最後の望み
倒木ダンジョンを進むと俺のスキル【地図】により、ダンジョン内の道は自動マッピングされて行く。可視化された地図上には二本に別れた分岐点が映し出されており、その先は黒くて今はまだマッピングされていない状態だった。
「さて、どちらに進むべきかな……カオスキルボアと出会わなければどっちでもいいんだけど……」
流石に俺はカオスキルボアと戦うつもりは無かった。本来今回の目的は、倒したモンスターが時間経過でリスポーン(復活)するかどうかの確認をする事にある。
まだ目の前で復活したのを見てはいない、昨日ダンジョンの入口付近でワイルドボアを一掃したはずなのだが、今日再びダンジョンを訪れた際には数匹のワイルドボアがいて全てのワイルドボアを俺は倒していた。
「復活しているのか、新たにダンジョンの奥から出てきているのかはまだ判断できないよな」
直接モンスターの復活をこの目で見ない限りは、軽率な考えをしない方が良いだろう。暫く思考していた俺は、二本の道のうち左側の道へと進む事に決めたのだった。
暫くモンスターと出会う事もなく歩いていると、俺の視界には今まで見た事の無い程の、大きな扉が飛び込んで来たのだった。明らかに異様な光景に思わず昔やっていたRPGゲームを思い出してしまった。
「はは……これはさすがにヤバそうだよな。ゲームで言うとボス部屋みたいに見えるんだが……」
ゲームなら迷わず進むのだろうが、これは紛れも無く現実の世界だ。僅かな油断により簡単に命を落としてしまうだろう。この扉の先は気になるが、今は焦らなくても良いだろう、今の俺は弱いのだから……
「俺は弱い。いつか強くなって必ず攻略してやる」
歩いた道を引き返した俺は分岐点へと舞い戻っていた。迷わず今度は右側の道へと進んでいくとこちらもダンジョン入口付近の通路とは異なる場所へと辿り着いたのだった。通路は広くなっており、通路と言うよりも部屋と言った方がシックリと感じる。
罠などの危険性を考えながらも、俺は広い部屋へと辺りを警戒して歩いて行く。
「いきなり広くなったんだ。なにかの意図があって作られたと考えても良いだろう。」
俺はホルスターから両の手へと、ナイフを取り出して握り締めていた。部屋は広く円形の作りになっており、ざっと見ただけでも100mほどの丸い空間だろう。
この部屋の先には更に細くなった通路が見えている事から、ダンジョンはまだ先へと続いているのだろう。と、思いながら中央付近を通過した時に異変は起きた。
部屋の外周を包む光が室内へと立ち昇ると、まるで部屋を封鎖するかの様に光の壁が現れたのだ。俺は元来た道へと急いで引き返したのだが、無残にも光の壁の中に閉じ込められてしまったのだった。
「この光の壁はなんだ?」
俺は地面に転がる小石を拾うと、不思議な光の壁へと投げてみる、光の壁に接触した小石は赤く発光すると一瞬でその存在を消してしまったのだ。危険を感じた俺は直ぐに光の壁から距離をとっていた。
「これはトラップなのか。完璧に閉じ込められた……かなりまずいぞ……」
すぐに【仮設ログポイント】を使用してみるが、蜃気楼が現れる事は無かったのだ。何か不思議な効力が部屋内に働いているのかは分からない、ただ言えるのは俺は今、窮地に立たされていると言う事だけだろう。
空間ボックスから数個のポーションとMPポーションを取り出した俺は、身に付けているプロテクターの隙間へと入れていく。傷を負ってしまった時にすぐに使える様に考えた結果とった行動だった。この判断が間違っていなかったと思ったのはその直後だった。
円形の部屋内に数十ものモンスターが突然現れたのだ。見た事のないモンスターも数体含まれていたが、俺はすぐに目の前のワイルドキルボアへと両手のナイフを突き立てていた。
ワイルドキルボア LV10を倒しました。
止まれば危険だと感じた俺は、既にクールタイムを経過していた【鬼魂】を発動すると近いモンスターへと次々にスピードを上げてナイフを突き立てていく。
ボアファイター LV10を倒しました。
ワイルドボア LV11を倒しました。
レベルが上がりました。
…………
……
一体どれ程のモンスターを倒したのだろうか。何度もポーションを飲み干してモンスターへと今もなお応戦していた。激しい戦闘で俺の背中には深い傷が刻まれていた、ポーション一つでは回復しない程のダメージを負っても、完全に治療を施していなかった。完全に治療出来ない程に次々とモンスターが現れていたのだから。
