世界初ダンジョンへの潜入
眠たい目をこすりなんとか意識を保ちながら、俺は運転する車のハンドルをしっかりと握りしめる。
最近は残業続きでろくに睡眠などとっていなかった、明日は10日ぶりにやっと休みがとれたんだ死ぬほど寝て一日中趣味のゲームをやると心に決めていた。
朦朧とした意識の中でそんな事を考えながらも暗い夜道の中、かなり早いスピードで通い慣れた道を運転していた時だった……
突然目の前に飛び出してきた人影に、俺は一瞬反応が遅れてしまった。
咄嗟に急ブレーキをかけるが車の勢いは止まらずに、車体へと激しい衝撃が伝わった後に車は停止する。
ドンッ!!!
フロントガラスはヒビ割れ所々に赤い血液がこびり付いていた。
俺はハザードをつけ急いで車から飛び出すと慌てて轢いてしまった人影へと走り寄っていた。
「だ、大丈夫ですか!すぐに救急車呼びますから!?」
ここは田舎で運悪く山道だ、すぐに救急車を呼んだとしても到着するまでに30分以上は掛かるだろう。
まさかこんな道に人が歩いているなんて予想もしていなかった、焦りと後悔が心中で渦巻いていた。
数メートル先に横たわる人物は車のヘッドライトに照らされかなり大きな人だとわかる。
震える足で近付いていた時だった、ムクリと立ち上がった姿はまるで映画で出て来るような悪魔や鬼の様な容姿に、俺の思考は停止してしまう。
現実離れした状況に夢か何かだと思考は切り替わって行く。
身長2mほどのソイツは恐ろしい形相で俺を睨み付けた。
俺は恐怖のあまり握り締めてしまった携帯が不意に手の中で発光する。
ソイツはフラッシュに一瞬怯むと、俺は無我夢中でソイツへとシャッターを切っていた。
光に怯えるかの様にソイツはフラフラとした足取りで脇道の茂みへと逃げるように消えて行ってしまった。
「な、なんだよ今のは……!?」
心臓の鼓動が早い。
現実味のない出来事に頭は今も困惑していた。この時の俺は睡眠不足や理解の出来ない状況にどうかしていたと思う。
俺は何を思ったのか車へ戻ると車内を必死に漁り始める。
「あった……!」
俺が握り締めていたのはスペアタイヤを取り付ける時に使うL字レンチとペン型LEDライトだった。
恐怖もあったが見たことも無い生物の正体を確かめたいと言う好奇心が勝っていた。
ペンライトをカチカチと点灯させ動作確認をした俺は、ペンライトを左手、右手にL字レンチを握り締めると意を決して追跡を開始して行く。
さっきヤツが入って行った茂みをペンライトで照らすと、通った道がすぐに確認できた。
地面や生い茂る木には車へと衝突した時に出来た傷によって赤い血液が付着していたのだ。
かなりの出血量に重傷なのは明白だった。
暫く血痕を辿り歩いて行くと岩肌に洞窟らしき物を発見した。大人2人は通れるだろう穴は暗闇の中でとても恐ろしく感じてしまう。
それにさっきの恐ろしい化物がこの中にいるのは血痕から見て間違いない。
今更追跡した事を後悔してしまった。
俺は意を決して洞窟の入口からペンライトで中を照らすと意外にも中は広く奥へと続く道が確認できた。
勇気を出し注意しつつも恐る恐る洞窟内へと俺は足を踏み入れて行く……
【世界で初めてダンジョンを発見しました】
称号 【ダンジョンシーカー】を獲得しました。
スキル 【地図】【空間ボックス】【仮設ログポイント】を取得しました。
突然聞こえた声に思わず心臓が飛び出しそうになってしまう。
俺は反射的にその場にしゃがむと焦りながらも周囲をペンライトで照らし確認していく。
「おいっ誰か他にいるのかっ!」
思わず恐怖のあまり大きな声を上げていた。
暫く動けずに返答を待つが声が返ってくる事はなかった、さっきの声は一体なんだったんだろうか。
世界で初めてダンジョンを発見しましたって言ってたよな。
ゲームじゃないし意味がわからない……
間違いなくこれは現実だ。
俺は再び重い腰を上げ忍び足で洞窟の奥へと進んで行く。
