さんはジッと僕を見つめていた。突然強く自分の膝を叩き椅子から立ち上がっていく。
「安心した!!お前はまだ死んじゃいねぇようだな!もう暫く休め、それじゃあなっ!がははっ!」
山さんはそう言うと部屋から出て行くのだった。ホントに苦手だと僕は再び思ってしまう、山さんの最後の言葉が頭を巡る。
〝死んじゃいねぇ″……か、僕の大切な家族に牙を剥いたんだ。このまま僕が見過ごす訳がないだろ。
不意に僕は明音の顔を思い浮かべていたのだった。
…………
……
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今日はいつにも増して、すこぶる体調が良い。昨日覚えた自動回復などの効果だろうか。死にそうなぐらいの傷を負ってしまったのが夢だったかの様に思えてしまうほどだ。
「ん〜!!絶好調!!今日の予定は……。【ダンジョンを知る者】と17時に会う約束をしてたはずだったな」
正直ドキドキしていた、自分以外のダンジョンやモンスターを知る人と初めて交流するのだ。興奮している自分に気がついた俺は、落ち着く為にコーヒーを飲む事にしたのだった。
「一気飲みしちゃったよ!良い歳して、どんなけウキウキしてるんだよ俺は……」
1人呟きながらも恒例のサイトを確認していく。いつにも増して、チャットルームは賑わいを見せていた。何気に確認した昨日のサイト内閲覧数は、150万を超えていた。
「……お、俺はもうなにも驚かないぞ」
俺は震える手でマウスをクリックしていた。無意識に作業を繰り返し完成したもの……
「ふふ……アフィリエイトの広告料で一攫千金だ!」
あざとく冒険に役立ちそうな広告会社をキッチリと選択した。そう、今の俺はお金が無かったのだ。これは遊びじゃない……俺の生活がかかっているんだ!
そう心で叫ぶ俺は、素早い手つきであっという間に仕上げたのだった……カチャカチャカチャ……スタァンッ!
完成した画面へと、両手を合わせ成功する様に祈った。無事に広告料生活ができますように……と。
その後チャットルームなどを見ていた俺は、知らない間に何時間も経過している事に驚いてしまう。休みの日など家から出ずに、一日が終わってしまう意味がわかった気がした。急いで支度をすると、【ダンジョンを知る者】との待ち合わせ場所へと向かうのだった。
…………
……
「思いのほか早く着いてしまった……先に入っておくか」
待ち合わせ場所は俺の最寄駅近くのファミレス、【ダンジョンを知る者】が指定した場所となる。Joogle MAPで事前に調べたのだろうか?
電車を乗り継ぎ此処まで行くと言う事だったので、特に断る理由は無かった。
「すいません、ドリンクバーお願いします」
先にコーヒーを頂きながらも、【ダンジョンを知る者】を待つ事にした。一応JINEで先に着いた事を報告しておいた。今更ながら彼が怖い人でなければ良いのだが……
10分程経過した時には既に4杯目のコーヒーに手を伸ばしている俺がいた。椅子に戻ると携帯にJINEの通知を知らせる音が響く。
ピコッ!
〔駅に着きました!〕
ピコッ!
〔今から向かいます〕
ピコッ!
〔駅でました〕
ピコッ!
〔ファミレスが見えます〕
…………
……
メリーさんかよっ!1人突っ込みつつも、送られて来るメッセージを読んでしまうのは好奇心から来るものだろうか……ちょっと悔しい。
そう思いながらもファミレスの入口を凝視してしまう。店内に入ってくる人にはそれらしい人物がいない。店を間違えていないよな……不安を感じていた時に、俺へと手を振る人が現れたのだった。
「お待たせしました!蓮志さんですよね!オォ、思った通り中々のイケメンじゃないですかっ!このこのっ!」
冗談を交えながら俺の二の腕辺りを突っつくこの人が、【ダンジョンを知る者】で間違い無いだろう。
俺は言葉を失ってしまう……なぜなら……
「じょ、女性だったんですかっ!?」
「ふふ、実はそうなんだニャン!」
彼女はまるで悪戯をする子供の表情でペロリと舌を出した。アイドルの様な、整った綺麗な顔はその仕草により途端に可愛く変貌するのだ……ぐっ、可愛い……不覚。
黒のレザージャケットに黒のレザーパンツ、頭には黒い帽子を被り髪は纏めているように見える、レザージャケットの前を開けており、見えている白いTシャツの胸部分は、形の良い胸を強調するかの様に揺れていた。
俺は思わず恥ずかしくなり顔をそらしてしまう。俺はまるで芸能人の様な、【ダンジョンを知る者】に困惑してしまうのだった。
「ま、まあとりあえず座って下さい……えと……」
「アリサ、椎名 アリサだよ。これから末永く宜しくっ!蓮志さん!」
「は、はいぃッ!」
俺は声を裏返しながらアリサへと返事を返すのだった。
【ダンジョンを知る者】を知る者編如何でしたでしょうか?
【E′S】1番隊隊長 山下 剛毅
初登場です、彼は黒羽と同じく【E′S】の中でもトップクラスの実力を持っています。性格は熱く男気が溢れ出ていますね笑
【E′S】にはもう1人3番隊という戦闘に特化した部隊が存在しますが、想像通り3番隊隊長も癖の強い人物となります。その辺はまた別のお話で明らかになるでしょう。
続いて、【ダンジョンを知る者】。まさかのダンジョンを知る者は女性だったのでした。一人称がオレとなっていた事から、蓮志は彼女を男性だと思い込んでいたんですね。これは仕方ありませんよね。
椎名アリサと蓮志は今後どの様な展開になるのでしょうか。とても気になってしまいますね……ふふ
アリサは人懐っこい性格なのですが、あの美貌では男性が勘違いを起こしかねません。事実、アリサは何人もの男性に言い寄られているのでした。これから先に本編でも出てくるかもしれませんね。
それでは、明日10/25日も更新予定となっておりますので、またお会い致しましょう!
ご視聴ありがとうございます。