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第三話 誰なんですか、姉さん

 家に帰りついて、カバンを開けると。


「え…」


 見かけなかったものが、あっさりあった。

 例の『粘土』である。

 微妙に、材質が変わって白っぽくなっているようにも見えるけど、まあ気のせいだ。

 いつ入れたんだろうか。


「まあ、いいか。とりあえず…」

 原因のひとつではあるかもしれない、昨日の雑誌を取り出す。


 週刊 邪神を完全復活させよう


 創刊号の、12ページ。

 そんな読み応え無い物買ってたか、ぼく。


 とにかく、不思議なことが起こって不思議じゃないようなこと。

 言ってみれば今日の理不尽の説明があるものなら、それを探したくなるのは人情。

 そう人情に他ならない。


 ぱっと開くと、ようこそ邪神がいっぱいのワンダーランド!と書かれた地図が出てくる。


 見開きで。


 この時点で頭痛い。


 はしっこには生贄の儀式っぽいダークなのがユーモアのつもりなのか幾つも描かれてるのがさらにひどい。


 あと、絵本の雰囲気再現なのか手抜きなのか、大きな文字にひらがなまで含めてフリガナ振っているのが、バカにしているようでいっそ頭が痛い。

 お前の目的は何だ。


 この精神的な苛めをなんとか耐えて読む。


 一応、説明欄はいくつもあるのだ。

 このページだけで。


 ……なになに。


「伝承が途絶えた宗教、宗教的な戦争や弾圧の結果失われた宗教や伝承は数多くあります」

 まあ、あるのかもね。

「特に一神教は自らが崇める存在以外に神が存在しない定義であるため、布教に伴い邪教とされた土着の宗教には、伝承も解析も今はできないものが幾つもあると言われています」


 生贄っぽい絵があるのは、これの補足なのだろうか。


「これらの断片を持ち寄って、信徒すら途絶えて失われた神を見たいと思う人間は、学者と言わず多いようです」

 そうかなあ?そこ飛躍してない?

「そんなあなたもその神が見てみたいはず」


 いやぜんぜん・・・。


「そこでかつての祭壇や遺跡と思われる場所のちょっとした一部を集めてランダムに雑誌に付属!」


 犯罪じゃないんですかねそれは!?


「栄養になるような要素、力の源を与えて大きくしてみようという雑誌がついに創刊」


 大丈夫か?企画した人既に脳みそなんか壊れてないのか?


「みんなで復活させてみよう!きっと対立したものが悪いだけでいい神様もいるかも?」


 居ない可能性を否定したうえでやることはできなかったんかい。


-結論。


「やばいなこれ」

 主教の在り方から批判してるような危険性を感じる。

 いや一神教批判?


 ちょっとこわいな。


「やっぱそうおもいます?」



 ……?


「うわっ」

 おやつを摘まむついでにリビングの床に広げて読んでいたが、それを横から覗き込んでなんか当たり前のように話しかけてきた人がいた。

 だれだよ。


「いやあの・・・」

「はいなんでしょう~?」

「断りなく他人の家に上がり込んでませんか」

 言わないとね?

「…やっぱりいけないものですか」

「家族かその友人でないならたぶん…」

「ですよねぇ」


 一言いうと。

 そくさと。

 当然のようにリビングから速やかに消えていく。


 朝や昼に見た人たちともまた異なる、誰か。

 服装は、昼の謎めいた女性に似ていないこともないか。

 同じ女性ながら、こっちのほうが大人っぽい気はする。

 …誰だったんだ。


「あ、そうそう~」

「?!」

「これ絶対ないよねとおもったら、お問合せ口に電話するのもありだと思います~」

「あ、はいわかりました」

「ではぁ~」

 通報されてしかるべきなのに、なんだろこのフレンドリーさ。

 ちょっといい匂いがしたりしたような…。

 いやいや。

 そんなことを考えるな。

 空き巣みたいなのを追い払ったと思え、それでいいじゃないか。


 気配がなくなったところで、また本に戻る。


 あとは信仰って何だろう、定期購読のやり方、など、特に毒にも薬にもならない内容だった。


「あっ、2号から1280円なんだこれ」

 高いな。


 あと定期購読の特典として10号にもう一度邪神由来アイテムが付きますって書いてる…。

 つまり返本されたぶんのをこれで再利用ってことかな。

 省エネすぎる。

 定期購読はやめとくとして、それと別にもう一冊買っておくのはありかもしれない。

 ちょっと出かけるかな…。

 と。

 

 プルルルルルルル


「あっ電話」

 思い立ったそばから入る横やり。

 姉さんからだ。


「まーくんこんにちわー。さっきブロマイド撮影したんだけどほしくない?」

 …えっ、何してるの。

「まあお姉ちゃん本人のじゃないんだけどね」

「脅かさないで…」

「まあまあ、お姉ちゃん今日遅いと思うから、冷蔵庫の冷食か材料だけ下ごしらえしてあるヅケ三色丼作って食べてね」

「わかったよ」

「できればお姉ちゃんのも作っておいてくれるともっと、愛・し・て・る」

「しとくよ、大丈夫」

「らっきー!」


 いつものことである。


 そうして、もののついでに出かけるつもりも忘れ、夕食の支度。


 そのままちょっとゲームしてお風呂に入って就寝。

 なんとも、いつも通り。

 そう、今日は何もなかった。

 これが一番幸せなのだ。

 思い込め!

 そう思って忘れれば、明日からまた平和に生きられるからだ。


 後日近所から、このくらいの時間に住んでるマンションの階段から転げ落ちて血まみれになっている人が居たという話が伝わってきたが、何も聞かなかったことにした。

 悪い予感がしたので。

 かかわるまい。

 そう常々、心に誓った。

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