第4章 オルガルド王国へ
登場人物
ウィル…元ヴェランド共和国出身。8年前の戦争により家族を失う。
ドルジェ…酒場のオーナー。気前がいい。
ミアラ…ドルジェの一人娘。ウィルにさり気なく(?)アタックしている。
次の日の朝。
ドルジェから貰ったオルガルドの服を着た。
ガルバルスの服は山岳に適した軽装備なのだが、オルガルドの服装はゆったりめである。
平地のオルガルドには関係の無いのかもしれない。
ウィルはオルガルドの服を着て、拳を握る。
この服を着たオルガルドの人間を殺す想像をする。それだけでもゾクゾクする。
ドルジェもミアラも元はオルガルド国民。
だが、殺す気にはならなかった。
「よーし、出発の準備は出来たな!」
「あぁ、ウィルくん!どんな服着ても素敵なのね♡」
ドルジェがウィルの肩に手をやる。
「気をつけていけよ。何しに行くのかはしらんが、ガルバルスからの渡来人だ。目立つような行動は控えた方がいい。それじゃ元気でな!」
なんとなく覚えもしない父親のような気がした。母親の顔も今は…。
「ミアラも気をつけろよ!自分の身は自分で…なんとかなるか!ハハハ」
この時のミアラは少し寂しそうだった。
「戻りたければ戻ればいい」
ウィルの言葉に首を振る。
「お父さんを安心させなきゃ…」
それは何かの思いを持っているかのようだった。
都市ヴィクディのオルガルドに1番近い場所に来た。そこには大きな門がある。
「一応テセリアの玄関だからね。オルガルド側から何があっても防げるようになっているの」
そして指を指すミアラ。
「この向こう側がオルガルド王国。まずは門を開けてもらわなきゃね」
そう言ってミアラは門のそばにある関所にいく。
「オルガルドに行きたいのだけれど、門を開けてもらっても良いですか?」
そんなに簡単に開けてもらえるのか…。
と尋ねる前にミアラが教える。
「テセリアからオルガルドに行くのは簡単なのよ。オルガルドからテセリアに行くには通行手形が必要だけど。
オルガルドには関所があるから、ここには関係ないの」
ギイイイィ…ガラガラガララララ…
鈍い音と埃をたてながら、開いてゆく。
「さぁ!行きましょ!」
ミアラに手を引っ張られ、連れられてゆく。
その先には石造りの砦が待っていた。
テセリアとオルガルドの間には大きな湖が存在する。ドラン湖だ。
この湖をかける大橋を渡る。
「この湖のおかげで私達は水に困らないの」
この橋を渡る道中に何人かとすれ違う。
一般人よりかは、兵士の方が多い。
「最近出入りが多いのよねー。多分テセリアの王様に話を持ちかけてるんでしょ。私たちと仲良くしましょーてさ」
するとミアラがウィルに寄りかかってきた。
「ねー!この際だし、私たちも仲良くー…てあら」
ウィルはお構い無しに進む。
「俺の目的は遊びに行く事じゃない」
この言葉に少しびくっとなるミアラ。
笑いもしない、表情を何一つ変えないウィルにミアラは少しだけ怖いと思った。
2分くらい沈黙が続いた。
そしてオルガルド領の関所に着く。
砦の中に入り、兵士が呼び止める。
「テセリア国からの来訪者か。通行手形を見せろ」
2人は通行手形を見せる。
すると兵士の顔色が変わった。
「これは、テセリア王から直々の…!ははっ、これは失礼致しました」
一歩下がり、お辞儀をする。
「ウィルくん、あなたそれをどこで…」
ウィルは何も知らず、改めて手形を見る。
気にしてはいなかった刻印。
それはテセリア王のサインであったのだ。
「では、行き先をお教えください」
行き先…?
「あ、そうよウィル。ここから電車に乗って街まで行くの」
行き先は…
「オルガルドで1番城に近い場所だ」
一瞬戸惑う兵士。ハッとしたミアラが答える。
「首都ファルガナね!」
「ファルガナ…あちらの1番線へどうぞ」
2人は案内された1番線へと移動をする。
ホームには人がちらほら。
アナウンスが流れる。
《1番線に電車が参ります》
カーブから出てきた電車がこっちへ向かってくる。
降りて来る人をまち、次に乗り込む。
乗り込むと座席の数の割に人は少ない。
真ん中の座席に座る。向かい合うタイプの座席だ。2人は向かい合った。
「ふぅー。オルガルドなんて何年ぶりかしら…」
窓を見つめ、ミアラは呟く。
「お母さんが病気で死んでからテセリアに移ったの」
淡々と語り始めるミアラ。
「私お母さんが大好きで、ずっと泣いてたの。お父さんは私を育てるために酒場を開いたわ。私は泣き止んでやっとお手伝い始めたの。3年前頃かな…。ずっと泣いてたんだ」
ウィルは表情を変えず、窓の外を見つめる。
「考えてみたら、私お父さんに何もしてやれてないや、てね。
ずっとお父さんに甘えてたんだって。
だからお父さんに任せられたものは出来るようにするの!もう大人なんだって安心させるんだ…。今回のも任せられたんだし」
少し沈黙が入る。
「戦争…」
そうミアラが口を開くと、今まで表情を変えなかったウィルが食いついた。
「戦争で何があった」
「え?ううん、違うの。お母さんが病気になった時、戦時中だったんだけれど…。
怪我をした兵士たちを優先的に治療してたから、お母さん後回しになっちゃって…」
その後は続かなかった。
ウィルの表情は、変わらなかった。
だが、オルガルドへの思いは強くなった。
「ごめんね、こんな暗い話長くなっちゃって」
《間もなく、ファルガナに到着致します》
ファルガナに着くと聞き、外を見るウィル。
そこは幻想的な場所であった。
「ここはお城に1番近い所なんだ!
そして、私の住んでいた所…」
ワァアアアアアアアン。
電車の音が鳴り響いた。