第1章 新たな幕開け
あれから8年。オルガルド王国とガルバルス帝国は冷戦状況にあった。
勝利を手にしたオルガルド王国とは違い
敗戦したガルバルス帝国はさらに軍事力を上げていた。
元々帝国なだけあって、軍備に力を入れていた。しかし、地形的な欠点があり敗戦となってしまった。ガルバルス帝国は山が連なっており、元ヴェランド共和国への侵入が難しかった。
あれから8年。飛空艇が完成し、上空からの侵入も可能となった。だが、戦いには踏み込めなかった。
敗戦しただけの戦力がまだ回復していないからだ。不完全なだけでも敗戦を招く。
そのハンデを補うためにスパイを潜り込ませ、内から崩壊させた所を狙うことにした。
そのスパイがガルバルス王の前へと現れる。
黒髪にショート、茶色の虹彩。そして肌の白さ。
ウィルだ。身長も伸び、別人を漂わせるも面影を感じる。
ガルバルス王にウィルに言う。
「私ウィル・アーケルドは8年間、オルガルド王国の破滅のみを考えて修行をして参りました。この日が訪れたこと、光栄に思います」
跪くウィル。これに対しガルバルス王は返す。
「ウィルよ。今回の命、そなたにかかっている。これが成功してこそガルバルスの、お前の望みが達成されるのだ」
「承知しております」
王の隣にいるのはかつてウィルをガルバルスへ連れていった人物。マントをつけた兵士、
ガロルド将軍である。ガロルド将軍が前に出る。
「ウィル、作戦は分かっているな。確認のためもう一度言うぞ」
ガルバルスからのオルガルドの侵入は不可能なため、オルガルドに隣接するテセリア国から侵入。
オルガルドの兵士となり、王との信頼関係を築き殺す。
もちろんバレないように。そうすれば内部から疑いが始まり、統制が取れなくなったオルガルド王国は崩壊する。
そこに戦争をしかけ、ガルバルスの領地下とする。
「ここまでを3年で片付けろ。かかりすぎてはチャンスを失う。
それにお前はオルガルドの人間に怪しまれないはずだ。我々では不可能だからな」
ウィルは黒髪に茶色い瞳を持つ。しかしガルバルスは紫外線の弱い地域のためか、
金髪、碧眼という特徴を持つ。
「王の首を持ち帰れ。それが戦争をしかける合図だ」
「それとウィル。この後手合わせを願おうか。最終確認だ」
ガルバルス城は切り立った山の頂上にある。
この山により、城は守られる。
この山の森の中。ガロルド将軍とウィルは対峙していた。ガロルドの重厚な攻撃とは違い、素早い攻撃をする。
しかしその素早い攻撃とは裏腹に一撃一撃が重く、それにより敵を弱らせていく。
ガロルドもウィルの攻撃をキツそうに防いでいる。
「流石だウィル!全ての一撃に恨みを感じる!いいぞいいぞ……
と…」
ウィルの手はガロルドの急所手前で止めていた。全てに殺気を感じる。
「これで安心したでしょう」
静かに剣を収めるウィル。
「あぁ」
冷や汗を隠しつつ返事をするガロルド。
(ふ、俺もお前もこの世界に踊らされている人間ということを忘れるなよ…)
ガルバルス城内。ウィルの部屋も城内にある。何も無い質素な部屋。着の身着のまま来たウィルは、部屋を飾るものなどなく
空き部屋として放置された部屋に暮らしていた。それはウィルの感情を表すかのように。
復讐という憎しみの傍らに、悲しみが込み上げてくる。ウィルは復讐できる喜びと、当時の記憶が混ざり、笑い泣いていた。
その声は城に響き渡る。どこか不気味で悲しい…。
ーー翌日。朝早くからの出発。
ガルバルス特有の山を下るためだ。
テセリア国はガルバルスより北に位置するため雪が降る。
雪道を通らねばならない。
ガルバルスより、テセリアを渡ってオルガルドに行く商人も多いため足跡はそれなりに残っている。
だがそれ以外の足跡もある。獣の足跡だ。
雪山に暮らしている雪オオカミがよく出没し、商人を襲うのだ。
ウィルが通っていく道にも商人の亡骸をいくつか見かける。
そしてウィルの目の前にも現れる。
だがウィルは恐れず。
これを難なく解決し、テセリア国を目指す。
これを1週間かけて下るのだ。