第5章 ウィルの行動
登場人物
ウィル…オルガルドに恨みを持つ少年。ガロルド将軍の命によりオルガルドのスパイとして潜り込む。
ミアラ…父ドルジェから、オルガルドを案内するよう頼まれウィルについて行く。
首都ファルガナに着き、駅を降りる。
首都なだけ、沢山の人々が行き交う。先程の電車は少なかったものの、利用客は多い。
海に隣接するオルガルド王国は、貿易も盛んである。
他の大陸からの輸出入に、同じドルジア大陸に存在する国からの貿易。山でほぼ独立していたガルバルス帝国とは違い、
他の国からの貿易により、更なる発展を遂げている。
オルガルドの大半が海に面しており、水が豊かである。そのため水の都とも呼ばれる。
街に水路はあるのは当たり前で陸地の道はあるものの、ボートで出掛けた方が早いという特徴を持つ。
そしてファルガナの特徴は、なんと言っても丘にそびえ立つオルガルド城。
オルガルド城は防御のために、水路が周りに張り巡らしており、更には段になっている。
そこから滝のように水が落ちていくのだ。
装飾も美しく、緑が豊かに生い茂る。
まさに幻想的。
「綺麗でしょう?ファルガナはね、この絶景を見るためにやってくる観光客が多いの」
だが、この絶景とは裏腹に兵士たちが慌ただしいようだ。
兵士があちらこちらにいる。話をしては何処へ向かう。
「つい最近に政権交代したらしいのよ。だから統制が難しいみたいね」
ウィルは兵士たちに目を追う。
「あいつらはどこへ向かう」
いきなり聞かれた質問に一瞬、戸惑うミアラ。
「え?多分兵舎じゃないかしら…」
そして厳しい顔になっていくウィル。
「どうしたらここの兵になれる」
威圧をかけるように問う。
更なる質問に怯えた表情をみせるミアラ。
「そ、そんなの分からないわ…。強ければなれるのかしら?」
「それはどこだ。案内しろ」
引きもしない、その問答は恐怖を感じさせる。ミアラはそれが怖くて、その問いに応じる。オルガルドの兵舎へ、うる覚えの中案内する。
オルガルドの兵舎。
石造りで、オルガルドの旗が一定間隔で壁に垂らされている。
慌ただしい兵士達もいれば、外で訓練している兵士たちもいる。
そこにズカズカと入っていくウィル。
「ちょ、ちょっと…」
ミアラが止めようと手を伸ばしたところで、
既に中へ入っていた。
「なんだ、お前は。ここは兵舎だぞ。民間人の入る所ではない」
兵舎の外にいた兵士が、ウィルに気づき止める。だが、ウィルは兵士の止めに応じることなく
「剣を貸せ」
「は?何を言っている、聞こえなかったか?ここは民間人の…」
ぐはっ!兵士を殴り飛ばすウィル。
倒れた兵士の剣を奪い、外で訓練している兵士たちの方へ向かう。
「俺が相手になろう」
突然やってきたウィルに兵士たちは動きを止め
「子供は帰った帰った。ここは遊び場じゃないんだ」
ガハハハハハハハッ!ウィルを笑う。
ウィルは気にすることもなく剣をとり、兵士達と並ぶ。
「お?やんのか?」
面白そうに群がる兵士達。剣を構え、ウィルの相手をする。しかし、ウィルが只者では無いことはすぐに分かった。
兵士達の剣さばきの隙という隙をつき、倒していく。少しの隙も見逃さない。
目線の動きに、手の動かす方向。足の向き。
全てにおいて読み、さばく。
「こ、こいつ!タダもんじゃないぞ!」
兵士達が恐れおののく中、兵舎から騒ぎを聞きつけた兵士がやってきた。
兵士は他の兵士と違うようだ。ガロルド将軍のようなマントを羽織り、特別な装飾がしてある。
「なんだ貴様は…」
「ジークリード将軍!」
ウィルの声をかき消すように叫ぶ兵士達。
なるほど、ガルバルス帝国の将軍はガロルド将軍だが、オルガルド王国の将軍はジークリード将軍らしい。
「ふむ、中々滅多にない逸材だ。何処からスカウトしてきた」
ジークリードはウィルの方を感動したような目で見つめる。
「いえ、断っても勝手に入ってきたので応戦したらこのようなことに…」
困ったような声で返答をする兵士。
「こんな強い味方がいれば百人力だ。
早速オルガルド王にお会いして欲しい!こんな逸材がいると!」
なんと早速王と謁見できるというのだ。
これにウィルはニヤリと笑う。
早くも王という目的に出会えるのだから。
一方のミアラ。ウィルという存在に恐怖を抱くようになる。
全ては歯車の狂いから…。
1つ狂い始めた歯車は、やがて他の歯車を狂わせ全てを狂わす。
そう、世界を狂わすかのように…。
ウィルの行動が作者の想像を超えていきます。