地面の血痕は間隔が狭くなっている事からヤツの歩くスピードが落ちているのだと考えられた。
その後すぐに俺の考えは間違いではなかったと確信する。
ソイツは壁を背に座り込んでいた。
ペンライトに照らされたヤツの赤黒い体は大きく揺れていた……
俺はゴクリと息を飲むと、無意識に直ぐに逃げれる様な体勢をとっていく。
なんなんだこの化物は……
異様に隆起した全身の筋肉に赤黒い艶のある肌、目は黒目部分がなく全て輝く黄金色をしている。
口には肉食獣を連想してしまう様な鋭い犬歯が見え隠れしていた。
化物の呼吸はかなり早く、相当なダメージを受けている、胸から呼吸する度に血液が溢れ出るのが確認できた。
恐らくコイツはもう動けない……
80キロぐらいのスピードで俺の車と衝突したんだ。
ヤツの歪に曲がった左足と同じく骨が見えている左手を確認してそう思った。
「バ、バケモノ……本物だよな……」
ヤツは俺の言葉に牙を剥き出し重く低い唸り声を上げる。
俺は今までに感じた事のないあまりの恐怖に、思わず叫び声と共に握り締めていたL字レンチを、力任せにヤツの頭部へと投げつけていた。
鈍い音が響いた後、短く声を上げたソイツは崩れる様に地面へと倒れていく。
ネームドモンスターのブラッドオーガ〔ガイス〕 LV2を倒しました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
称号 【悪鬼を鎮めし者 】を獲得しました。
スキル【鬼魂】を取得しました。
【世界で初めてモンスターを討伐しました】
称号【救世主】を獲得しました。
スキル【自動解体】【天啓】を取得しました。
【世界で初めてネームドモンスターを倒しました】
称号【強者を打ち倒し者】を獲得しました。
スキル【強者の証】を取得しました。
再び聞こえた声に俺は困惑する。聞こえていた声は暫くすると聞こえなくなっていた。
レベルが上がったとか称号やスキルを獲得したとか、まるでゲームの世界みたいだ。
それに確かに体中に力が溢れている様な気がする、何というか物凄く軽くなった様に思う。
まさか……
本当にレベルやスキルなんて物が存在しているのだろうか?
声はネームドモンスターのブラッドオーガと言っていた、このバケモノがそうなのだろうか?
俺は地面へと倒れているバケモノへと近付いて行く。
スキル【自動解体】を使用しますか?
再び聞こえた声に俺は答えた。
「あぁ……使用する」
突然ブラッドオーガの体は光を放つと俺の左手へと光が集結して行く。
光が収まると俺の掌には見慣れない文様が刻まれている事に気がついた。
まさかダンジョンに入った時に謎の声が言っていた、スキル【空間ボックス】だろうか?
もし仮にゲームなら俺の得た称号やスキルは限定の様な感じに思える。
〝世界で初めて″ってのがそう思わされるのだ。
もしそうならかなりの高確率でレア称号にレアスキルだろう。
俺はこの状況下の中ゲーマー精神で興奮してしまっている事に気づいたが、流石に睡眠不足や疲労が勝り一度帰宅する事にした。
洞窟の奥へと足元の石を力任せに投げつけると壁に当たる様な音は聞こえず遠くで地面にバウンドする石の音が響いた。
まだまだ奥へと続いているのを確信した俺は、明日もう一度出直すと決め帰路に着く事に決めた。
故障した車を何とか動かして家へと辿り着いた後、玄関に入るなり直ぐにそのまま眠ってしまった。
相当疲れていた様だった硬い床の上で12時間も寝てしまったのだから。
「流石に体痛いな」
軽く朝食と言う昼飯を食い、その後シャワーで汚れを落とした。左手の掌には小さな文様がしっかり刻まれている。
石鹸で念入りに洗ってみるが消える事はなかった。
「夢じゃなかったんだな……」
もう一度準備を整えて昨日の洞窟へと行く事を再度決意する。
レベルが上がったとか謎の声は言ってたけど、なんかステータスみたい物はあるのだろうか。
「ステータスオープンなんちゃって……うぉっ!」
