第6章 オルガルド王との対峙
登場人物
ウィル…オルガルドに恨みを持つ少年。ガロルド将軍の命によりオルガルドのスパイとして潜り込む。
ミアラ…父ドルジェから、オルガルドを案内するよう頼まれウィルについて行く。
ジークリード…オルガルド王国の将軍。
オルガルド城へ向かう一行。
一応ジークリード将軍の紹介のため、馬車で上まで登ってゆく。城に向かう時はボートよりも馬車の方が早い。水路が坂になっているためだ。そしてミアラも同行する。(一応ウィルの連れだったため)。
登る中窓から外を見渡すと、街の全景を見ることが出来る。それも徐々に高くなってゆく。そしてなんと言っても上にもある、水路からの流れる水によっていくつか出来る滝の傍。これが水の壁のようになっているので、見るものを更に圧巻させる。
オルガルド城の目前。
王が待っている王座の間は、玄関からずっとずっと真っ直ぐに階段を登った所にある。
入口に入っても、その真っ直ぐに伸びる階段に圧倒される。
流石のウィルも…、いや、興味はなかったようだ。ジークリード将軍の後ろを黙々とついて行く。ミアラは見る度に圧倒されているようだが。
(すっごい…。これが王の力!!)
圧倒されている間に2人(+一般兵2人)の距離が離れる。ミアラも駆け足で追う。
--王座の間。
吹き抜けのように高い天井に、1つ佇む椅子に座る王に、一人の女性。
天井が高いのは城の階は5階まであり、2階に相当する王座の間の天井は5階までの高さがたるからだ。つまり、3階分の高さが天井にある。
「陛下、急で申し訳ありません。しかし、どうしてもご紹介したい方が居るのです」
王に深々と頭を下げたあと、後ろを振り返りウィルを見る。
「ウィル・アーケルドと言います。ご紹介頂き光栄です」
ウィルは膝をつき、拳を前にやり誠意をつく。いつも素っ気ないウィルとは違う姿に、少し驚くミアラ。
そして、王が立ち上がる。
随分と背が小さい。
「ジークリード、ご苦労であった。
私からも改めて紹介しよう。
私はオルガルド国王第15代目、リッグ・エルヴィス・ロン・オルガルドだ」
発言はしっかりしているものの、声は高く何だか幼い。
「陛下は先代王が亡くなられ、即位したばかりになる。そして、その隣にあらせられるのが」
王の椅子の隣。美しい女性が立っている。
「リッグ王の姉、バーヴェナ・エルヴィス・ロン・オルガルドと申します」
バーヴェナはドレスを広げお辞儀をする。
ウィルに視線を送るバーヴェナに、ミアラは少しモヤモヤとする。
(何よ、ちょっと着飾ってお高く気取ってるだけじゃない。あんなのにウィルは引っかからないわ)
ウィルはバーヴェナのことなんか気にもせず、リッグ王だけを見つめていた。
ウィルは殺す目的できた王が、自分よりも幼い人間だったことに落胆した。戦争を起こした先代王は既に死んでいる。今は戦争より後に生まれた子供が王として即位した。
ウィルの恨みを晴らす対象が違いすぎたのである。何より子供を殺すことには抵抗がある。自身のトラウマが少年時代だからだ。自分を殺しているようで…。
ためらいと、晴らすことの出来ない怒りが生じる。
「これで失礼致します」
やり場のない感情が残ったウィルは早々に切り上げた。
謁見は終了した。
ウィルは城下町に即座に降りず、中庭にいた。それは、ジークリードは送迎する前に用を済ませると言い、少し待ってくれと頼んだためだ。ミアラは少し離れたところで待っている。ウィルが少し怖いからだ。
すると、バーヴェナ王女がやってきたのだ。
(王女がこんな所へ何かしら)
ミアラが少し見下す。
「あら、貴方もここへ?」
ウィルは振り返る。バーヴェナ王女が目の前にいた。
「ジークリード将軍を待っているのです」
一応、バーヴェナ王女は王の眷属。敬語を忘れはしない。それはガルバルス帝国で染み付いたもの。
バーヴェナはそこに座り込み、ドレスの裾を広がらす。
「ここは綺麗でしょう。わたくしも良くここへ来るの。空まで高く伸びる城に囲まれ、目の前は絶景。ここの地面は緑に染まっている。」
手で葉をさわり、前を向く。
「閉塞と解放の両方を持ち合わせているの」
スっと立ち上がる。ウィルの方を向きながら。
「ふふ、顔立ちがいいから年上かと思ったけれど。わたくしの方が年上みたいね」
ウィルの顔を見て笑う。ウィルの表情のない顔が幼く見えたのだろうか。
(!!!!)
ミアラの顔が崩れる。目を開き、口をパクパクとさせる。
それはウィルの頬に、バーヴェナが口付けをしていたからだ。
「またいらしてくださいね」
そして、バーヴェナと入れ違いにジークリードがやってくる。
「待たせたな。なぁ、あのお嬢さんどうしたんだ?」
ウィルとジークリードが死んだような顔をしているミアラに顔を向けた。
「さぁな」
ウィルにはミアラの事なんかどうでもいいように、そんなミアラの前を素通りする。
ミアラはそんなウィルを目で追わなかった。
ウィルにとって自分は興味も湧かない人間として映っていると思えてきたのだ。
(あの王女様の事はどう思ってるのかしら…)
ミアラは立ち上がり、ウィルの後をつく。馬車に乗り込み坂を下る。
ガラガラガラ…。
沈黙が続いく。沈黙を切るのはジークリード将軍。
「ウィルくん、君の部屋は手配したよ。先程用事はそれだ。本当は優秀な人は城内にいてほしいのだが、いくら私でも成績を残していない人物を置くことは出来ない」
ジークリードは少し残念そうに話す。しかし、その後にウィルの目を見て話す。興奮気味のようだ。
「10月あたりに遠征があるんだ。そうだな、今は7月だから3ヶ月後だ。隣の大陸ロレンシアにあるマチュ国に行くんだ」
そして、ウィルから少し離れる。少し落ち着いたようだ。
「あそこは長年戦争していてな。隣のパチュ国とずっと戦っている。元々一つの国だがな」
2つの国はある時、2人の王が現れ東西に別れ、人々も別れた。その時から戦争は続いているらしい。
「オルガルドはマチュ国に支援に行っている。なぜマチュ国かは教えられないが。そこで実力を示せ。そしたら、私も堂々と君を城に住まわせることが出来る」
話が終わる頃には馬車は兵舎前まで来ていた。
「話が長くなりすぎた。案内しよう、君の部屋を」
馬車を降りるウィルとジークリード。そしてミアラも…
「すまないが、君はここで待っていてくれ。関係者以外は立ち入り禁止なのでな」
ミアラはそう言われると入口に一人、待っている。ウィルの振り返りを期待したが、何も無かった。