「アァァァァッッ!!まだだぁぁっ!!」
ボアファイターの振り抜かれた鉈を身を低くすり抜けて躱すと、鉈を振るい空いている腕下から胸へとブラッドナイフを突き刺していく。微かに頭部を掠ってしまった鉈で、俺の額から流れる血は不運にも自身の視界を奪ってしまうのだった。
自分の血で見えていない死角から胸を突かれたボアファイターを巻き込んで、俺はワイルドキルボアの激しい体当たりをもろに受けてしまったのだ。
俺は地面へと何度かバウンドしてようやく転がるのを停止させる。
どうやらワイルドキルボアとはつくづく相性が悪いみたいだと、こんな状況の中で考えていた。
「はは……キ……ツイなぁ……」
震える腕に力を込めて体を地面から起こそうとした俺は、力無く再び地面へと平伏してしまったのだった。ワイルドキルボアの体当たりをもろに受け、倒れた俺の腕はどうやら骨折していたらしい。折れた腕では力を入れ体を支えることすらできなかったのだ。身体中の傷が開き地面は赤く染まっていく。
「呆気ないものだ……よな……」
どれ程警戒しようが、慎重に罠への注意をしていようが、今回の様に回避不能なトラップが発動すれば全て無意味な行動となってしまう。もうすぐ訪れるだろう死への最後の抵抗だろうか。俺は僅かに動く唇を噛み締めていた。
未だに出現するモンスターを横目に、身動き一つ出来ない俺の命は風前の灯火だったのだ。
最後に無理矢理動かし左腕で体を起こそうと足掻くが、意識とは裏腹に俺の左腕は血溜まりの地面を虚しくなぞるだけだった。
鬼血の契約により【blood mode】をアンロックしました。契約の下により強制発動します。
痛みすら感じなくなっていた俺の左腕は、突然熱を帯びるとまるで巻き戻したかの様に、俺から流れ出した血液が鬼血の手甲へと吸い込まれていく……
左腕からは力強い鼓動を感じる。ドクドクと血液を循環させている様なとても力強い鼓動は、俺へとまだ〝死なせない″と言っている様に感じ取れた。
左腕から全身にかけて熱湯をかけられた様な強烈な熱さに、俺の意識が覚醒されたのだった。
「グアァァァァッッア!!!!」
地面を転がり苦し紛れに立ち上がった俺の視界に映った全身は、赤黒いメタリックの様な物質に包まれていた。頭部にはコメカミから後方に向けて鬼の特長である角の様な物が伸びており、全身は俺の体へとフィットする様な形で謎の赤黒い物質に覆われている。
「こ、これは……俺の体どうなってしまったんだよ!」
両手を見つめた俺は、悪魔の様なその手に驚愕してしまう。全身に纏った物質は骨折部を無理矢理補強しているらしく、左腕を動かしても痛みは嘘の様に感じられなかったのだ。俺は全身から溢れ出す力に我を忘れモンスターへと走りだしていたのだった。
ここから絶対に生きて帰る。
その思いだけが俺の体を突き動かしていた……
最後の望み編如何でしたでしょうか?
ダンジョンは恐ろしいもので、力無き者を次々と飲み込んで行くでしょう。通常ダンジョン攻略は1人で行うものではありません。実はパーティーシステムが存在し、メンバーそれぞれの特長を生かしつつ攻略していくのがこの先ダンジョン攻略の主流と変わるでしょう。
それにしても蓮志の変身と呼べる変化には驚きますよね笑
この【blood mode】は、鬼血の手甲の隠しシステムとなります。通常は発動しないまま、使い手は生涯を終えるのですが……死の淵にいた蓮志は奇跡的に発動させてしまいました。
発動条件は、使用者の血を一定量浴びた際に強制発動し、使用者の死地を脱する力を解放すると言うもの。一度発動されればアンロックされMP使用で発動可能な強力なエピック級スキルとなります。今後レベル設定も考えており、勿論レベルに合わせた変化も……
「ぐ……早く俺から離れ……ろ!!」なんて事も?笑
細身のシルエットは機動力が高く、攻撃型、防御型と言うよりはスピード型に分類されそうな姿です。
蓮志は気がついていませんが、顔はフルフェイスになっており目元が赤く光る中二病使用なのです。パッと見れば機械のようにも、悪魔のようにも見えるんです!
とりあえずカッコイイ外観は作者のモチベーションをあげるのですよ笑
この続きが少しでも気になった方は、ブクマ&評価などして頂ければ嬉しいです。
今回もゲリラ更新となります!さーせん
それではまた明日お会いしましょう!!
10/18日も更新予定ですので是非読んで頂けたらと思います。