よくあるゲームの設定を呟いた俺の目の前には、しっかりと空中に浮かぶ透明な画面が映し出されていた。
まさか本当に現れるとは思いもしなかった俺は、思わず声を上げてしまう。
画面には俺のステータスと思われる数値や文字が表示されている。
本多 蓮志 LV4 (22歳)
職業【ダンジョンシーカー】【JP8】
HP 【150/150】
MP 【90/90】
スキル 【SP8】
【地図】【空間ボックスLV1】【仮設ログポイントLV1】【鬼魂LV1】【自動解体】【天啓】【強者の証】
称号
【ダンジョンシーカー】【悪鬼を鎮めし者 】【救世主】【強者を打ち倒し者】
これはいきなりのスキルと称号ではないだろうか。
ステータス画面にはHPとMPが表記されている。普通に考えれば生命力と精神力だろうか。
良くゲームでありそうな攻撃力、防御力、力、知力、素早さ、運などのステータスが見当たらないのは意外だった。
レベルアップ時の明確な上昇率が分からないと言うのはかなりやり難いだろう。
ゲーム好きなら分かると思うが明確な数値によっての勝率が大きく変わるだろう。
俺は画面のスキル項目を一応タップしてみると、スキルの詳細が画面に現れる。
これは有難い仕様だ使い方が分からなければ宝の持ち腐れになってしまう物も出てくるだろう。
今のうちにスキルと称号の説明を理解しておくとしよう。
【地図】自分の半径20㎞圏内にダンジョンがある場合通知する+ダンジョン内とダンジョン外の自動マッピング
※パッシブスキル
※スキル取得時からマッピングの開始
【空間ボックスLV1】時間静止空間へ100㎏までアイテムを収容可能
※パッシブスキル
※生物の収容はできない
【仮設ログポイントLV1】ダンジョン内に外へと繋がるワープポイントを設置する
※MP消費量50
※1度使用するとワープポイントは消滅する
【鬼魂LV1】使用時2分間鬼の如き力を得る事で身体能力が一時的に20%UPする
※MP消費量50 CT60分
【自動解体】自動で解体可能なモンスターを素材化する
※パッシブスキル
※半径1m以内で任意発動
【天啓】神の声を聞く事ができる
※パッシブスキル
※任意で職業変更、JP使用、SP使用ができる
【強者の証】身体能力が3%UP
※パッシブスキル
【ダンジョンシーカー】世界で初めてダンジョンへと辿り着いた者へと与えられる称号
※限定職業ダンジョンシーカーを取得する
※職業ダンジョンシーカーでレベルアップ時JP修正+1
【悪鬼を鎮めし者 】ネームドモンスターブラッドオーガ〔ガイス〕を打ち倒した者へと与えられる称号
※スキル【鬼魂】を取得
【救世主】世界で初めてモンスターを討伐した者へと与えられる称号
※限定スキル【自動解体】【天啓】を取得
※レベルアップ時SP修正+1
【強者を打ち倒し者】世界で初めてネームドモンスターを倒した者へと与えられる称号
※限定スキル【強者の証】を取得
一気に目を通した俺の胸は高鳴っていた。
やはり職業やスキルそれに称号のどれもが限定物やレアな物ばかりだったからだ。
この先きっと役に立ちそうな物ばかりで期待が高まって行くのがわかった。
いや、チート級のスキル揃いに期待しか感じられない。強力かつ便利すぎるだろう。
一応【JP】ジョブポイントと【SP】スキルポイントと勝手に解釈したのだが、今はまだスキル【天啓】で割振りをしないでおこうと思う。
もう少し様子を見てからの使用が良いだろうと判断した。それと【天啓】の説明を読んだ限りかなり重要なスキルだと思う。
所持していない者は恐らく何処かの場所でポイントの割振りをするのだろうが、俺にはその必要が無いと言う事だ。
コレだけでもかなり有利なのは間違いない、俺は意気揚々とダンジョンへと向けて準備を進めるのだった。
ダンジョンとモンスターは時間経過と共に強力な力を得る。ダンジョン内で死亡した生命はダンジョンの糧となり新たなダンジョンとなりモンスターとして生まれ変わる。以上天の声でした。