序章 消えた平和
戦争は憎しみを作り、悲しみをもたらす。
関わった者達は子供であろうとも
その歯車に回される。
この世界で一番の大陸と言われるドルジア大陸。大国オルガルド王国、そしてもう1つの大国ガルバルス帝国。
その2つの大国に挟まれた位置にある小国ヴェランド共和国。その他に5カ国存在する。
ヴェランド共和国は小国ではあるが、豊かな土地である。夏の暑さに適応するため、隙間に適した木造建築の家々。海に隣接しているため、貿易が盛んで、ガルバルス帝国との間に山が存在する。そのため、鉱山も盛んだ。
緑豊かなヴェランド共和国に2つの大国は目をつけていた。
元はオルガルド王国から独立したヴェランド共和国。オルガルド王国は、取り戻そうとする。そのため、ヴェランド共和国にオルガルドの使者がやってくる。だが、ガルバルス帝国も独立したヴェランド共和国を狙い使者を送る。
2つの大国は関係が悪化していった。
ヴェランド共和国に暮らす3人の家族。
その風景は逸脱したところもない、
至って普通である。
「ねぇウィル。パン屋にいってあれを3つ買ってきて頂戴。お昼に使うの」
ウィルと呼ばれた少年は、黒髪にショートの男の子。目が茶色く、肌は白い。
ヴェランド共和国の特徴そのままである。
「はい、お金。お釣りはお駄賃として上げるわ」
「いってきまーす!」
少年ウィルは笑顔で家を出た。
家から少し離れた角のパン屋。
頼まれていたパンを3つ買う。
「あら、ウィルじゃない。これを買いに来たってことは今日はあのメニュー?」
このパン屋の店主。ふくよかな体型に、赤いバンダナ赤いエプロン。
出されたのはシュガーパン。
ウィルがこれを買いに来るのは、ある料理限定である。
パンをちぎってそれをバターで炒め、卵とチーズを入れる。ウィルの大好物料理だ。
「ふふ、今日は機嫌が良いから1つおまけ!」
トングで紙袋の中に入れる。
「おばさんありがとう!」
パン屋を出る。だが、先程とは状況が違う。
人々が慌ただしく逃げるのだ。
「あら、何があったのかしら?」
外に出て様子を見るパン屋のおばさん。
人々が逃げてくる先を見ると、軍隊が押し寄せてきた。
「!!ウィル、早くママの所へ」
「え?」
パァン!!
発砲の音。するとパン屋のおばさんがウィルにもたれかかってきた。
「おばさ…ん?」
おばさんは頭を撃ち抜かれていた。
ーー207年 オルガルド王国とガルバルス帝国、
小国ヴェランド共和国は戦時下にあった。
隣接する3つの国は、2つの大国に挟まれたヴェランド共和国を争奪するため戦っていた。
2つの大国から軍隊が送り込まれ、ヴェランド共和国は戦場と化した。
歩けば死体、死体、死体。崩れた家屋。
木造のためか家はよく燃える。
見上げれば炎に染まる赤い空に黒い煙。
焼け野原と化した街を裸足で走るウィル。
「ハァハァ…」
息を切らし、パンが入った紙袋を抱え、街をかけて行く。
かけた先は崩れかけた家。出かける前と全く違う雰囲気で佇んでいた。
「パパ!ママ!どこ!パン屋に行ったら、いきなり兵隊さんがたくさん来て…!」
中に入る。薄暗くて辺りがよく見えない。
「いてっ!」
何かにつまづく。
目をゆっくりとしたに向ける。
血だらけの男女が折り重なる様に横たわる。
真っ赤に染まった鋼の剣を、女を守るかのように上に横たわる男。
「パパ…ママ…?」
抱えた紙袋を落とす。
「パパー!ママー!返事してよぉ!」
駆け寄り、必死で声をかけるも動く気配はない。
その声は、焼けて火の音だけになった街に響く。それは兵士たちの耳に入った。
ぐしゃっ!
転がったパンが潰れた。
見上げると兵士が立っていた。
鎧には鳥のような国章が入っていた。
子供など切り捨てるもの。戦争には必要ない。兵士が剣を抜く。
剣を下ろす。
空に目掛けて血飛沫が飛ぶ。
地面に落ちたのは腕。
「ひいいいいいい」
兵士の腕が、剣を下ろしたのと同時に切断されたようだ。
ウィルが持つ鋼の剣によって…。
「素晴らしい…」
その様子を見た馬に跨った、マントをつけた兵士。馬からおり、返り血で染まったウィルを見つめる。
「いい目だ。復讐を望む目だ」
ウィルはマントをつけた兵士を睨みつけながら襲いかかる。
しかしその剣は受け止められ、受け流される。
「お前の家族をここまでやったのはオルガルドだ。なぁ坊主。奴らを倒し、復讐を果たしたいか?」
ウィルの目を見て話す。
ウィルは逸らし、倒れた両親を見やる。
手から離れた剣を再度手にし、
「やりたい。パパとママの仕返しをしたい」
マントをつけた兵士はニヤッと笑い、
「そうか、では俺についてこい。ガルバルスの兵士としてオルガルドに復讐をさせてやる」
この時、ガルバルスは敗戦していた。
オルガルドにヴェランド共和国を取り戻され、再戦しようと企んでいたのだ。
ウィル少年は復讐だけを胸に、馬に乗り、
ヴェランド共和国を離れた。
その少年はガルバルスの矛となるか、
それとも…
まだ不慣れです。
暖かい目でお願い致します。