第7章 兵舎での生活
ウィル…オルガルドに恨みを持つ少年。ガロルド将軍の命によりオルガルドのスパイとして潜り込む。
ミアラ…父ドルジェから、オルガルドを案内するよう頼まれウィルについて行く。
ジークリード…オルガルド王国の将軍。
中に入ると兵士達が休憩に入っているようだ。そいつらが噂をする。
「兵舎破りのやつだ」「入って早々ジークリードに気に入られたんだってよ」「王様にも会ったとか」「俺は会ったことねーぞ!」
ザワザワと騒がしい。ウィルを睨み付けるものもいれば、面白がってウィルをからかおうとする者もいる。
ばか、殺されるぞ!
「すまないな。こんな所で閉じこもってるから、ひねくれる者が多いんだ。定期的な訓練にしか楽しみを見いだせないらしい。あとは新人いじめだな」
ウィルは無表情でみつめる。それを周りに向ける。それは、兵士達を少し黙らせる。
「ははは、ウィルくん。少しは表情みせてくれてもいいんだぞ。それが面白くない連中もいるからな。新人いじめが最近酷くて、辞めたものも多い」
ジークリードの足が止まる。ついた先は、茶色の普通の扉。
「ここだ。悪いんだが、相部屋しかなくてな。224号と書いてある部屋がお前の部屋だ。なんとか交渉してマシな所がこの部屋だったんだが…」
扉を開けてみると、服やなんやら散らかり放題。つまり汚い。二段ベットが部屋の両サイドにある。4人部屋らしい。
右隣の部屋を開けてみる。
左側の1段ベットに誰か寝ている。
でもやはり散らかっている。
左隣も同じ。
「やっぱりどの部屋も同じか。おい、もう昼過ぎてるぞ、起きろ」
ジークリードは右隣で寝ている男を起こす。
ジークリードはまるでお母さんのようになっていた。
「皆だらしなくてな。周りからはお母さんなんて呼ばれてるし、参っちゃうよなぁ」
ジークリードは扉を閉じ、中央へ案内する。中庭だ。そこでは訓練中の兵士が沢山いる。
「おい、お前ら!一旦やめろ」
ジークリードの言葉に動かしていた体を止める。
「新たな後輩だ。知っているやつも多いだろうが、先程ここに来た物だ」
ウィルが1歩前に出る。
「ウィル・アーケルドだ。よろしく頼む」
兵士たちはじっとウィルを見つめる。
「ウィルくんは強いぞ。新人と思って舐めてかかるな。お前らの悪いくせだ」
そして、ジークリードはウィルに体を向ける。
「私にしてやれるところはここまでだ。期待している」
じゃあな、と手をあげ去っていった。
後ろにいる兵士共は先程ウィルに倒された連中が多く、殺気立っている。
ウィルは兵士達に体を向けるとニヤリと笑う。そして、剣を抜き向かっていくのであった。
ウィルはガロルド将軍に連れられたあと、
戦闘員としてガロルド将軍の下鍛えられた。
ウィルは比較的小柄で華奢である。
その体格を生かし、素早い攻撃を得意とする。それに、戦闘への執着心が強い。
オルガルドを滅ぼすことだけを胸に生きてきたウィル。戦闘にさぞ喜びを感じ得ることだろう。
それはここの兵士たちを怯えさせる。
ははは、あっはははははは!
高笑いし、剣を振り回す。適当に振り回すのではない。敵の動きをみて、それを読んで振り回すのだ。
まさに戦闘狂。血を見る度にニヤニヤと笑う度が増す。
「もっとだ!もっと俺を感じさせてくれ!」
それで戦う者はいない。
皆ウィルから離れていく。
血はウィルのトラウマを植え付けたと同時に、復讐心を満たすのだ。
1人残ったウィルは、その場に残る血溜りをジリジリと足で踏み潰す。
ウィルの満たされない心は虚無感を作った。
ウィルの異常行動は戦いだけであった。
戦争での感情の欠落から、日常は無口で無表情。周りから見れば大人しい、暗いやつ。
それがウィルを嫌う連中の標的となったのだ。
まずは相部屋の住人。ウィルにちょっかいを出す。しかし、他人のことには興味無いウィルにそれは無駄なことであった。
無反応なのである。持ち物も大して持っていない。あるのは鋼の剣のみ。実につまらないのだ。
ある時は食事。食事は当番制で、兵士たちが作る。(因みにこれは自分達で管理できるよう、料理も出来るようにするためである)
食事の時間になれば皆同じものが与えられる。がしかし、ウィルには同じものがいられていない。1品どころか、2、3品ないのだ。
完全なる嫌がらせである。
だがこれにもウィルは無反応で、そのまま文句も言わずに食べるのだ。
これにもやはりいじめている兵士達は気に食わないだろう。
同じ部屋の一人の若い兵士が、ベットに横になっているウィルに話しかけた。
「なあなあ、お前って凄いよな」
「?」
そっとその兵士に目をやる。
「だって何されても無関心なんだもん。凄いよ」
その兵士はほかの兵士達と蒸れなかった。
その理由は勝手に向こうが話してくる。
「俺もさ新人でいじめられてたんだ。お前が来てからパッとターゲットが変わって、正直助けられたよ。そして尊敬したよ」
ふぅん、という程度に話を聞いているようだ。傍から見れば聞いていないように見える。
「俺ブラウンて言うんだ。お前ウィルてんだろ?仲良くしようぜ」
ウィルは面倒くさいのを交わすかのように寝返りをうった。
一方のミアラは、あの後ジークリードに連れられ宿に泊まっていた。
そして帰るか迷っていたのだ。
「んんん、でもなぁ。あの王女様とウィルくんがもしも…
あんな事やこんな事する関係になったらキャーーー!」
まだ、滞在することに決めたらしい。
因みにジークリードがこの滞在費を持ってくれている。ウィルの連れだからという理由だそうだ。